18 / 58
本編
16.ジュードの失敗
しおりを挟む
ジュードの胸元で頬をピンク色に染めながらぐずぐずと泣いているエルフリーデを、ジュードは改めて抱え直すとコツンと額に額を当ててエルフリーデの顔を覗き込むように話し掛けた。
「リー? そんなに泣いたら目が腫れちゃうよ?」
うにゅっと涙ぐんで上目遣いにエルフリーデがジュードを見上げてくる。涙で潤んで赤くなった茶色の大きな瞳が少し痛々しい。先程よりだいぶ泣く勢いがおさまってはきたものの。まだエルフリーデはジュードの胸の中でシクシクと泣き続けていた。
けれどもいつまでもこうしていては埒が明かないし、なによりまた何かの拍子に落ち着きを失ってエルフリーデが下着姿のまま暴走するようなことになったら本気でジュードは困ることになる。だから起爆スイッチがどこにあるの分からない地雷原を歩いているような感覚に苦笑しながらも、問題解決のためにジュードはどうしても地雷原へと一歩足を踏み出す必要があった。
「そろそろ何か話してくれないかな?」
「…………」
「リーは僕のこと、本当に嫌いになった?」
エルフリーデを警戒させないようにジュードは細心の注意を払ってエルフリーデに優しく穏やかな口調で話し掛けた。頬に手を当てて顔を近づける。そうすることでエルフリーデが安心することをジュードは知っていた。すると、それまで頑なに口を閉ざしていたエルフリーデがようやく結んでいた唇を解いて、必死な表情を浮かべながら蚊の鳴くような声で答えた。「違う」と小さく首を横に振って答えるエルフリーデの目元に段々とまた涙が溜まってきている。そうして最後にはやっぱりまた本格的に泣き出してしまった。
「何が怖いの? リーはどうしてそんなに不安なの? 僕がリーを抱かないのがそんなに嫌? そうしない僕は信用できないのかな?」
「……そんなこと、ひっく、ないもの、ひっく」
「だったら……」
「やっぱり、ひっく……」
「ん?」
「ひっく、バニーガール姿の方が、ひっく、良かったのかなぁ……」
「…………」
何だそれは……と、ジュードは訳の分からない事を呟いて目に涙を溜めているエルフリーデへ静かな視線を送った。何と言っていいのかわからない。
普段からどんな難題も容易にこなす。問題解決が得意なジュードにもこのエルフリーデの思考にはとんと付いていけない部分がある。どう回答すれば正解なのか分からない。けれどそんな訳の分からない理解出来ないエルフリーデという女の子をジュードは深く愛していたし。どんなに理解が出来なくても可愛くて仕方がない存在であることに少しも変わりはなかった。
それにしてもどうしてそこまで不安になるのか。エルフリーデがジュードを愛しているのは確信できる。ジュードがエルフリーデを愛していることもこんなにハッキリとしているのに。何がエルフリーデをそこまで追い詰めているのかジュードには分からない。不安になるようなことをしないように気をつけていても想定外の行動ばかりとるエルフリーデを理解しきれないことに、ジュードは珍しく苛立ちを感じていた。
「ねえ、リーはどうして……ん?」
訳の分からない事を呟いてジュードの手に背中を摩られて優しくあやされていたエルフリーデの身体から急に力が抜けた。コテンと首をジュードの胸元に預けてすやすやと寝息を立て始める。エルフリーデはジュードが心の中で葛藤している間に泣き疲れて眠ってしまったようだった。
泣きながら眠ってしまったエルフリーデの唇を指先で軽く触れてジュードはハァッと深い溜息を付いた。エルフリーデの行動に困るのはジュードにはよくあることで、だいぶ慣れてきていたはずだったのに今回の件はさすがに堪えた。完全に読み間違えたし。失敗した。
悪ふざけのような行動なら軽くあしらうことも丸め込むことも容易に出来る。けれど今回、エルフリーデは本気だった。だからジュードは扱いに困って、普段から王子様としての完璧な立ち振る舞いをそつなくこなすジュードにしては珍しく下手を打ってしまったのだ。
「リー? そんなに泣いたら目が腫れちゃうよ?」
うにゅっと涙ぐんで上目遣いにエルフリーデがジュードを見上げてくる。涙で潤んで赤くなった茶色の大きな瞳が少し痛々しい。先程よりだいぶ泣く勢いがおさまってはきたものの。まだエルフリーデはジュードの胸の中でシクシクと泣き続けていた。
けれどもいつまでもこうしていては埒が明かないし、なによりまた何かの拍子に落ち着きを失ってエルフリーデが下着姿のまま暴走するようなことになったら本気でジュードは困ることになる。だから起爆スイッチがどこにあるの分からない地雷原を歩いているような感覚に苦笑しながらも、問題解決のためにジュードはどうしても地雷原へと一歩足を踏み出す必要があった。
「そろそろ何か話してくれないかな?」
「…………」
「リーは僕のこと、本当に嫌いになった?」
エルフリーデを警戒させないようにジュードは細心の注意を払ってエルフリーデに優しく穏やかな口調で話し掛けた。頬に手を当てて顔を近づける。そうすることでエルフリーデが安心することをジュードは知っていた。すると、それまで頑なに口を閉ざしていたエルフリーデがようやく結んでいた唇を解いて、必死な表情を浮かべながら蚊の鳴くような声で答えた。「違う」と小さく首を横に振って答えるエルフリーデの目元に段々とまた涙が溜まってきている。そうして最後にはやっぱりまた本格的に泣き出してしまった。
「何が怖いの? リーはどうしてそんなに不安なの? 僕がリーを抱かないのがそんなに嫌? そうしない僕は信用できないのかな?」
「……そんなこと、ひっく、ないもの、ひっく」
「だったら……」
「やっぱり、ひっく……」
「ん?」
「ひっく、バニーガール姿の方が、ひっく、良かったのかなぁ……」
「…………」
何だそれは……と、ジュードは訳の分からない事を呟いて目に涙を溜めているエルフリーデへ静かな視線を送った。何と言っていいのかわからない。
普段からどんな難題も容易にこなす。問題解決が得意なジュードにもこのエルフリーデの思考にはとんと付いていけない部分がある。どう回答すれば正解なのか分からない。けれどそんな訳の分からない理解出来ないエルフリーデという女の子をジュードは深く愛していたし。どんなに理解が出来なくても可愛くて仕方がない存在であることに少しも変わりはなかった。
それにしてもどうしてそこまで不安になるのか。エルフリーデがジュードを愛しているのは確信できる。ジュードがエルフリーデを愛していることもこんなにハッキリとしているのに。何がエルフリーデをそこまで追い詰めているのかジュードには分からない。不安になるようなことをしないように気をつけていても想定外の行動ばかりとるエルフリーデを理解しきれないことに、ジュードは珍しく苛立ちを感じていた。
「ねえ、リーはどうして……ん?」
訳の分からない事を呟いてジュードの手に背中を摩られて優しくあやされていたエルフリーデの身体から急に力が抜けた。コテンと首をジュードの胸元に預けてすやすやと寝息を立て始める。エルフリーデはジュードが心の中で葛藤している間に泣き疲れて眠ってしまったようだった。
泣きながら眠ってしまったエルフリーデの唇を指先で軽く触れてジュードはハァッと深い溜息を付いた。エルフリーデの行動に困るのはジュードにはよくあることで、だいぶ慣れてきていたはずだったのに今回の件はさすがに堪えた。完全に読み間違えたし。失敗した。
悪ふざけのような行動なら軽くあしらうことも丸め込むことも容易に出来る。けれど今回、エルフリーデは本気だった。だからジュードは扱いに困って、普段から王子様としての完璧な立ち振る舞いをそつなくこなすジュードにしては珍しく下手を打ってしまったのだ。
1
お気に入りに追加
1,666
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
隠れ御曹司の手加減なしの独占溺愛
冬野まゆ
恋愛
老舗ホテルのブライダル部門で、チーフとして働く二十七歳の香奈恵。ある日、仕事でピンチに陥った彼女は、一日だけ恋人のフリをするという条件で、有能な年上の部下・雅之に助けてもらう。ところが約束の日、香奈恵の前に現れたのは普段の冴えない彼とは似ても似つかない、甘く色気のある極上イケメン! 突如本性を露わにした彼は、なんと自分の両親の前で香奈恵にプロポーズした挙句、あれよあれよと結婚前提の恋人になってしまい――!? 「誰よりも大事にするから、俺と結婚してくれ」恋に不慣れな不器用OLと身分を隠したハイスペック御曹司の、問答無用な下克上ラブ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる