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本編

28.トラウマの元凶

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 突然現れて。とんでもないことを口にした従兄弟にエルフリーデはとことん噛みついた。また傷付けられるのは嫌だった。幼かった頃は言われるままに傷付いて悲しんで、そして最後はこれ以上傷付きたくなかったから、もう近づかないように関わることがないように逃げ出した。それしか出来なかったから。
 だからそうしてあのとき逃げ出した先にいたジュードに、エルフリーデはずっと男の子達から怖くて逃げ出したことを言えないでいる。そんな弱い自分を知られたくなくてエルフリーデは無意識のうちに幼い頃から男の子を避けるようになった。
 今でも近くにいて話をするようなことになると指先が必ず震え出す位にエルフリーデは男の子が苦手で。唯一そうならないのは身内の人間とジュードだけだ。

「やっぱり知らないのか……まぁ、俺から言うのも何なんだけど……」
「なに? 言ってちょうだい。言いかけて途中で止められても気になるじゃないの」
「じゃあ言うけどさ、これ、ジュードには俺から聞いたって絶対に言うなよ?」
「言わないわよ! そんな告げ口みたいなこと、わたししないんだからっ!」

 鼻息荒くむんっと怒って両手をグッと握り占めているエルフリーデに従兄弟ははぁっと溜息をついて渋々と言った様子で話し出した。

「……あの後、しばらくしてエルフリーデに酷いこといって追い返した奴らは全員ジュードに単身で呼び出されたんだよ」
「呼び出された?」
「うん、で怒られた。危ないから関わらせないようにするにしても、もう少しやり方があるだろうって、それはもうすごい剣幕けんまくで怒られてさ。まあ確かにその通りなんだけど」
「……そうだったの」
「だからそれ以降は俺たち誰もエルフリーデに近づいていないだろ?」
「え、ええ」
「ジュードにエルフリーデに近づくなって牽制けんせいされてたんだよ。それにご両親にもエルフリーデのことがバレてもちろん全員接近禁止を言い渡されたんだ。だから本当はこうして俺がエルフリーデと話してるの知られたら不味いんだけどさ。何というかまあ、今回はその、……たまたまジュードが傍にいないみたいだったからチャンスだと思ったんだよ」
「チャンス……? チャンスって?」 
「……一度、どうしても言っておきたかったんだよ。酷いことしてごめんって。ちゃんとエルフリーデに謝りたかったんだ」
「…………」

 指先の震えを何気なく手を組んで素知らぬ顔で必死に押さえながら、何年越しもの謝罪にエルフリーデは口をつぐんでしまう。正直なところもう関わりたくないのが本心で。けれどエルフリーデに話し掛けてきた目の前の従兄弟はあの時感じた醜悪な印象とだいぶ違っていた。だから大人しく話を聞いてしまったのかもしれない。

「ああ、それとこれは聞いた話だけど。あの後もエルフリーデに手を出そうとした奴等はみんなジュードに返り討ちにされて、俺たちみたいにからかったやつらもみんなことごとく叩きのめされてたみたいだぞ? ちなみにジュードが学習院をトップの成績で卒業したのだってエルフリーデの為だって知ってる?」
「えっ?」
「その様子じゃあそれも知らないのか。ジュードってマゾなのかな?」
「失礼ね! ジュードに限ってそんなことあるはずないじゃない!」

 ジュードのことになると途端に元気になるエルフリーデに苦笑しつつ、従兄弟は話を続けた。

「だよな。だったらよっぽどエルフリーデが大事ってことなんだろうなぁ」
「どういうことなの?」
「俺たちみたいに幼少期にエルフリーデに近づいた奴ら以外はエルフリーデが男を怖がってるって知らないから。だからジュードはけをしたんだよ」
「こ、怖がってなんかいないわよ! ……それにけって? ジュードは何をしたの?」
「エルフリーデに近づきたければ学習院を卒業するまでにジュードを倒すこと。それが出来なければスッパリ諦めろってな」
「……えっとぉちょっと待って? 諦めろって何? 意味がわからな……」
「エルフリーデは気付いてなかったみたいだけど、ジュードと婚約する前によく学習院にこっそり忍び込んでたんだろ? その時にエルフリーデを見かけた奴らは大勢いて。エルフリーデは可愛いしそれにえあるクルツ公爵の一人娘だろう? 婚約者がいるいないに関わらず色んな意味でお近づきになりたいって奴らは大勢いたんだ」
「???」
「何そんな不思議な顔してるの? モテモテだって言ってるのに」
「いえ、あの……ちっともというか少しもモテた覚えがないので」
 
 今までの17年間。男の人から言い寄られた経験など一度もなかった。それどころか近寄られてもいない。いつも遠巻きに距離を取られてエルフリーデはとことん避けられていた。何か用事があるときだって腫れ物に触るように扱われて必要最低限の会話しかしたことがない。けれどもそれら全ての事柄がジュードによるものだったなんてエルフリーデは今まで一度も考えたこともなかった。
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