悪役令嬢の弟

ミイ

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56. 生きる糧

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「…貴方は生きる価値を魔力の高さや体力の有無だと本当に思ってるんですか?…僕は生きる価値はそんなもので決まるとは思っていません。僕は自分の存在意義は自分で決めるものだと思っています。貴方が自分のことを生きる価値の無い人間だと思っていても他の人にとってはそうではないかもしれない。貴方がいることで他の人が笑顔になれば、それだけで貴方は人の役に立ち、価値があるのです。」

「でも…!私はずっと居ない者だと扱われてきました…こんな仕打ちはもう沢山です…!死んで楽になりたい…!」

僕は思わず声を荒げる。

「…死にたいなど簡単に言わないで下さい!貴方はこれから努力すれば誰よりも上にいける可能性がある!でも僕はいくら努力しても15歳まで生きられないかもしれない…!僕からすれば努力さえしていない貴方はとても贅沢な人間だ。だから未来が不確かな僕の前で死にたいと軽はずみに言わないで下さい…!」

僕は言ってからはハッとする。彼女を勇気付けるどころか完全な八つ当たりだ。

自分はこのゲームで没落ルートを回避出来なければ、死んでしまう運命。だから、目の前で自分の命を蔑ろにしようとする人がいればどうしても許せなかった。

「…申し訳ありませんでした。こんなこと貴方に言うことでは無かったですね…。失礼します。」

僕はこれ以上、彼女に掛ける言葉が見つからず背を向けた。そして暫く歩いた時…「あのっ!」と呼び止められる。

「あの…!貴方の境遇も知らず…すみませんでした…。貴方の言う通りです…私は今の立場に甘えていました…。自分は侯爵家に生まれ跡継ぎを約束された立場だと。だから自分がどんなに能力が低くとも跡継ぎになれるのだと思っていました。しかし、私が思っていたより現実は厳しく、それに反発しかしませんでした…父親に言われた時も心を改め努力すれば良かったのにそれもせず怠けてばかりで…。私…私は…これから努力します!貴方に言われ目が覚めました!だから!私がどれだけ頑張ったかを15歳の貴方に見てほしい!だからそれまで貴方も死なないで!お願いします!私に生きる糧を下さい!」

そう涙ながらに叫ばれる。

僕はこういう時、安請け合いをするべきではないことは分かっていたが、きっと彼女との出会いも脇役の自分にはこれっきりだと思い「わかりました。」と答えてしまう。

すると彼女は続けてこう叫ぶ。

「どうか貴方の名前を教えて下さい!」

「…トルーです。貴方は?」

「私は…マッ…マリーです!いつか私とまた会って下さいますか?」

僕はその言葉に確信は持てなかったが「はい。」と答え、それを聞いた彼女は嬉しそうに笑うと身体を翻し駆けて行った。
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