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番外編
②お気に入りのぬいぐるみ-Ⅰ
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──ジュードがエルフリーデの部屋に招かれて一緒に遊んでいたある日のこと。
幼い婚約者の部屋にはいつ来ても抱えきれないほど沢山のぬいぐるみが置いてある。どうやらエルフリーデの両親は彼女が欲しがるもの全てを買い与えているようだ。一人娘ということもあって両親に溺愛されて育てられているのが目に見える愛情たっぷりの部屋。
そしてエルフリーデは両親から貰ったぬいぐるみ一つ一つをとても大切にしていて、その全部に名前を付けている。ジュードが部屋に来る度に、丁寧にぬいぐるみの名前を教えてくれるから何時の間にかジュードもぬいぐるみの名前をだいぶ覚えてしまった。
「リー、このこは?」
「にゃーにゃ」
ジュードは手にした猫のぬいぐるみを傍らに置いて、順々に他のぬいぐるみをエルフリーデに見せていった。
「じゃあこのこは?」
「ワンちゃん!」
「じゃあこれは?」
「うーまっ」
「…………」
それにしてもだ。いったい何処でその呼び方を覚えた? ジュードが手にした幾つかのぬいぐるみを再度見せると、エルフリーデはキャッキャッと楽しそうにぬいぐるみの名前を口にしていく。
「これは?」
「たぬぽん!」
「た……えっと、じゃあこっちのこは?」
「きつねね!」
「…………」
「うさぴょんっ!」
「…………」
「パタパタ~」
「…………」
「うーまっ」
狸、狐、兎、鳥、そして最後は馬。エルフリーデは馬のぬいぐるみを見せると何故か間延びした呼び方をする。それも必ず呼び捨てにするのは馬だけだ。いったい誰に教えられたのか。どれもこれも何とも面白い名前が付けられていて真面なのは犬か猫くらいだ。
「そう言えば、リーはどれが一番好きなの?」
「うーまっ」
「…………」
よりにもよって馬なのか。そうい言いたくなるところをジュードはグッと堪えた。
先程からずっと注目していたぬいぐるみ。それも一番シンプルで個性的な呼び方のそれが一番のお気に入りとは。いったいどんなからくりなのか。エルフリーデの頭の中が知りたくなって、ジュードは何度も繰り返しエルフリーデにぬいぐるみを見せてその可愛らしい口から動物の名前を延々言わせ続けていたら……
「あの、ジュード様? いったい何の遊びをされていらっしゃるのですか?」
紅茶を乗せた大きなトレーを両手に抱えてマリアがやってきた。エルフリーデより1つ年下のマリアはとてもしっかりしていて、幼いながらももう一人前といえるくらい完璧にエルフリーデのお世話係をこなしている。
「それにその……お嬢様が息を切らしていらっしゃるようですが……」
「えっ?」
マリアに言われて振り向くと、言われた通り肩で荒く息をしているエルフリーデの姿があった。
「にゃ、にゃ~にゃぁ~」
目をうるうるさせて息をゼエゼエ必死に吐き出しながら、エルフリーデはジュードが持っている猫のぬいぐるみの名前を口にした。可愛い顔を真っ赤にさせて明らかに酸欠状態のエルフリーデが何かの試練にでも耐えているかのような顔付きでジュードを見ている。それも今にも泣き出しそうだった。
「──あっ! ご、ごめんね! リー」
そう言えば息つく暇もないくらい沢山ぬいぐるみを代わる代わる見せていた気がする。エルフリーデの花びらのような唇から出てくる拙い言葉。その独特の音程と言い回しが妙に面白くてすっかり夢中になっていた。
「じゅ、ジュードぉ~」
ふにゃ~んと緩い声で涙を零す寸前の顔をしている幼い婚約者を急いで抱き寄せてよしよしと頭を撫でた。エルフリーデの機嫌を損ねた時はそうすると、何時もなら機嫌を直して嬉しそうにジュードにひっついてくるのに。今回は違っていた。
「リー? 機嫌直らないの?」
ムーッとほっぺたを最大限まで膨らませてエルフリーデは怒っていた。怒っていたといっても見た目が可愛すぎて全く迫力がない上に、何だかんだでジュードにひっつきながら怒っている姿は矛盾し過ぎていて面白い。
「エルフリーデはね。うーまっすきなの」
「うん、知ってるよ」
「いちばんすきなの」
「リー? どうしたの急に?」
「だからね。エルフリーデうーまっのりたいの」
突然馬の話を始めた婚約者の意図するところをジュードは察した。どうやらエルフリーデを酸欠状態にしたことを許す交換条件に乗馬をさせてくれとエルフリーデは言いたかったらしい。
「とうさまとかあさまにものりたいってエルフリーデちゃんといったの。そしたらね。いつかねっていってたの。だからね。エルフリーデうーまっのってもいい?」
どうやら両親に乗馬をしたいといったら「何時かね」と断られてしまったらしい。けれど直接的に断られなかった為、エルフリーデは駄目と言われたことを理解していなかった。その両親に言われた何時かが来るのを心待ちにしていたようで。そしてどうやら今回のご機嫌取りの条件としてその”何時か”が提示されていることに、ジュードはどうしたものかと軽く頭を押さえてしまった。
幼い婚約者の部屋にはいつ来ても抱えきれないほど沢山のぬいぐるみが置いてある。どうやらエルフリーデの両親は彼女が欲しがるもの全てを買い与えているようだ。一人娘ということもあって両親に溺愛されて育てられているのが目に見える愛情たっぷりの部屋。
そしてエルフリーデは両親から貰ったぬいぐるみ一つ一つをとても大切にしていて、その全部に名前を付けている。ジュードが部屋に来る度に、丁寧にぬいぐるみの名前を教えてくれるから何時の間にかジュードもぬいぐるみの名前をだいぶ覚えてしまった。
「リー、このこは?」
「にゃーにゃ」
ジュードは手にした猫のぬいぐるみを傍らに置いて、順々に他のぬいぐるみをエルフリーデに見せていった。
「じゃあこのこは?」
「ワンちゃん!」
「じゃあこれは?」
「うーまっ」
「…………」
それにしてもだ。いったい何処でその呼び方を覚えた? ジュードが手にした幾つかのぬいぐるみを再度見せると、エルフリーデはキャッキャッと楽しそうにぬいぐるみの名前を口にしていく。
「これは?」
「たぬぽん!」
「た……えっと、じゃあこっちのこは?」
「きつねね!」
「…………」
「うさぴょんっ!」
「…………」
「パタパタ~」
「…………」
「うーまっ」
狸、狐、兎、鳥、そして最後は馬。エルフリーデは馬のぬいぐるみを見せると何故か間延びした呼び方をする。それも必ず呼び捨てにするのは馬だけだ。いったい誰に教えられたのか。どれもこれも何とも面白い名前が付けられていて真面なのは犬か猫くらいだ。
「そう言えば、リーはどれが一番好きなの?」
「うーまっ」
「…………」
よりにもよって馬なのか。そうい言いたくなるところをジュードはグッと堪えた。
先程からずっと注目していたぬいぐるみ。それも一番シンプルで個性的な呼び方のそれが一番のお気に入りとは。いったいどんなからくりなのか。エルフリーデの頭の中が知りたくなって、ジュードは何度も繰り返しエルフリーデにぬいぐるみを見せてその可愛らしい口から動物の名前を延々言わせ続けていたら……
「あの、ジュード様? いったい何の遊びをされていらっしゃるのですか?」
紅茶を乗せた大きなトレーを両手に抱えてマリアがやってきた。エルフリーデより1つ年下のマリアはとてもしっかりしていて、幼いながらももう一人前といえるくらい完璧にエルフリーデのお世話係をこなしている。
「それにその……お嬢様が息を切らしていらっしゃるようですが……」
「えっ?」
マリアに言われて振り向くと、言われた通り肩で荒く息をしているエルフリーデの姿があった。
「にゃ、にゃ~にゃぁ~」
目をうるうるさせて息をゼエゼエ必死に吐き出しながら、エルフリーデはジュードが持っている猫のぬいぐるみの名前を口にした。可愛い顔を真っ赤にさせて明らかに酸欠状態のエルフリーデが何かの試練にでも耐えているかのような顔付きでジュードを見ている。それも今にも泣き出しそうだった。
「──あっ! ご、ごめんね! リー」
そう言えば息つく暇もないくらい沢山ぬいぐるみを代わる代わる見せていた気がする。エルフリーデの花びらのような唇から出てくる拙い言葉。その独特の音程と言い回しが妙に面白くてすっかり夢中になっていた。
「じゅ、ジュードぉ~」
ふにゃ~んと緩い声で涙を零す寸前の顔をしている幼い婚約者を急いで抱き寄せてよしよしと頭を撫でた。エルフリーデの機嫌を損ねた時はそうすると、何時もなら機嫌を直して嬉しそうにジュードにひっついてくるのに。今回は違っていた。
「リー? 機嫌直らないの?」
ムーッとほっぺたを最大限まで膨らませてエルフリーデは怒っていた。怒っていたといっても見た目が可愛すぎて全く迫力がない上に、何だかんだでジュードにひっつきながら怒っている姿は矛盾し過ぎていて面白い。
「エルフリーデはね。うーまっすきなの」
「うん、知ってるよ」
「いちばんすきなの」
「リー? どうしたの急に?」
「だからね。エルフリーデうーまっのりたいの」
突然馬の話を始めた婚約者の意図するところをジュードは察した。どうやらエルフリーデを酸欠状態にしたことを許す交換条件に乗馬をさせてくれとエルフリーデは言いたかったらしい。
「とうさまとかあさまにものりたいってエルフリーデちゃんといったの。そしたらね。いつかねっていってたの。だからね。エルフリーデうーまっのってもいい?」
どうやら両親に乗馬をしたいといったら「何時かね」と断られてしまったらしい。けれど直接的に断られなかった為、エルフリーデは駄目と言われたことを理解していなかった。その両親に言われた何時かが来るのを心待ちにしていたようで。そしてどうやら今回のご機嫌取りの条件としてその”何時か”が提示されていることに、ジュードはどうしたものかと軽く頭を押さえてしまった。
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