上 下
9 / 81

9. 逃走

しおりを挟む
それから4日経った。

僕がロータスさんにお世話になって6日目。明日は約束の7日目だ。

明日には僕はロータスさんに連れられて王家に行かなければならない。実をいうと僕はそうなるギリギリまで待っていた。何故ならロータスさんは買い物の時に必要な材料が書かれたメモと少し余分にお金をくれる。余った分はお小遣いとして自由に使っていいと言われているので、僕は逃走資金としてそれを貯めていた。

僕は買い終えた材料をキッチンのテーブルに置くと部屋に戻り、麻袋にTシャツとローブ、タオル、水筒と少量の食料を入れ部屋を後にする。

玄関のノブに手を掛けた時、短期間だがお世話になったロータスさんの顔が浮かび申し訳なく思ったが自分の自由の為には仕方ないと思うようにかぶりを振った。

そして先程まで居た街まで歩き出す。

現在の時刻はだいたい15時くらい。本当は今日の夜にでも逃げようかと思ったが、流石に夜中の森を通る勇気がない。なのでロータスさんが仕事から帰ってくるまでに少しでも遠くに行けたらいいか、という計画でこの時間だ。このまま街の娼館にでも行こうかと思ったが、流石にこんなに近ければロータスさんにバレてしまうと思った僕はせめて隣町までどうにかして行こうと決めた。

そして運良く通りがかった農家のおじさんに声をかけ、一緒に馬車に乗せてもらうことができた。

荷台には家畜用の豚が5匹積まれており、草や果物を食べながらプヒプヒと言っている。それを尻目に僕はおじさんに質問をした。

「あの…変なことを聞きますが、僕、何歳に見えますか?」

「えぇ?」

とおじさんは惚けた顔をする。

「そうだなぁ…20歳から22歳くらいか?」

それを聞いてガッカリした。

「やっぱりそうなんだ…僕、かなり若く見えるんですね。実は僕、40歳なんですよ?」

と言うとほんわかしていたおじさんの顔が驚愕の表情となり「おい、それは言い過ぎだろう…!そんなすぐバレる嘘はつかんほうがいい。」と言ってきた。

「いや、本当なんですって!それに僕…今から行く街で娼夫として働こうと思ってるのに…。」

としおらしく言ってみた。

するとおじさんも

「えぇ…そうなのか…?そう言うってことは本当なんだろうが、どう見たって成人を越えてるとは思えないぞ?」

と真面目な顔して言ってくる。

「…う~ん、それでもなんとか交渉してみます。あの…おじさん!おじさんは娼館を利用したことはありますか!?」

「えぇ!?また思い切ったことを聞いてくるな…まぁそりゃあ、人並みにはな…。」

と照れ臭そうに言う。

「じゃあ娼館でランクの中盤くらいの娼館を教えてほしいんですが…。」

「ああ…それは別に構わないが高級娼館じゃなくていいのか?アンタみたいな小綺麗な感じなら高級娼館でも雇ってもらえそうなのに。」

「はい、高級娼館じゃなくていいんです!僕、そこまで見た目がいいと思ってないんで。」

僕がそう言うとおじさんは「いや…そんなことないが…。」と言いながら娼館について考えてくれた。




僕が何故、高級娼館を選ばなかったのか。

それはそんなところで働き出したら貴族の人が客として来るからだ。そうなると僕の素性がバレた時に直ぐにでも王家に連れて行かれるだろう。それはなんとしても避けたいので高級娼館は始めから選択肢から外した。そして低ランクの娼館は住み込みで働けるかわからないし、何をさせられるかわからない。せめて、それなりの雰囲気の店で働きたいのが僕の願望である。

おじさんは少し考えると

「じゃあ"ウィンターグリーン"という店はどうだ?その店ならランクで言うと5番目だ。俺も1度しか利用したことはないが、全体的に白を基調とした建物と内装で、娼夫も礼儀正しい印象だった。」

「へぇ~そういうお店があるんですね、じゃあ街に着いたら早速訪ねてみます。ありがとうございました。」

「いや、いいが…本当に娼館で働くのか?」

「はい。えっと…僕じゃ難しいでしょうか?」

「いや、そういうわけじゃない。しかし、娼館がどんな仕事をするか分かってるのか?」

「それは勿論。僕、40歳って言ったじゃないですか、経験もそれなりです。」

と笑顔で答える。

「…なら反対はしないが、しんどくなったら辞めるんだぞ。もし行く宛が無かったら俺のとこに来たっていい。」

おじさんはまたもや真剣な顔で言ってくる。その親切が嬉しい。

「フフッ、おじさん、お気遣いありがとうございます。きっと大丈夫です。僕、頑張りますから。」

とお礼を言い、僕がそこで働き出したらいつか来て下さいね!とお誘いも忘れず告げた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される

Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木) 読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!! 黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。 死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。 闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。 そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。 BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)… 連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。 拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。 Noah

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

【完結】白い塔の、小さな世界。〜監禁から自由になったら、溺愛されるなんて聞いてません〜

N2O
BL
溺愛が止まらない騎士団長(虎獣人)×浄化ができる黒髪少年(人間) ハーレム要素あります。 苦手な方はご注意ください。 ※タイトルの ◎ は視点が変わります ※ヒト→獣人、人→人間、で表記してます ※ご都合主義です、あしからず

処理中です...