上 下
6 / 58
本編

4.初めてのキス

しおりを挟む
 あれからジュードは何かを考え込むような仕草しぐさで静かに口を閉ざしている。

 ……ど、どうしよう? 
 ジュードもしかしてちょっとおこってる?  

 天使のようなジュードの不興ふきょうを買ってしまったような気がして、祈るように手を合わせた。ドキドキしながらエルフリーデが反応を待っていると、ジュードが指でちょいちょいとエルフリーデを呼んだ。

「ジュード?」

 不思議に思って名前を呼びながらそろそろと近づいて顔をのぞき込む。

「ごめんなさい。タラシっていったのそんなにイヤだった?」

 機嫌を直して欲しいとその天使のように綺麗な顔を両手のひらでくるんで謝罪する。困惑した様子で不安そうにエルフリーデが視線を送ると、ジュードがくすりと笑ってエルフリーデの腰に手を回してきた。互いの距離が近づいてピッタリと身体がくっつくいて、するとジュードからふんわりと温かい日溜ひだまりの匂いがしてきた。
 その温かな匂いを嗅いでいると気持ちが自然とやわらいだ。ジュードの匂いになごんでエルフリーデが呑気のんきにもほわほわとした気分で、ボーッとジュードにくっついてたら。エルフリーデの目を覚まさせるようにジュードが互いの額をコツンと当ててきた。今度はジュードの方からのぞき込むように見られてちょっぴりドキドキしてしまう。

「うん。だからね、エルフリーデからキスしてくれたら許してもいいよ?」
「き、キスっ!?」

 いつもよりちょっと強気なジュードにエルフリーデはたじたじになる。ソワソワと足を動かしてチラッとジュードを横目で見た。

 ……キスってあのキスだよね? 

 幼いながらもキスが何なのかをエルフリーデはちゃんと分かっていた。大人同士がするもので、本当に好きな人としかしてはいけないものだと両親から聞いていたから。エルフリーデは困ってしまった。

「あのっ! ……キスっておとなになったらするものなんでしょ? スキなひとじゃないとしちゃダメって、かあさまたちがいってたよ?」
「でも僕達は結婚の約束までしてるんだし、大人じゃなくてもいいんじゃないかな?」
「そっかぁ~そうだよね! わたしジュードのことスキだよ?」
「僕もリーのこと好きだよ。だからしても大丈夫でしょ?」
「うん! それならだいじょうぶだね! ……あっでも……」
「どうしたの?」
「わたしどうすればいいのかな?」

 唇と唇をくっつければいい。それは分かっていてもそれまでの段取りというか近づき方がどうにも分からない。キスとはなんだかいろいろ難しそうだ。幼いエルフリーデが可愛い頭を使って一生懸命悩んでいるとジュードがくすくす笑って優しくエルフリーデの頭をでた。
 
「簡単だよ。僕の方にリーが顔を近づけてくれればいいだけだよ?」
「このままちかづければいいの?」
「ほらっおいで?」
「うん……」

 エルフリーデはジュードに言われるまま無邪気に近づいた。ジュードに顔を寄せるとなんとなく自然に互いの唇がくっついて、柔らかいジュードの唇の感触にエルフリーデは不思議な気分になる。
 天使のような容貌ようぼうをしたジュードに上手く丸め込まれていることにも気付かずに、エルフリーデは初めての幼いキスをジュードと交わした。

 そうして少ししてジュードがエルフリーデから顔を離して目を開けると、パッチリと大きな茶色の瞳を開けてエルフリーデが不思議そうな顔をしてジュードを見ていた。

「……リーもしかして、キスしてる間ずっと目を開けてた?」
「えっ? とじなきゃダメなの?」
「駄目じゃないけど……一般的には閉じるかな?」
「そうなの? じゃあいまのはしっぱいのキス?」
「そんなことないよ。でも、そうだね……できるならもう一度、今度は目を閉じてキスしてくれる?」
「うん、わかった。こんどはめをとじればいいんだよね?」
「そうだね。僕も閉じるからそれに合わせてリーも一緒に閉じてごらん?」
「うんっ! ジュードのいったとおりにする!」
「……本当にリーは素直で可愛いな」
「えっ? ジュードのほうがかわいいよ?」

 エルフリーデはジュードにファーストキスとそしてセカンドキスも、幼いうちから着々と奪われていることにも気付かず。ジュードをしたって傍を離れることなく。その後もエルフリーデが王城を訪れる度に秘密の庭園でささやかな逢瀬おうせを繰り返し、そうして一緒に幸せな時を重ね続けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

腹黒伯爵の甘く淫らな策謀

茂栖 もす
恋愛
私、アスティア・オースティンは夢を見た。 幼い頃過ごした男の子───レイディックと過ごした在りし日の甘い出来事を。 けれど夢から覚めた私の眼前には、見知らぬ男性が居て───そのまま私は、純潔を奪われてしまった。 それからすぐ、私はレイディックと再会する。 美しい青年に成長したレイディックは、もう病弱だった薄幸の少年ではなかった。 『アスティア、大丈夫、僕が全部上書きしてあげる』   そう言って強姦された私に、レイディックは手を伸ばす。甘く優しいその声は、まるで媚薬のようで、私は抗うことができず…………。  ※R−18部分には、♪が付きます。 ※他サイトにも重複投稿しています。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

【完結】R18 狂惑者の殉愛

ユリーカ
恋愛
7/21追記:  ご覧いただいてありがとうございます!HOTランクイン嬉しいです!  二部完結しました。全話公開予約済み。完結に伴いタグを修正しています。よろしければ二部もお付き合いください。二部は視点が変わります。  殉愛とは、ひたむきな愛を守るために命を賭すことです。 ============  エルーシア(エルシャ)は幼い頃に両親を亡くした侯爵令嬢だった。唯一の肉親である侯爵家当主でエルーシアを溺愛する異母兄ラルドに軟禁されるように屋敷の中で暮らしていた。  そんな中で優しく接してくれる馬丁のエデルと恋仲になる。妹を盲愛する義兄の目を盗み密会を重ねる二人だったが‥‥  第一部は義兄と家人、二人の男性から愛され求められ翻弄されるヒロインのお話です。なぜ翻弄され流されるのかはのちにわかります。  兄妹×三角関係×取り合い系を書いてみたくて今までとちょっと違うものを目指してみました。妹をドロドロにガチ愛する兄(シスコンではないやつ)がダメでしたら撤退でお願いします。  さて、狂っていたのは一体誰だったんでしょうかね。  本作品はR18です。第一部で無理やり表現があります。ご注意ください。ムーンライトノベルズでも掲載予定ですがアルファポリス先行です。  第13話より7時20時で毎日更新していきます。完結予定です。  タイトルの※ はR18を想定しています。※以外でもR18未満のベタベタ(キスハグ)はあります。 ※ 世界観は19世紀初頭ヨーロッパもどき、科学等の文明なし。魔法スキルなし物理のみ。バトル要素はありません。 ※ 二部構成です。二部にて全力で伏線回収します。一部は色々とっ散らかっております。黒幕を予想しつつ二部まで堪えてください。

[R18]引きこもりの男爵令嬢〜美貌公爵様の溺愛っぷりについていけません〜

くみ
恋愛
R18作品です。 18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。 男爵家の令嬢エリーナ・ネーディブは身体が弱くほとんどを屋敷の中で過ごす引きこもり令嬢だ。 そのせいか極度の人見知り。 ある時父からいきなりカール・フォード公爵が婚姻をご所望だと聞かされる。 あっという間に婚約話が進み、フォード家へ嫁ぐことに。 内気で初心な令嬢は、美貌の公爵に甘く激しく愛されてー?

裏切りの代償

志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。 家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。 連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。 しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。 他サイトでも掲載しています。 R15を保険で追加しました。 表紙は写真AC様よりダウンロードしました。

冷酷無比な国王陛下に愛されすぎっ! 絶倫すぎっ! ピンチかもしれませんっ!

仙崎ひとみ
恋愛
子爵家のひとり娘ソレイユは、三年前悪漢に襲われて以降、男性から劣情の目で見られないようにと、女らしいことを一切排除する生活を送ってきた。 18歳になったある日。デビュタントパーティに出るよう命じられる。 噂では、冷酷無悲な独裁王と称されるエルネスト国王が、結婚相手を探しているとか。 「はあ? 結婚相手? 冗談じゃない、お断り」 しかし両親に頼み込まれ、ソレイユはしぶしぶ出席する。 途中抜け出して城庭で休んでいると、酔った男に絡まれてしまった。 危機一髪のところを助けてくれたのが、何かと噂の国王エルネスト。 エルネストはソレイユを気に入り、なんとかベッドに引きずりこもうと企む。 そんなとき、三年前ソレイユを助けてくれた救世主に似た男性が現れる。 エルネストの弟、ジェレミーだ。 ジェレミーは思いやりがあり、とても優しくて、紳士の鏡みたいに高潔な男性。 心はジェレミーに引っ張られていくが、身体はエルネストが虎視眈々と狙っていて――――

処理中です...