次期魔王の教育係に任命された

第2章

46. 甘え

「ハハッ…どうしたの、急に。」

「何となく言いたくなっただけです。前々から思ってました、ショウ様が右も左もわからないこの地に来てから泣き言も言わずに一生懸命、努力されていることを。ですから、何でそんなに落ち込んでいるか分かりませんが、ショウ様ならきっと乗り越えられるはずです。私も少なからず力添え致します、ですから一人で抱え込まないで下さい。」

そう真剣に言ってくれるネフライトに少し泣きそうになった。今まで何も分からない成りに必死に子育てとこの地に慣れる努力をしてきた。自分に与えられた使命として日々過ごしてきたが、僕は何処かこんな風に頑張ったね、と一言言って欲しかったのかもしれない。

「ネフライト…ありがとう。」

「いえ、ショウ様には言葉では言い尽くせないほど感謝しておりますから。」

そう言って立ち上がるネフライトが僕に手を差し伸べてくる。僕はそれに微笑みながら手を添えるとゆっくりと立ち上がった。

そして彼に一つお願いを告げる。すると彼は内容も聞かずに二つ返事で了承してくれた。

「あの…嫌だったら言ってね？…抱き着いてもいい…かな…？」

こんなお願いは面と向かって言えない。30歳近い大人が言い出すことではないし、子供みたいで恥ずかしい。断られる可能性を示唆しながら彼の足元を見つめる。

「ぅわっ！」

突然、彼が僕を勢いよく抱き締めた。ギューギューと痛いほどに僕を抱き締めると「こんなこと、お安い御用です。いつでも仰ってください。」と嬉しそうに告げる。

僕はホッとしながらも未だに恥ずかしさが拭えない中、気が済むまで抱き着かせてもらった。途中、少し泣いてしまったのを彼にバレていないことを願いながら…。



しかし、この時、僕は調子に乗り過ぎてしまったのかもしれない。この光景を誰が見ているかも知らずにー…。







朝食時、ネフライトと共に大広間に足を運んだ僕はいつも通りモリオンの隣に座る。モリオンはすでに席に着いており、こちらを見もせず下を向いたままだ。気まずく思いながらも出された朝食を胃に収めていく。いつもはモリオンがテンション高く僕に話し掛けてくれるおかげで楽しい朝食となるのだが、今日は静かな朝食となってしまった。

そして、朝食を食べ終わるとモリオンがそそくさと部屋を出て行こうとしたので、その態度にショックを受けながらも「モリオン！」と勇気を出して呼び止めた。

しかし彼は一度立ち止まると、また直ぐに足を踏み出しそのまま立ち去ってしまう。彼の後ろ姿を見つめながら扉がバタンと閉められ、僕はその場に立ち竦んだ。