上 下
214 / 215
番外編【ディル編】

11. 王妃生活8

しおりを挟む
「ここは…。」

「貴方達の自室であってるかしら?」

私の身体は自室のソファーに腰掛けられている。

「貴方、妊娠しているならもっと身体を大事にしなさいよ。あんな場所に一人で来るなんて…赤ちゃんを殺す気?」

彼女の言葉にどきりとする。
勿論、長距離の移動とスラムに足を踏み入れることがどんなに危険なことか考えなかったわけじゃない。しかし心の何処かでなんとかなる、と思っていたのを見透かされていたようだ。

「…ッ!すまない。」

「私に謝らなくていいわ、お腹の赤ちゃんと旦那さんに謝りなさい。」







それから暫くしてファーが戻ってきた。

「ディル!今もどっ…!誰だ⁉︎」

彼女の姿を見た彼は私を守るように抱き締める。

「…ッ!ファー、落ち着いて。」

彼を宥めるように背中をさするが彼の身体は強張ったままだ。

「はぁ~…お熱いことで。」

彼女の呆れた声が聞こえる。

「…この人は魔術師のアークレット様だよ、何故彼女が此処にいるか説明するからこっちに座って。」

私は冷静に彼をソファーに座らせ、これまでの経緯を説明し始めた。






私の話を静かに聞いていた彼だったが私が話し終えると珍しく怒りを露わにしている。

「…話は分かった。彼女が何故此処にいるのか理解しよう。しかし…ディル!君はなんて危険なことを!」

私の手を握りしめる彼の表情は真剣そのものだ。

「心配かけてごめんなさい。どうしてもフェルに会いたくて無茶をしたんだ、それをアークレット様に諭されて…。赤ちゃんのことも後回しにして本当にごめんなさい…。」

責任感のない自分の行動に今更ながら呆れを感じる。



暫く沈黙が続くとそっと彼に抱き締められた。

「私こそ、すまない。君がそこまで追い詰められているなんて気付きもしなかった…。愛してるが故に君を縛り付けていたんだね。」

自分で起こしたことなのに彼の哀しそうな言葉が心に突き刺さる。正直、彼からの十分すぎるほどの愛に始めは戸惑っていた、しかし彼と過ごす内にその愛情も含めて彼を好きになったのだ。

「ううん、違うよ。私が割り切れなかっただけ。ファーは悪くない。」

私は彼の抱擁に抱き締め返すと自分の頰を相手の頰に擦り付けた。その瞬間、彼は私の身体をより一層強く抱き締めた後、突然彼女に頭を下げた。

「アークレット様、王妃が迷惑をかけて申し訳なかった、どうか私達に君の力を貸してもらえないだろうか。」

突然の行動に私は目を丸くする。
彼は王様という立場から国民や大臣達の見本とならなければない。それ故に一国民に頭を下げるなど本来あってはならないことなのだ。

彼女は私とファーのやり取りを見ながら「王様が一国民に頭を下げるなんてね。」とぼやいている。

しかしファーは行動を改めるつもりはないらしい。

「私の立場は関係ない、妻が迷惑をかけたのだから謝罪するのは当たり前だ、それにここまで彼を無事に帰還させてくれたことにも礼を言う。」

彼女はふぅ~と溜息を吐き「…まぁいいわ、頭を上げて。私はこの依頼を終えたらこの国を去るわ。今後どうなるか分からないけどこの国がずっと栄えていくことを祈ってる、頑張ってね、王様、王妃様。」と微笑むと杖を一振りした。

すると目を見開いて驚く私達の息子マストと目が合った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷徹女王の中身はモノグサ少女でした ~魔女に呪われ国を奪われた私ですが、復讐とか面倒なのでのんびりセカンドライフを目指します~

日之影ソラ
ファンタジー
タイトル統一しました! 小説家になろうにて先行公開中 https://ncode.syosetu.com/n5925iz/ 残虐非道の鬼女王。若くして女王になったアリエルは、自国を導き反映させるため、あらゆる手段を尽くした。時に非道とも言える手段を使ったことから、一部の人間からは情の通じない王として恐れられている。しかし彼女のおかげで王国は繁栄し、王国の人々に支持されていた。 だが、そんな彼女の内心は、女王になんてなりたくなかったと嘆いている。前世では一般人だった彼女は、ぐーたらと自由に生きることが夢だった。そんな夢は叶わず、人々に求められるまま女王として振る舞う。 そんなある日、目が覚めると彼女は少女になっていた。 実の姉が魔女と結託し、アリエルを陥れようとしたのだ。女王の地位を奪われたアリエルは復讐を決意……なーんてするわけもなく! ちょうどいい機会だし、このままセカンドライフを送ろう! 彼女はむしろ喜んだ。

戦略的過保護のち溺愛

恋愛
私は女神様によって物騒な国に転生させられた。 怖いと嫌がったのに、守りの指輪一つ付けられてこの世界に落とされた。 理不尽だ。 私の転生先はキメ王国宰相の娘。両親は私を放置していて私は愛情を受けずに育った。お陰で使用人からも無視され結構悲惨な状況。 そんな中、王国は隣国に攻められ滅びる。殺される寸前に敵である漆黒の騎士に助けられる。 無愛想な漆黒の騎士は帝国の公爵様だった。 漆黒の騎士は私を帝国に連れ帰り婚約した。 不器用なヒーローが少しずつ甘くなっていきます。 最後の方がR18です。 22話 完結

「僕は病弱なので面倒な政務は全部やってね」と言う婚約者にビンタくらわした私が聖女です

リオール
恋愛
これは聖女が阿呆な婚約者(王太子)との婚約を解消して、惚れた大魔法使い(見た目若いイケメン…年齢は桁が違う)と結ばれるために奮闘する話。 でも周囲は認めてくれないし、婚約者はどこまでも阿呆だし、好きな人は塩対応だし、婚約者はやっぱり阿呆だし(二度言う) はたして聖女は自身の望みを叶えられるのだろうか? それとも聖女として辛い道を選ぶのか? ※筆者注※ 基本、コメディな雰囲気なので、苦手な方はご注意ください。 (たまにシリアスが入ります) 勢いで書き始めて、駆け足で終わってます(汗

【完結】8私だけ本当の家族じゃないと、妹の身代わりで、辺境伯に嫁ぐことになった

華蓮
恋愛
次期辺境伯は、妹アリーサに求婚した。 でも、アリーサは、辺境伯に嫁ぎたいと父に頼み込んで、代わりに姉サマリーを、嫁がせた。  辺境伯に行くと、、、、、

【完結】25妹は、私のものを欲しがるので、全部あげます。

華蓮
恋愛
妹は私のものを欲しがる。両親もお姉ちゃんだから我慢しなさいという。 私は、妹思いの良い姉を演じている。

別れた婚約者が「俺のこと、まだ好きなんだろう?」と復縁せまってきて気持ち悪いんですが

リオール
恋愛
婚約破棄して別れたはずなのに、なぜか元婚約者に復縁迫られてるんですけど!? ※ご都合主義展開 ※全7話  

欲情しないと仰いましたので白い結婚でお願いします

ユユ
恋愛
他国の王太子の第三妃として望まれたはずが、 王太子からは拒絶されてしまった。 欲情しない? ならば白い結婚で。 同伴公務も拒否します。 だけど王太子が何故か付き纏い出す。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ

引退したオジサン勇者に子供ができました。いきなり「パパ」と言われても!?

リオール
ファンタジー
俺は魔王を倒し世界を救った最強の勇者。 誰もが俺に憧れ崇拝し、金はもちろん女にも困らない。これぞ最高の余生! まだまだ30代、人生これから。謳歌しなくて何が人生か! ──なんて思っていたのも今は昔。 40代とスッカリ年食ってオッサンになった俺は、すっかり田舎の農民になっていた。 このまま平穏に田畑を耕して生きていこうと思っていたのに……そんな俺の目論見を崩すかのように、いきなりやって来た女の子。 その子が俺のことを「パパ」と呼んで!? ちょっと待ってくれ、俺はまだ父親になるつもりはない。 頼むから付きまとうな、パパと呼ぶな、俺の人生を邪魔するな! これは魔王を倒した後、悠々自適にお気楽ライフを送っている勇者の人生が一変するお話。 その子供は、はたして勇者にとって救世主となるのか? そして本当に勇者の子供なのだろうか?

処理中です...