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本編
23.愛しい感情
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唐突にそれも嵐のように現れた台風の子供のようなエルフリーデは、それまで築かれてきたジュードの常識をことごとく打ち破っていった。
まず第一にエルフリーデはまったくジュードの言うことを聞かなかった。もう自分の元には来るなと何度言おうが、追い返して暫く立つとまたひょっこり何食わぬ顔で現れる。そうしてやってくるのだから少しはジュードに懐いてもいいはずなのに、エルフリーデは懐くどころか始めはずっと警戒していた。
遠目から観察されて、それも警戒を含んだ目で後を追われる。時折振り返り名前を呼ぶと威嚇されて距離を取られるのだからジュードは扱いにほとほと困り果てていた。
この子はいったい何なんだ? 何がしたくて僕にまとわりつく?
目的が分からなかった。こんな小さな子供の考えている事が読めない。そんなことは今までなかったことだった。人の考えを読むのは簡単だ。だから相手が何を望んでいるのか。自分に何を求めているのか。それを察して動く事などジュードには容易に出来る。
息をするように嘘を付き。周りをそして自分自身を欺いてきた見せかけの世界。その世界で唯一ジュードの偽りに気付いたのがエルフリーデだった。エルフリーデは単刀直入に聞いてきた。自分はジュードに必要とされていないのかと。
人を軽視することに慣れ、互いを必要だと嘘の感覚を相手に抱かせることに長けていたジュードの嘘を、エルフリーデはその角度によっては金にも見える大きな茶色の幼い瞳で見抜いていた。
『ジュードもそうおもう? エルフリーデはいらない?』
だからそう聞かれた時は心臓が飛び跳ねるくらい驚いて、言葉を失った。普段から神童だと言われ大人と同じように扱われるのが当たり前で。王子というジュードの身分にばかり固執する媚びた連中の相手をしているうちにジュードもそれにすっかり毒されていたことに気付かされた。
そしてジュードも他の子供と同様、同じ感情を持った子供なのだとエルフリーデに認識されて。それまでずっと大人と同じように扱われてきたジュードもエルフリーデと同じ子供なのだと教えられて。
エルフリーデにそう言われてやっとジュードは浮ついた現実味のない世界から、現実の世界に足を下ろせたような気がした。そんな地に足が付く感覚を取り戻せたのは何にも知らない小さな女の子で。だからジュードはエルフリーデが気になった。
自分にそれを気付かせてくれたエルフリーデという女の子がどういう子なのか知りたくて。異性との接触を禁じている学習院の規則を破りエルフリーデを遊びに誘い、そうして王城の庭園でこっそり会うようになった。
それまで規則を破るなんて行動を取ったことのないジュードが初めて大人のルールを破った。それもエルフリーデに会うためにそれまで築き上げてきた信頼を失うことも厭わずに。
そうして会ううちに分かってきたことは、エルフリーデは拙い言葉でよく話をするということ。何事にも一生懸命で全力で遊ぶ。編んだ花冠をジュードの頭に乗せるのが好きで。日向ぼっこと木登りと、そして花畑に身体を横たえて寝るのが好き。男の子がする遊びを好む。元気でやんちゃでおてんばな女の子は、ジュードが優しく声をかけるとすごく喜んでいつも満面の笑みを返してくる。
クルクルとよく動く表情は見ていてあきないし、甘いチョコレートみたいにも見える美味しそうな栗色のふわふわした髪は触るととても柔らかくて気持ちいい。
エルフリーデからはいつも温かいお日様の匂いがした。そしていつも一緒に遊んでいたジュードも自然とエルフリーデと同じ匂いに染まっていった。
エルフリーデはとても小さくて儚く見えるのに、触れると温かくて柔らかくて気持ちいい。お日様の匂いがする女の子は一緒にいると気持ちが和んで穏やかになれる。エルフリーデはジュードに卑屈な感情など抱かせない。エルフリーデといると細かなことなどどうでもよくなってくる。ただただ優しく柔らかな愛しい存在。
そうして会っていくうちに、ジュードの中でエルフリーデという女の子を構成しているその全てが、何もかもが単なる興味から愛しいという感情へと変わっていった。
エルフリーデの角度によって金にも見える大きな瞳は一緒に遊んでいる時は絶えずジュードを映し出している。次第にその瞳を独占したいと思うようになった。そして例え一時であれ、そこに映る男が自分以外の者になることを許せないと思える位に、いつの間にかジュードはエルフリーデを深く愛してしまっていた。
まず第一にエルフリーデはまったくジュードの言うことを聞かなかった。もう自分の元には来るなと何度言おうが、追い返して暫く立つとまたひょっこり何食わぬ顔で現れる。そうしてやってくるのだから少しはジュードに懐いてもいいはずなのに、エルフリーデは懐くどころか始めはずっと警戒していた。
遠目から観察されて、それも警戒を含んだ目で後を追われる。時折振り返り名前を呼ぶと威嚇されて距離を取られるのだからジュードは扱いにほとほと困り果てていた。
この子はいったい何なんだ? 何がしたくて僕にまとわりつく?
目的が分からなかった。こんな小さな子供の考えている事が読めない。そんなことは今までなかったことだった。人の考えを読むのは簡単だ。だから相手が何を望んでいるのか。自分に何を求めているのか。それを察して動く事などジュードには容易に出来る。
息をするように嘘を付き。周りをそして自分自身を欺いてきた見せかけの世界。その世界で唯一ジュードの偽りに気付いたのがエルフリーデだった。エルフリーデは単刀直入に聞いてきた。自分はジュードに必要とされていないのかと。
人を軽視することに慣れ、互いを必要だと嘘の感覚を相手に抱かせることに長けていたジュードの嘘を、エルフリーデはその角度によっては金にも見える大きな茶色の幼い瞳で見抜いていた。
『ジュードもそうおもう? エルフリーデはいらない?』
だからそう聞かれた時は心臓が飛び跳ねるくらい驚いて、言葉を失った。普段から神童だと言われ大人と同じように扱われるのが当たり前で。王子というジュードの身分にばかり固執する媚びた連中の相手をしているうちにジュードもそれにすっかり毒されていたことに気付かされた。
そしてジュードも他の子供と同様、同じ感情を持った子供なのだとエルフリーデに認識されて。それまでずっと大人と同じように扱われてきたジュードもエルフリーデと同じ子供なのだと教えられて。
エルフリーデにそう言われてやっとジュードは浮ついた現実味のない世界から、現実の世界に足を下ろせたような気がした。そんな地に足が付く感覚を取り戻せたのは何にも知らない小さな女の子で。だからジュードはエルフリーデが気になった。
自分にそれを気付かせてくれたエルフリーデという女の子がどういう子なのか知りたくて。異性との接触を禁じている学習院の規則を破りエルフリーデを遊びに誘い、そうして王城の庭園でこっそり会うようになった。
それまで規則を破るなんて行動を取ったことのないジュードが初めて大人のルールを破った。それもエルフリーデに会うためにそれまで築き上げてきた信頼を失うことも厭わずに。
そうして会ううちに分かってきたことは、エルフリーデは拙い言葉でよく話をするということ。何事にも一生懸命で全力で遊ぶ。編んだ花冠をジュードの頭に乗せるのが好きで。日向ぼっこと木登りと、そして花畑に身体を横たえて寝るのが好き。男の子がする遊びを好む。元気でやんちゃでおてんばな女の子は、ジュードが優しく声をかけるとすごく喜んでいつも満面の笑みを返してくる。
クルクルとよく動く表情は見ていてあきないし、甘いチョコレートみたいにも見える美味しそうな栗色のふわふわした髪は触るととても柔らかくて気持ちいい。
エルフリーデからはいつも温かいお日様の匂いがした。そしていつも一緒に遊んでいたジュードも自然とエルフリーデと同じ匂いに染まっていった。
エルフリーデはとても小さくて儚く見えるのに、触れると温かくて柔らかくて気持ちいい。お日様の匂いがする女の子は一緒にいると気持ちが和んで穏やかになれる。エルフリーデはジュードに卑屈な感情など抱かせない。エルフリーデといると細かなことなどどうでもよくなってくる。ただただ優しく柔らかな愛しい存在。
そうして会っていくうちに、ジュードの中でエルフリーデという女の子を構成しているその全てが、何もかもが単なる興味から愛しいという感情へと変わっていった。
エルフリーデの角度によって金にも見える大きな瞳は一緒に遊んでいる時は絶えずジュードを映し出している。次第にその瞳を独占したいと思うようになった。そして例え一時であれ、そこに映る男が自分以外の者になることを許せないと思える位に、いつの間にかジュードはエルフリーデを深く愛してしまっていた。
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