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神様が多すぎる(4)守り神
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渡辺竜二は自宅アパートに帰り、妻の秀子と300万円を前に乾杯していた。
「上手く行ったな」
「おめでたいお嬢さんに感謝ね。
でも、大丈夫なの?」
「ああ。しばらくの間、先輩のところで修行させてもらうって言ってあるからな。まあ、近いうちにはここを出てどこかに場所を変えないと。
どこに行きたい?」
楽しそうに笑う2人だったが、突然目の前に犬が現れたので驚いた。
「へ!?何で!?どこから入ったの!?」
「マ、マロン!?お前、やっぱり俺を殺す気か!?」
2人は各々叫んで、渡辺は座布団を盾のようにして震え出した。
「ウウウウ、ワン!!ワワン!」
「ヒイッ!」
マロンは唸り、激しく吠えたて、とびかからんと体を低くする。
「何なの!?知ってるの!?」
「あの女の犬だ!うるさいし、懐かないし、ホースで絞め殺したんだ!そうしたらこの前、駅で現れて、階段から落とされたんだよ」
「それって、犬が化けて出たって事?」
秀子は震えて言い、マロンからも渡辺からも距離を置こうとするかのように、じりじりと下がった。
マロンは唸り声を上げ、体を低く、飛び掛かるようにして渡辺を睨んでいる。
僕と直がどうにか飛び込んだのは、そんな時だった。
「マロン、ストップ!もういい!」
「マロン、伏せだよう、伏せ」
マロンは渋々その場に伏せ、僕と直はそのそばに行った。
「なな何ですか今度は!」
秀子が言う。
「警視庁陰陽課の御崎と申します」
「同じく町田ですぅ」
「あ!この前の刑事!さん」
渡辺が僕と直を順に指さし、それから取り繕うように笑顔を浮かべた。
「突然この犬が現れて困ってたんですよ」
「駅で吠えて来たのもこの?」
「あ、はい」
「ちゃあんと覚えがあったんじゃないですかあ。自分が殺したマロンだってねえ」
渡辺と秀子はビクッとしたが、フフフと誤魔化すように笑った。
「何、言ってるんですか。やだなあ」
「マロンにも聞きましたし、ホースに指紋も残ってましたよ。言い逃れは無駄ですからねえ」
「渡辺竜二。詐取と器物損壊の容疑で逮捕する。
渡辺秀子。詐取の容疑で逮捕する」
それに、2人は騒ぎ出した。
「待て、待ってくれ!誤解だ!」
「話はちゃんと聞くから、安心しろ。
はい。11時23分」
僕と直で2人に手錠をかけ、ほかのメンバーが、証拠物を押収するために入って来る。
そして2人は、ふてくされたようにしながら、千歳さんと目黒さんにパトカーへ乗せるために歩かされて行った。
それを、マロンは見送り、クンクンと泣き出した。
「マロン。もう心配ないからねえ?ちゃんと、吉永さんを守ったねえ。偉かったよう」
「ワン!」
直はひとしきりわしゃわしゃとマロンの首をかくと、マロンは気持ちよさそうにしてから、消えた。
吉永さんの所だろう。
後を任せて、再び僕達は吉永さんの所へ行った。
吉永さんは泣いていたが、僕達を見て、笑った。
「マロンが来てくれたんです。もう大丈夫って言うように顔を舐めて。それで、消えて」
もう、人形にもどこにも、マロンの気配はない。
「安心して、成仏したんですね」
「留め続けるのは、いけませんからねえ。いい思い出を時々思い出すくらいでいてあげてくださいねえ」
「はい」
300万円は戻り、精神的には傷付いたが、どうにか吉永さんは立ち直りつつある。
そして渡辺達は、おとなしく聴取に応じている。
「ま、良かったよな」
「だよねえ」
「チチッ」
「ところで、それは何なのかねえ、怜」
僕は、茶色と白と黒のムートンの端切れを縫い合わせたそれを見せた。
「猫をなかなか触れないだろ?」
「うん」
「何で思い付かなかったんだろう。こうすればよかったんだよな」
僕は、チクチクと手縫いで作ったそれをジャーンと掲げた。
「名前はミケ!にしようかな」
それで、室内にいた皆が、口をつぐんでそれを見た。なぜか、新メンバー以外は顔色が悪い。
「これ、もしかして猫かねえ?」
「ああ、裁縫はあんまりやった事無いからなあ。でも、手触りとか色とかを好みの感じにしたいしと思って」
「ええっと、怜。中身はどうするのかねえ?」
直が、猫のぬいぐるみと僕の顔を交互に見て訊く。
「まさか、今朝、車に引かれて死んでた猫の霊を拾ったんじゃないだろうねえ?」
「流石にそれはなあ。
だから、タルパで行く!」
誰かが、「ヒッ」と言い、立ち上がって部屋の隅に行く。
「大丈夫なのに」
「係長!前回の騒動を忘れたんですか!?日本人形とピエロが不気味にケタケタ笑いながら庁舎中を走り回って、警視庁内を恐怖のどん底に叩き込んだ件!」
小牧さんが叫ぶように言う。
「大丈夫。今度は猫だから」
「それ、大丈夫じゃない!」
沢井さんが言うが、僕は構わず、それを行った。
「ああ。ぬいぐるみが、その、ちょっと不気味だよう」
直の声がした時、完成した。
へなっとしていたそれが、動き、膨らみ、立体的になって、立ち上がった。
「あれ?何か、イメージと違う……」
裁縫が下手過ぎたか?ボタン付けとかは普通にできるんだが、ぬいぐるみは初めてなもんで……。
「何か、歪んでるし、引き攣ってるし、舌が出てるし、縫い目もなんていうか」
松島さんが後ずさり、芦屋さんが泣きそうに言う。
「俺でも無理ですわ」
「猫のフランケンシュタインみたいで怖いです!」
美保さんが動画を撮りながら叫ぶ。
と、それが鳴いた。変なだみ声で、
「にゃあ」
と。
十条さんが失神し、松島さんが叫び、課内は阿鼻叫喚の騒ぎになった。
「怜。やめようよ。ね?」
「おかしいな。ぬいぐるみの出来が問題か?今度作り直して再チャレンジしよう」
僕は溜め息をついた。
ああ。「神」と呼ばれるような腕には程遠い。
「上手く行ったな」
「おめでたいお嬢さんに感謝ね。
でも、大丈夫なの?」
「ああ。しばらくの間、先輩のところで修行させてもらうって言ってあるからな。まあ、近いうちにはここを出てどこかに場所を変えないと。
どこに行きたい?」
楽しそうに笑う2人だったが、突然目の前に犬が現れたので驚いた。
「へ!?何で!?どこから入ったの!?」
「マ、マロン!?お前、やっぱり俺を殺す気か!?」
2人は各々叫んで、渡辺は座布団を盾のようにして震え出した。
「ウウウウ、ワン!!ワワン!」
「ヒイッ!」
マロンは唸り、激しく吠えたて、とびかからんと体を低くする。
「何なの!?知ってるの!?」
「あの女の犬だ!うるさいし、懐かないし、ホースで絞め殺したんだ!そうしたらこの前、駅で現れて、階段から落とされたんだよ」
「それって、犬が化けて出たって事?」
秀子は震えて言い、マロンからも渡辺からも距離を置こうとするかのように、じりじりと下がった。
マロンは唸り声を上げ、体を低く、飛び掛かるようにして渡辺を睨んでいる。
僕と直がどうにか飛び込んだのは、そんな時だった。
「マロン、ストップ!もういい!」
「マロン、伏せだよう、伏せ」
マロンは渋々その場に伏せ、僕と直はそのそばに行った。
「なな何ですか今度は!」
秀子が言う。
「警視庁陰陽課の御崎と申します」
「同じく町田ですぅ」
「あ!この前の刑事!さん」
渡辺が僕と直を順に指さし、それから取り繕うように笑顔を浮かべた。
「突然この犬が現れて困ってたんですよ」
「駅で吠えて来たのもこの?」
「あ、はい」
「ちゃあんと覚えがあったんじゃないですかあ。自分が殺したマロンだってねえ」
渡辺と秀子はビクッとしたが、フフフと誤魔化すように笑った。
「何、言ってるんですか。やだなあ」
「マロンにも聞きましたし、ホースに指紋も残ってましたよ。言い逃れは無駄ですからねえ」
「渡辺竜二。詐取と器物損壊の容疑で逮捕する。
渡辺秀子。詐取の容疑で逮捕する」
それに、2人は騒ぎ出した。
「待て、待ってくれ!誤解だ!」
「話はちゃんと聞くから、安心しろ。
はい。11時23分」
僕と直で2人に手錠をかけ、ほかのメンバーが、証拠物を押収するために入って来る。
そして2人は、ふてくされたようにしながら、千歳さんと目黒さんにパトカーへ乗せるために歩かされて行った。
それを、マロンは見送り、クンクンと泣き出した。
「マロン。もう心配ないからねえ?ちゃんと、吉永さんを守ったねえ。偉かったよう」
「ワン!」
直はひとしきりわしゃわしゃとマロンの首をかくと、マロンは気持ちよさそうにしてから、消えた。
吉永さんの所だろう。
後を任せて、再び僕達は吉永さんの所へ行った。
吉永さんは泣いていたが、僕達を見て、笑った。
「マロンが来てくれたんです。もう大丈夫って言うように顔を舐めて。それで、消えて」
もう、人形にもどこにも、マロンの気配はない。
「安心して、成仏したんですね」
「留め続けるのは、いけませんからねえ。いい思い出を時々思い出すくらいでいてあげてくださいねえ」
「はい」
300万円は戻り、精神的には傷付いたが、どうにか吉永さんは立ち直りつつある。
そして渡辺達は、おとなしく聴取に応じている。
「ま、良かったよな」
「だよねえ」
「チチッ」
「ところで、それは何なのかねえ、怜」
僕は、茶色と白と黒のムートンの端切れを縫い合わせたそれを見せた。
「猫をなかなか触れないだろ?」
「うん」
「何で思い付かなかったんだろう。こうすればよかったんだよな」
僕は、チクチクと手縫いで作ったそれをジャーンと掲げた。
「名前はミケ!にしようかな」
それで、室内にいた皆が、口をつぐんでそれを見た。なぜか、新メンバー以外は顔色が悪い。
「これ、もしかして猫かねえ?」
「ああ、裁縫はあんまりやった事無いからなあ。でも、手触りとか色とかを好みの感じにしたいしと思って」
「ええっと、怜。中身はどうするのかねえ?」
直が、猫のぬいぐるみと僕の顔を交互に見て訊く。
「まさか、今朝、車に引かれて死んでた猫の霊を拾ったんじゃないだろうねえ?」
「流石にそれはなあ。
だから、タルパで行く!」
誰かが、「ヒッ」と言い、立ち上がって部屋の隅に行く。
「大丈夫なのに」
「係長!前回の騒動を忘れたんですか!?日本人形とピエロが不気味にケタケタ笑いながら庁舎中を走り回って、警視庁内を恐怖のどん底に叩き込んだ件!」
小牧さんが叫ぶように言う。
「大丈夫。今度は猫だから」
「それ、大丈夫じゃない!」
沢井さんが言うが、僕は構わず、それを行った。
「ああ。ぬいぐるみが、その、ちょっと不気味だよう」
直の声がした時、完成した。
へなっとしていたそれが、動き、膨らみ、立体的になって、立ち上がった。
「あれ?何か、イメージと違う……」
裁縫が下手過ぎたか?ボタン付けとかは普通にできるんだが、ぬいぐるみは初めてなもんで……。
「何か、歪んでるし、引き攣ってるし、舌が出てるし、縫い目もなんていうか」
松島さんが後ずさり、芦屋さんが泣きそうに言う。
「俺でも無理ですわ」
「猫のフランケンシュタインみたいで怖いです!」
美保さんが動画を撮りながら叫ぶ。
と、それが鳴いた。変なだみ声で、
「にゃあ」
と。
十条さんが失神し、松島さんが叫び、課内は阿鼻叫喚の騒ぎになった。
「怜。やめようよ。ね?」
「おかしいな。ぬいぐるみの出来が問題か?今度作り直して再チャレンジしよう」
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