上 下
79 / 122
第3章

79. 誤解

しおりを挟む
「…いえ、僕には十分すぎるくらいなので…。気を遣って頂いてありがとうございます…。」

凄く情けない。彼の好意に甘える自分に吐き気がした。

こんなこと、やっぱり止めないと…。

「あの…突然ですが僕、もう少ししたら家に帰ります。」

本当は直ぐ城に戻るわけじゃない。街にでも出て宿を探すか短期間でも貸してくれる家を探すつもりだ。

僕の発言にインカさんはハァーと溜息を吐くと「やっぱり居心地が悪いんだな…。」と食事の手を止め、こちらをジッと見つめてくる。僕はその誤解だけでも解きたいと必死に言葉を紡いだ。

「いえ!先程も言いましたが、それは違います!僕が…僕が悪いんです…!いつまでもインカさんの好意に甘えて…!」

「…なに言ってるんだ。ショウは家事もやってくれているしアクアの面倒も見てくれる、俺はかなり助かっているぞ。だから、出て行くなんて言わないでくれ。居心地が悪いと言うなら改善する、言い難いかもしれないがショウはもう俺達の家族なんだ、内緒事は無しだ。」

インカさんに強い口調で言われ、思わず言葉に詰まる。

家族…家族。

「…インカさん…インカさんは僕のことを良い風に見過ぎです。僕は貴方が思っているよりもっと浅ましい人物です…。僕は始めからインカさんなら僕のことを助けてくれると踏んでここに来ました。貴方が僕に好意を寄せているのを知っていたから…。でも…だんだんアクアやインカさんと過ごす内にそんな貴方達の気持ちを利用してお世話になっている自分が許せなくなったんです。アクアにママと呼んでもらえることや僕の作った料理を美味しいと言ってくれる貴方に僕は嬉しくなって舞い上がっていました…。でも、よく考えればあの状況でインカさんは断れなかったはずです、今までご迷惑ばかりおかけして申し訳ありませんでした。」

僕は頭を下げ誠心誠意、謝罪する。

すると「そんなこと、始めから分かっていた。」と予想外の答えが返ってきた。

「えっ…。」

「確かに急に来て簡単な説明しかされなかった時は不満に思ったさ。しかし人それぞれ事情はある。だから、それを俺は無理矢理聞き出そうとは思わなかった。ただいつかショウの口から真実を聞きたいと思っていたが。まぁショウがココに来た理由はなんであれ、それを俺達は受け入れた、ただそれだけだ。ショウが良い奴なのはあの数日でよく分かっている。俺が求婚したくらいだ、良い奴じゃないと困るさ。」

そう言って再び食事を始める彼に僕は情けない思いを隠しながら「…ありがとうございます。」と返した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異能バトル漫画にトリップ直後で黒幕と遭遇するとかふざけんな。~俺は意地でも平凡ライフを送ってやる~

Qoo
BL
上位トレンド入りを起こす程の人気バトル漫画≪異能大戦≫略してーイノセンー。名前の通り異能を持った人間達が何でも願いを叶えるという秘宝≪星屑の涙≫。その秘宝を求めた猛者達が繰り広げる異能バトル漫画にハマっていたこの物語の主人公である青年・目つきの悪い盆陣鵺楼(ぼんじんやろう)。彼は妹・盆陣織田姤(ぼんじんおたく)と共に平凡暮らしをしていたが白梟の仮面を被った謎の集団に襲撃される。深傷を負うもののなんとか妹だけを救出し仲間の1人に妹を託し盆陣は死を迎える筈だった。だが盆陣が意識を取り戻すとそこは見知らぬ薄暗い部屋のベッドの上だった。横から視線を感じた先には人間離れをした麗しい美貌を持つ男が優雅に足を組み座っていた。負傷した盆陣を治療しここまで連れてきたという全身が黒で統一していた怪しげな男。だが初対面であるその男に盆陣はどこか見覚えがあった。 「やぁ。お目覚めかい?怪我してる所悪いけれど少し僕とお話しようか?お兄さん?」 爽やかにそうに笑う彼の瞳は死んでいた。彼から感じていた違和感が解けた盆陣は絶望する。 (おいおい。………マジか。) この男こそがかつて自身が読みあさっていた大人気少年漫画の主人公を散々苦しめた異能大戦略して≪イノセン≫に登場する黒幕・黒磯棗(くろいなつめ)であった。つまり盆陣はここでようやく自身が≪イノセン≫の世界に飛ばされたことを理解したのだった。そして厄介なことに今。凶悪な大量殺人鬼がトリップしたばかりの盆陣の目の前にいる。 (クソ面倒せぇ。) トリップ直後でもう黒幕との接触。窮地に立たされた盆陣の運命はいかに!! ーーただこの盆陣鵺楼という男には世間にもたった1人の家族である妹にも言えない秘密があった。その秘密とは? サイコパス殺人鬼美青年(黒幕)×やる気なしの平凡?(非凡)青年。 異能バトルを舞台にした漫画の世界に飛ばされ盆陣は黒幕から逃げ切り、果たして平凡ライフを送ることができるのか。 そして現実世界で盆陣達を襲った集団の正体は!?

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

オランジュの恋~新たにもう一度育まれる友情はやがて恋になる~

日灯
BL
 初対面のはずなのに感動の再会じみた出会い、何事もなかったかのような日々にハプニング。戸惑いつつも、二人の距離は近づいていく――。  「アヲイには関わるな」と言われて育ったケイトは、彼らに良い印象はなかった。しかしその相手こそルームメイトなのだった。  思い出した記憶によると、彼はケイトにできた初めての友だちだ。それが思わぬことに、相手にとっては初恋だったらしい。――それはもう過去のこと。 「俺たちはきっと親しくなれると思う」  そんな彼の言葉で、新たにもう一度、二人の交流は始まった。  二人の家が不仲なことは周知の事実。友だちになった二人に、人前での会話はない。  密やかに育まれる友情は、やがて形を変えていく。  クラブ活動に恋模様。  対峙する過去、今、未来。  特殊な能力を使えたりと、ちょっとファンタジックな世界観。  主人公の過去、周囲の人々の恋や取り巻く環境など、様々な要素があります。たまにシリアス。  貴族が多い学問所での瑞々しい恋と青春の物語。  2024.1.15 内容を少し直しました。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される

Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木) 読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!! 黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。 死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。 闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。 そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。 BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)… 連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。 拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。 Noah

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜

7ズ
BL
 異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。  攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。  そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。  しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。  彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。  どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。  ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。  異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。  果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──? ーーーーーーーーーーーー 狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛  

俺の伴侶はどこにいる〜ゼロから始める領地改革 家臣なしとか意味分からん〜

琴音
BL
俺はなんでも適当にこなせる器用貧乏なために、逆に何にも打ち込めず二十歳になった。成人後五年、その間に番も見つけられずとうとう父上静かにぶちギレ。ならばと城にいても楽しくないし?番はほっとくと適当にの未来しかない。そんな時に勝手に見合いをぶち込まれ、逃げた。が、間抜けな俺は騎獣から落ちたようで自分から城に帰還状態。 ならば兄弟は優秀、俺次男!未開の地と化した領地を復活させてみようじゃないか!やる気になったはいいが……… ゆるゆる〜の未来の大陸南の猫族の小国のお話です。全く別の話でエリオスが領地開発に奮闘します。世界も先に進み状況の変化も。番も探しつつ…… 世界はドナシアン王国建国より百年以上過ぎ、大陸はイアサント王国がまったりと支配する世界になっている。どの国もこの大陸の気質に合った獣人らしい生き方が出来る優しい世界で北から南の行き来も楽に出来る。農民すら才覚さえあれば商人にもなれるのだ。 気候は温暖で最南以外は砂漠もなく、過ごしやすく農家には適している。そして、この百年で獣人でも魅力を持つようになる。エリオス世代は魔力があるのが当たり前に過ごしている。 そんな世界に住むエリオスはどうやって領地を自分好みに開拓出来るのか。 ※この物語だけで楽しめるようになっています。よろしくお願いします。

処理中です...