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本編
6.エルフリーデの悩み
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エルフリーデの手を掴んだジュードの表情がちょっと怖い。いつもより真剣な顔付きでそれも掴んだ手に少し力を入れてジュードがエルフリーデのことをグイッと強引に引っ張った。突然腕を引かれてエルフリーデはジュードの胸元へ転げるように入り込み、そのしなやかな腕の中に抱き留められた。
「ジュード……?」
不意打ちにエルフリーデはジュードの胸元から顔を上げて驚きに目を丸くした。どう考えてもいつものジュードがする行動ではなかった。
「こんなに細くて力もないのにどうやって勝つつもり? それこそ怪我をして寝込むのがオチだと思うんだけど」
「──っ!」
皮肉も込めて強く言い切ったジュードの行動が、エルフリーデのことを心配しているからだということは分かっている。けれどお前は弱いと言われたような気がして、元来気が強くてちょっとおてんばで負けず嫌いのエルフリーデにその言葉は酷く堪えた。けしてエルフリーデを軽視しての言葉ではないけれど。ジュードにだからこそ言われたくない言葉だった。
「お、女だからってなめないでよっ!」
「舐めてない。だけどリーが僕に勝てないのは事実でしょ?」
「じゃあジュードより強くなれば、強いって証明すれば祭事に出てもいいの?」
「ちょっとまってよ。リー、どうしたらそういう話になるの?」
「ジュードがわたしのこと弱いっていったから」
「弱いなんて言ってないでしょ?」
「いったもの!」
「言ってないよ。リーが僕に勝てないとは言ったけど」
「同じことでしょっ!」
「でもね。男と女じゃ力が違うし、どうしたって勝てないのは分かるでしょ?」
「そんなことないわよ! わたしだってもっと練習すればきっと……」
「勝てないよ」
「~~~~っ! ジュードのばかァッ!」
公爵家の令嬢に生まれたエルフリーデは一人娘ということもあって両親に溺愛されて育った。家に一人置いていくのを危惧した両親に連れられて両親の仕事場である王城に幼い頃からよく連れて行かれたのだが。公爵家当主のエルフリーデの両親と国王であるジュードの両親は仕事の話し合いとなるとトコトン妥協せず、長時間の話し合いを続けることがほとんどで。子供達から目を離しがちだった。
仕事柄、互いの主張が食い違ったとき言い争いになるようなこともしばしばで、けれど旧知の仲ということもあって本来はとても仲が良い。だから二人が婚約した後もジュードとエルフリーデが二人っきりで会うのを止めることはなく。おかげでずっと一緒に遊んでずっと一緒に時を過ごして。そうして同じ時間を共有しながら大人になることが出来た。
今こうして王城にあるジュードの部屋で気兼ねなく一緒にいられるのも全部両親が婚約を取り計らってくれたからなのだが……幼い頃から婚約している婚約者同士。だからこそお互いのことをよく知っている。エルフリーデにとってジュードは大切な幼なじみで大切な婚約者で恋人だ。だけど、それにしてもだ。
「どうしてそう頭が固いのよ! わたしも参加したいっていってるでしょっ!」
「駄目だよリー。危ないって言ってるでしょ?」
何かしたくても事あるごとに大人になったジュードが立ちはだかる。それも危ないからだとか、女の子がすることじゃないだとか。昔はあんなにやることなすこと全部受け入れてくれたのに。正直、今では両親よりも小うるさい。
恋人と言うよりも最近は完全に保護者の域じゃないの! 冗談じゃないわよ! 欲しいのは甘~い恋人で口うるさい保護者じゃありませんっ! と、エルフリーデは心の中で思いっきり非難した。
口では言わない。というか言えない。何故なら言っても結局最後は頭の良いジュードに上手く丸め込まれてしまうのが分かっているからだ。
「…………」
「リー? 分かった?」
「…………」
「今度は黙りで逃げるつもり?」
「……いじわる」
「どうして?」
「だって、ジュードに口で敵うはずないもの。何か言えばまた上手く言い負かす気でしょ?」
「リーそれが分かっているなら僕の言うこと聞いてくれる?」
「い~やっ! それよりもう手を離してっ」
ジュードの腕の中でエルフリーデが悔し紛れにジタバタと暴れていたら仕方ないなとジュードが手を離してくれた。解放されてエルフリーデはふて寝するようにソファーの上にガバッとうつ伏せた。
「ジュード……?」
不意打ちにエルフリーデはジュードの胸元から顔を上げて驚きに目を丸くした。どう考えてもいつものジュードがする行動ではなかった。
「こんなに細くて力もないのにどうやって勝つつもり? それこそ怪我をして寝込むのがオチだと思うんだけど」
「──っ!」
皮肉も込めて強く言い切ったジュードの行動が、エルフリーデのことを心配しているからだということは分かっている。けれどお前は弱いと言われたような気がして、元来気が強くてちょっとおてんばで負けず嫌いのエルフリーデにその言葉は酷く堪えた。けしてエルフリーデを軽視しての言葉ではないけれど。ジュードにだからこそ言われたくない言葉だった。
「お、女だからってなめないでよっ!」
「舐めてない。だけどリーが僕に勝てないのは事実でしょ?」
「じゃあジュードより強くなれば、強いって証明すれば祭事に出てもいいの?」
「ちょっとまってよ。リー、どうしたらそういう話になるの?」
「ジュードがわたしのこと弱いっていったから」
「弱いなんて言ってないでしょ?」
「いったもの!」
「言ってないよ。リーが僕に勝てないとは言ったけど」
「同じことでしょっ!」
「でもね。男と女じゃ力が違うし、どうしたって勝てないのは分かるでしょ?」
「そんなことないわよ! わたしだってもっと練習すればきっと……」
「勝てないよ」
「~~~~っ! ジュードのばかァッ!」
公爵家の令嬢に生まれたエルフリーデは一人娘ということもあって両親に溺愛されて育った。家に一人置いていくのを危惧した両親に連れられて両親の仕事場である王城に幼い頃からよく連れて行かれたのだが。公爵家当主のエルフリーデの両親と国王であるジュードの両親は仕事の話し合いとなるとトコトン妥協せず、長時間の話し合いを続けることがほとんどで。子供達から目を離しがちだった。
仕事柄、互いの主張が食い違ったとき言い争いになるようなこともしばしばで、けれど旧知の仲ということもあって本来はとても仲が良い。だから二人が婚約した後もジュードとエルフリーデが二人っきりで会うのを止めることはなく。おかげでずっと一緒に遊んでずっと一緒に時を過ごして。そうして同じ時間を共有しながら大人になることが出来た。
今こうして王城にあるジュードの部屋で気兼ねなく一緒にいられるのも全部両親が婚約を取り計らってくれたからなのだが……幼い頃から婚約している婚約者同士。だからこそお互いのことをよく知っている。エルフリーデにとってジュードは大切な幼なじみで大切な婚約者で恋人だ。だけど、それにしてもだ。
「どうしてそう頭が固いのよ! わたしも参加したいっていってるでしょっ!」
「駄目だよリー。危ないって言ってるでしょ?」
何かしたくても事あるごとに大人になったジュードが立ちはだかる。それも危ないからだとか、女の子がすることじゃないだとか。昔はあんなにやることなすこと全部受け入れてくれたのに。正直、今では両親よりも小うるさい。
恋人と言うよりも最近は完全に保護者の域じゃないの! 冗談じゃないわよ! 欲しいのは甘~い恋人で口うるさい保護者じゃありませんっ! と、エルフリーデは心の中で思いっきり非難した。
口では言わない。というか言えない。何故なら言っても結局最後は頭の良いジュードに上手く丸め込まれてしまうのが分かっているからだ。
「…………」
「リー? 分かった?」
「…………」
「今度は黙りで逃げるつもり?」
「……いじわる」
「どうして?」
「だって、ジュードに口で敵うはずないもの。何か言えばまた上手く言い負かす気でしょ?」
「リーそれが分かっているなら僕の言うこと聞いてくれる?」
「い~やっ! それよりもう手を離してっ」
ジュードの腕の中でエルフリーデが悔し紛れにジタバタと暴れていたら仕方ないなとジュードが手を離してくれた。解放されてエルフリーデはふて寝するようにソファーの上にガバッとうつ伏せた。
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