悪役令嬢の弟

ミイ

文字の大きさ
上 下
65 / 154

65. 庇護

しおりを挟む
"ルート様暗殺計画"

これは姉さんがルート様を攻略するのに1番鼻息荒く説明していたので覚えている。

ルート様の兄であり、次の王様候補であるシスト様が部下に命じてルート様を暗殺させる事件である。

ルート様はその容姿もさることながら、物腰の柔らかい雰囲気も相まって街の人々からの評判がいい。それは元々自分が跡継ぎ候補から外れているのが分かっているから自由に街へ出て人々と交流しているだけなのだが、それを跡継ぎになる為の策略だと勘違いした長男がルート様を殺そうとする。

そして、それを助けるのが類稀なる魔力を持ったヒロインなのである。

ゲームではこれでルート様の好感度が抜群に上がり、ルート様はヒロインに意地悪ばかりするブルーマリーを婚約者から外し、ヒロインと結ばれるというシナリオだ。

なので、ここでヒロインを退学させてしまってはルート様を助ける人が居なくなってしまう。ルート様がいなくなればブルーマリーも結婚どころかショックのあまり何をしでかすか分からない。それは何としても僕が防がなくては。



僕はヒロインに尋問する2人に声を掛けた。

「あの!差し出がましいのは重々承知で申し上げますが、バイオレット様が棄権になってしまったのは僕のせいですし、彼女を許しては頂けませんか?」

僕の発言に皆、目を見開く。

「確かに物を盗むことはいけないことですが、自分を引き取ってくれたご両親のことを思ってしてしまったという彼女の優しい心に免じてどうか穏便に済ませて頂けませんか?」

苦しい言い訳だとは分かっているが…僕の将来の為、引くことは出来ない。

「…バルサムは自分のせいだと言われて腹が立たないのか?」

「そうですよ、それこそ言い掛かりです。」

2人はそう言うが、僕がゲームの流れを変えてしまったことには変わりない。

「僕は気にしませんよ、事実ですから。それよりこのことは他の生徒の方々は知っているんですか?」

「…いや、生徒会で事件を収拾させたから教員以外は知らないだろう。」

「…!良かった!なら、このお話はこの場で終わらせて下さい。」

「しかし!盗みを働いたバイオレットにお咎め無しというのは軽すぎる。何か罰を与えなければ。」

「じゃあ1週間、生徒会のお手伝いというのはどうですか?」

「なんだと?」

「そしたら彼女がどれだけ反省しているか、真面目にやっているかが分かっていいと思うんです。どうですか、マリタイム様?」と僕はあえてコールの方を見て微笑む。

するとコールは「えっ…?えぇ…良い案だね、トルー…。」と無理くり納得してくれた。

「おい、スコッチ。お前まで了承するな。…なら、お前達はどう思う?」

そう言った会長は書記と会計の方に目線を向ける。

書記のメチルは「私も出来れば大事にしたくないので、それでいいですよ。」と言い、会計のダマスは「食堂のチケットは返して下さいね。」と答えた。

「はぁ~…お前達は甘すぎる…。しかし、今回はバルサムの厚意に免じてそれくらいにしといてやろう。バイオレット、次は無いと思え。」

僕はバイオレットの肩を持つと「それでは失礼します。」と言って部屋を後にした。




2人で廊下を無言で歩き、校門に差し掛かった頃「余計なお世話でしたか?」と聞いてみる。

しかし彼女は僕から鞄を受け取ると無言で立ち去ってしまった。僕はその後ろ姿を見ながら「これで良かったんだよね…。」と呟いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

腐男子は神様に願望を叶えてもらいました

ミイ
BL
腐男子である橘 裕太(17歳)は友達と初詣の帰り、バイクに轢かれ亡くなってしまう。 しかし、彼の想定外の死を神様が哀れに思い、異世界へ転生させてもらうこととなった。 生前はごくごく平凡でBL小説サイト巡りを趣味としていた彼は神様にお願いをして理想の容姿、スキル付加をしてもらいファンタジーの世界で自由に生きることとなる。 しかし、神様が付加してくれたスキルは自分の要望したスキルだけではなく… 初投稿です。 読み専でしたが、自分の理想を詰め込んでみようと思い書いてみました。 先のことを考えずに書いていきますので、辻褄が合わないことが多々あると思いますが気楽に読んで頂ければと思います。 一話ごとはそんなに長くないです。 *本編 完結しました *番外編 執筆中 *本編 編集中

ゲームの悪役令息の(死ぬ予定の)弟に転生したけど俺は必死に生き残ります!

佐倉もち
BL
前世地球の日本という場所で生まれ育った俺。社畜だった俺の趣味は、普通は女の子が好きだろうものを集めること。その趣味のせいで親には飽きられていたけど好きなものは好きでいたい。 そんな俺は推しのためにお金を稼ぐ末過労死してしまい、ちょうかっ……こいい?神様に一方的に話されたと思ったら次の瞬間まあ不思議!自分が大好きだったゲームの中に! でもあれ?おかしい。1番目のお兄ちゃんの名前は攻略者だし、2番目のお兄ちゃんの名前は悪役令息。あーっ!?俺もしかして物語序盤には死んでたのあのキャラクターになってる!? ?????× 侯爵家の天使(死亡予定) いやかっこ死亡予定とかいらねぇし!死ぬ予定ないし! ※R18シーンには話のタイトルに♡をつけさせていただきます。 ※本当にのんびり気ままに投稿します。ゆっくり御付き合いください。 ※凄く長いです。物凄く長くなると思います。 ※作者の性癖宝箱です。

悪役令嬢の双子の兄

みるきぃ
BL
『魅惑のプリンセス』というタイトルの乙女ゲームに転生した俺。転生したのはいいけど、悪役令嬢の双子の兄だった。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

弟に殺される”兄”に転生したがこんなに愛されるなんて聞いてない。

浅倉
BL
目を覚ますと目の前には俺を心配そうに見つめる彼の姿。 既視感を感じる彼の姿に俺は”小説”の中に出てくる主人公 ”ヴィンセント”だと判明。 そしてまさかの俺がヴィンセントを虐め残酷に殺される兄だと?! 次々と訪れる沢山の試練を前にどうにか弟に殺されないルートを必死に進む。 だがそんな俺の前に大きな壁が! このままでは原作通り殺されてしまう。 どうにかして乗り越えなければ! 妙に執着してくる”弟”と死なないように奮闘する”兄”の少し甘い物語___ ヤンデレ執着な弟×クールで鈍感な兄 ※固定CP ※投稿不定期 ※初めの方はヤンデレ要素少なめ

もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人と、騎士見習の少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。

冷酷な少年に成り代わってしまった俺の話

岩永みやび
BL
気が付いたら異世界にいた主人公。それもユリスという大公家の三男に成り代わっていた。しかもユリスは「ヴィアンの氷の花」と呼ばれるほど冷酷な美少年らしい。本来のユリスがあれこれやらかしていたせいで周囲とはなんだかギクシャク。なんで俺が尻拭いをしないといけないんだ! 知識・記憶一切なしの成り代わり主人公が手探り異世界生活を送ることに。 突然性格が豹変したユリスに戸惑う周囲を翻弄しつつ異世界ライフを楽しむお話です。 ※基本ほのぼの路線です。不定期更新。冒頭から少しですが流血表現あります。苦手な方はご注意下さい。

【完結】TL小説の悪役令息は死にたくないので不憫系当て馬の義兄を今日もヨイショします

七夜かなた
BL
前世はブラック企業に過労死するまで働かされていた一宮沙織は、読んでいたTL小説「放蕩貴族は月の乙女を愛して止まない」の悪役令息ギャレット=モヒナートに転生してしまった。 よりによってヒロインでもなく、ヒロインを虐め、彼女に惚れているギャレットの義兄ジュストに殺されてしまう悪役令息に転生するなんて。 お金持ちの息子に生まれ変わったのはいいけど、モブでもいいから長生きしたい 最後にはギャレットを殺した罪に問われ、牢獄で死んでしまう。 小説の中では当て馬で不憫だったジュスト。 当て馬はどうしようもなくても、不憫さは何とか出来ないか。 小説を読んでいて、ハッピーエンドの主人公たちの影で不幸になった彼のことが気になっていた。 それならヒロインを虐めず、義兄を褒め称え、悪意がないことを証明すればいいのでは? そして義兄を慕う義弟を演じるうちに、彼の自分に向ける視線が何だか熱っぽくなってきた。 ゆるっとした世界観です。 身体的接触はありますが、濡れ場は濃厚にはならない筈… タイトルもしかしたら途中で変更するかも イラストは紺田様に有償で依頼しました。

処理中です...