体質が変わったので

JUN

文字の大きさ
上 下
927 / 1,046

クリスマス会(4)トロイカ

しおりを挟む
 体育館の扉を開ける。
 先程と同じようにハンドベルを持って千陽ちゃんが練習していたが、扉の開く音に、顔をこちらに向ける。
 そして、さっきとは違い、その顔を輝かせた。

     パパ!!

 走って来て、陣川氏に飛びつく。
 それを笑顔で受け止め、陣川氏は千陽ちゃんを抱きしめた。

     遅くなってごめんな
     いつも来られなくてごめんな
     でもこれからは ずっと一緒だからな

     ホント!?

     ああ

 千陽ちゃんが嬉しそうに笑い、陣川氏が切なそうに笑う。そして、ずっと握りしめて来た手の中のブローチを千陽ちゃんの胸元につけた。緑色の葉っぱにテントウムシが4匹とまったかわいいブローチだ。

     お父さんとお母さんと私と赤ちゃん!

 千陽ちゃんは嬉しそうに叫んでクルクル回る。
 すると、近付いて来たクリスマス会の為に準備されていたツリーの電球が点き、舞台のライトが点き、千陽ちゃんが舞台に駆け上がると、音楽が流れて来る。
 ロシア民謡の『トロイカ』だ。

     雪の白樺並木 
     夕日が映える 
     走れトロイカ 
     ほがらかに 
     鈴の音高く 

     響け若人の歌 
     高鳴れバイヤン 
     走れトロイカ 
     かろやかに 
     粉雪蹴って 
     走れトロイカ 
     かろやかに 
     粉雪蹴って 

     黒いひとみが待つよ 
     あの森越せば 
     走れトロイカ 
     今宵は 
     楽しいうたげ 
     走れトロイカ 
     今宵は 
     楽しいうたげ 

 いつの間にか、陣川氏の隣に、乳児を抱いた女性がいた。陣川氏の奥さんだろう。
 終わった千陽ちゃんは舞台を駆け下りて来て、彼らに飛びついて行った。

     パパ!ママ!!
     あ、赤ちゃん?

     妹よ

     かわいい

     さあ、行こうか

 陣川氏が言って、奥さんと揃って僕達に黙礼をした。どちらも、穏やかな笑顔だった。
「はい、逝きましょうか」

     バイバーイ!

 千陽ちゃんが手を振り、そして4人はキラキラと光り、消えて行った。

 優維ちゃんの幼稚園のクリスマス会での合唱は無事に終わり、ビデオを皆で見た。
 トナカイの角のカチューシャを付けて、園児達が『赤鼻のトナカイ』を歌っていた。
 今もまだ気に入ったのか、着けたままだ。訊くと、敬に「かわいい」と言われたかららしい。
「上手だったなあ、優維」
 神様達も呼んでのクリスマス会――いや、イエスのお誕生日会か?――をしているところだ。
 優維ちゃんは照姉に褒められて、にこにこしている。
「今日、イエスおじちゃんのお誕生日?」
「おめでとう!」
 クリスマスの意味を先生達の劇で知った凛と累は、イエスにおめでとうと言って拍手している。
「いくつ?」
「2000歳とちょっとだよ」
「長生きだねえ」
「だねえ」
 喜ぶ凜と累の横で、敬が、
「年金いっぱいだね!」
と言って、大人達は思わず飲み物にむせそうになった。
 だが、何度も乾杯をし、楽しく賑やかにクリスマス会は過ぎて行った。
 ゲームをしてはしゃぎ、いつまでも寝たくないと訴える子供達に、
「いい加減に寝ないと、サンタさんがプレゼントを置きに来られないぞ」
と兄が言ったので、子供達は名残を惜しみながらも慌てて布団に滑り込む。
 それに大人達と神様達は、
「かわいいものだな」
「純真でいい」
とくすくす笑って、飲み直した。
「このまま元気に真っすぐに育って欲しいものだな」
 御崎 司みさき つかさ。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視正だ。
「うむ。この子達は優しいし、いい子だ。この良さを失わずにいてもらいたいな」
 照姉が言い、イエスも頷く。
「ええ。あなた達に幸あらん事を」
 そこで、足音と気配を忍ばせて、騰蛇が戻って来た。
「子供達、寝たぞ」
「よし、プレゼントを枕元にセットしよう」
 兄の号令で、サッと僕達は立ち上がった。子供達は、今日は一緒にリビングに枕を並べて寝ているのだ。何でも、明日の朝、プレゼントの見せっこをしたいらしい。それと、マンションなのでサンタの出入りがしにくいだろうから、1カ所に集まっておいた方が親切だろうというのだ。
 子供の考えは面白い。
 僕達は、各々の子供達の枕元にそっとプレゼントの包みを置いた。
「メリークリスマス」
 
 
 
  


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

未亡人クローディアが夫を亡くした理由

臣桜
キャラ文芸
老齢の辺境伯、バフェット伯が亡くなった。 しかしその若き未亡人クローディアは、夫が亡くなったばかりだというのに、喪服とは色ばかりの艶やかな姿をして、毎晩舞踏会でダンスに興じる。 うら若き未亡人はなぜ老齢の辺境伯に嫁いだのか。なぜ彼女は夫が亡くなったばかりだというのに、楽しげに振る舞っているのか。 クローディアには、夫が亡くなった理由を知らなければならない理由があった――。 ※ 表紙はニジジャーニーで生成しました

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

【R18】やがて犯される病

開き茄子(あきなす)
恋愛
『凌辱モノ』をテーマにした短編連作の男性向け18禁小説です。 女の子が男にレイプされたり凌辱されたりして可哀そうな目にあいます。 女の子側に救いのない話がメインとなるので、とにかく可哀そうでエロい話が好きな人向けです。 ※ノクターンノベルスとpixivにも掲載しております。 内容に違いはありませんので、お好きなサイトでご覧下さい。 また、新シリーズとしてファンタジーものの長編小説(エロ)を企画中です。 更新準備が整いましたらこちらとTwitterでご報告させていただきます。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

夫の不貞現場を目撃してしまいました

秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。 何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。 そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。 なろう様でも掲載しております。

処理中です...