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捕食(4)始末
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陰陽課に連絡を入れ、駆け付けて来た警察官達は、唖然としていた。
「山の、利用価値のない採石場跡で良かったな」
その一言に尽きる。
「それで、霊能師達はどうなりました?」
「病院で意識を取り戻していったらしいよ。行方の分からなかった霊能師も、廃墟とか山奥とかから、電話をして来たそうだ。
霊能力については不明らしいけど、光良が消えた事で、戻って行ってるんじゃないかとは言ってたね」
徳川さんが辺りを見回しながら言う。
「いやあ、見事に真っ平だね。これなら却って、ここを何かに利用できそうで、地価が上がったりしてね」
「ははは。今のうちに、ここを買っておいたら儲かるかもねえ」
直が笑う。
照良は手錠を掛けられ、落ち着いた様子でそれを見ていた。
「うちの一族は時々こういう人間が出る血筋で、村では穢れの血として扱われていたそうです。曽祖父が言っていた通り、普段は蔑まれ、気味悪がられ、憑きものを自分の身に引き受けて来たそうです。それが蓄積して、限界が来たら、悪霊になる前に儀式をして死んでいく。そういう家系だと聞かされました。
曽祖父の後は、後を継げる体質の人間がいなくて、曽祖父は限界を迎えても儀式を行う事ができなかった。それで、体に引き受けて来た穢れに体を乗っ取られて、悪い物になったようです。
それから霊媒体質の私が生まれた事で、曽祖父は私の前に現れ、もっと強くなりたい、それで恨みをぶつけたいと、こんな事を始めました。
私は正直困りました。今はそんな村も関係ない暮らしをしていますし、霊媒体質なんて中途半端で使えもしない能力だし。
でも、曽祖父に入り込まれたら抗えないし、つながれて命令されれば、いずれ私の体が曽祖父に乗っ取られる。そう思うと、怖くて、命令に従ってしまいました。
済みませんでした」
照良は、肩の荷が下りたような顔付きでそう言い、頭を深々と下げた。
照良の能力は霊を体に下ろすものだ。そういうやり方の霊への対処もあるだろうが、危険だし、体に負荷もかかる。
まあ、やり方と場合によっては、使えない能力でもないが。
「訓練と使い方では、霊能師としてやれない事はないですよ。例えば、遺言を残し損ねた故人の遺志を伝えるとかいうのを、すぐに自分から落とす訓練とか、万が一に備えて祓う霊能師と組むとかすれば、どうかな」
言うと、直が苦笑して肩を竦め、徳川さんが言った。
「全く。何だかんだ言って、怜君はお人好しだな」
それで僕達は、引き上げる事にした。
陰陽課へ向かう途中、何人にも振り返られ、二度見され、指を指された。挙句、僕と直だけで立っていると、怖い顔をして寄って来られ、その度に、
「陰陽課の御崎ですから。これは捜査の都合で変装してただけですから」
「ボクも陰陽課の町田ですよう。今から着替えるんですよう」
と訴える。
「ああ、囮捜査とか潜入捜査とか、面倒臭いな。もうやらない」
僕達はそう、言い合った。
「山の、利用価値のない採石場跡で良かったな」
その一言に尽きる。
「それで、霊能師達はどうなりました?」
「病院で意識を取り戻していったらしいよ。行方の分からなかった霊能師も、廃墟とか山奥とかから、電話をして来たそうだ。
霊能力については不明らしいけど、光良が消えた事で、戻って行ってるんじゃないかとは言ってたね」
徳川さんが辺りを見回しながら言う。
「いやあ、見事に真っ平だね。これなら却って、ここを何かに利用できそうで、地価が上がったりしてね」
「ははは。今のうちに、ここを買っておいたら儲かるかもねえ」
直が笑う。
照良は手錠を掛けられ、落ち着いた様子でそれを見ていた。
「うちの一族は時々こういう人間が出る血筋で、村では穢れの血として扱われていたそうです。曽祖父が言っていた通り、普段は蔑まれ、気味悪がられ、憑きものを自分の身に引き受けて来たそうです。それが蓄積して、限界が来たら、悪霊になる前に儀式をして死んでいく。そういう家系だと聞かされました。
曽祖父の後は、後を継げる体質の人間がいなくて、曽祖父は限界を迎えても儀式を行う事ができなかった。それで、体に引き受けて来た穢れに体を乗っ取られて、悪い物になったようです。
それから霊媒体質の私が生まれた事で、曽祖父は私の前に現れ、もっと強くなりたい、それで恨みをぶつけたいと、こんな事を始めました。
私は正直困りました。今はそんな村も関係ない暮らしをしていますし、霊媒体質なんて中途半端で使えもしない能力だし。
でも、曽祖父に入り込まれたら抗えないし、つながれて命令されれば、いずれ私の体が曽祖父に乗っ取られる。そう思うと、怖くて、命令に従ってしまいました。
済みませんでした」
照良は、肩の荷が下りたような顔付きでそう言い、頭を深々と下げた。
照良の能力は霊を体に下ろすものだ。そういうやり方の霊への対処もあるだろうが、危険だし、体に負荷もかかる。
まあ、やり方と場合によっては、使えない能力でもないが。
「訓練と使い方では、霊能師としてやれない事はないですよ。例えば、遺言を残し損ねた故人の遺志を伝えるとかいうのを、すぐに自分から落とす訓練とか、万が一に備えて祓う霊能師と組むとかすれば、どうかな」
言うと、直が苦笑して肩を竦め、徳川さんが言った。
「全く。何だかんだ言って、怜君はお人好しだな」
それで僕達は、引き上げる事にした。
陰陽課へ向かう途中、何人にも振り返られ、二度見され、指を指された。挙句、僕と直だけで立っていると、怖い顔をして寄って来られ、その度に、
「陰陽課の御崎ですから。これは捜査の都合で変装してただけですから」
「ボクも陰陽課の町田ですよう。今から着替えるんですよう」
と訴える。
「ああ、囮捜査とか潜入捜査とか、面倒臭いな。もうやらない」
僕達はそう、言い合った。
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