体質が変わったので

JUN

文字の大きさ
上 下
1,004 / 1,046

解呪不能(3)説明を求む

しおりを挟む
 池はきれいに底をコンクリートで固められていた。
「……割るわけにはいかないしな」
 僕と直は、池のほとりでがっくりと肩を落とした。
 手首の黒い線は、濃さを増していた。
「ちょっと、出てきてもらえないですか。探せと言われても、もっと説明がないと、探しようもないですよ」
「落とし物もこれじゃ出て来ないねえ」
 すると女の子が出てきて、僕と直を睨んだ。
「あなたの名前、珠の特徴、誰に貸したのか。ただ『珠を探せ』じゃ見付からないですよ」
「フン。だまして借りておいて何という言い草じゃ」
 かなり不満そうだ。
「貸したのはいつ、誰にですかねえ」
「この前、ここにいた人間にじゃ」
 それでわかるか!
 3人でむっつりと睨み合った。
「探す気あるのか?」
「探さないと、お主、死ぬぞえ?」
「説明なしじゃ、全人類を呪い殺したって見付からないねえ」
 また、むっつりと睨み合った。
 そして、女の子は溜め息をついた。
「わらわが気が付けばここにいたんじゃ。池のほとりに男がおって、力を貸してくださいと言ってわらわを壺に入れて、干上がった池の底に置いたんじゃ。それでわらわはまた眠くなって、目が覚めたら壺が割れていたので出て来たんじゃが、壺が割れて、珠がどこかに落ちてしまっていたんじゃ」
 説明ベタなのだろうか。
「そもそも、あなたは誰です?」
「わらわの事は小龍シャオロンと呼べ」
 胸をそらす姿を見て、直とこそこそと言い合った。
「見た目通りの子供並みの説明だな」
「子供だったのかねえ。生贄とか」
 小龍は文句を言いたそうにこちらを見ている。
「ええっと、それはいつくらいの話ですか」
「ずっと前じゃ」
 限界を察して、直が代わった。
「その男は、どんな髪形だったかねえ?服はこういうのかねえ?」
 小龍は首を傾げるようにした。
「髪はそんな感じだったと思うし、服もそんなもんじゃった。たぶん」
 池を3人で眺めた。枯れ葉くらいしか見えない。
 小龍は溜め息をついた。
「男を見上げた時、男の肩越しに、山にかかった満月が見えたの」
 そう言って空を見上げるので、つられて僕と直も空を見た。
「そういうわけじゃから。任せた」
 小龍はそう言って消えた。
「ん?男はどこにいたんだ?」
 月が男の背後にあったなら方向がどうなんだろう。周囲に山は見えない。
 昔は立木がもっと小さかったりしたとしても、山の位置は変化がない。
「ここから見える山と言えば、向こうくらいだろ」
 今はビルに囲まれて見えないが、ここから見える山などそうそうない。
 僕と直は、敷地内を裏に向かって歩き出した。
「山が見えるとしたら、この辺りかねえ」
 駐車場を、僕と直は眺めた。
「明日は資料漁りだな」
 コンクリートに塗り固められた地面をトントンと踵で軽く蹴る。
 その時、手首からぞわりと冷気が強まった。
「また一段階進んだな」
 僕は溜め息を押し殺した。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

未亡人クローディアが夫を亡くした理由

臣桜
キャラ文芸
老齢の辺境伯、バフェット伯が亡くなった。 しかしその若き未亡人クローディアは、夫が亡くなったばかりだというのに、喪服とは色ばかりの艶やかな姿をして、毎晩舞踏会でダンスに興じる。 うら若き未亡人はなぜ老齢の辺境伯に嫁いだのか。なぜ彼女は夫が亡くなったばかりだというのに、楽しげに振る舞っているのか。 クローディアには、夫が亡くなった理由を知らなければならない理由があった――。 ※ 表紙はニジジャーニーで生成しました

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

夫の不貞現場を目撃してしまいました

秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。 何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。 そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。 なろう様でも掲載しております。

【R18】やがて犯される病

開き茄子(あきなす)
恋愛
『凌辱モノ』をテーマにした短編連作の男性向け18禁小説です。 女の子が男にレイプされたり凌辱されたりして可哀そうな目にあいます。 女の子側に救いのない話がメインとなるので、とにかく可哀そうでエロい話が好きな人向けです。 ※ノクターンノベルスとpixivにも掲載しております。 内容に違いはありませんので、お好きなサイトでご覧下さい。 また、新シリーズとしてファンタジーものの長編小説(エロ)を企画中です。 更新準備が整いましたらこちらとTwitterでご報告させていただきます。

処理中です...