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裁く(1)依田家の呪い
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葬儀を終え、今後の事を相談して、気分が悪いと自室に帰った長女以外、彼らは応接室のソファでぐったりと座り込んでいた。
「これで何とかなりそうね。武留さん、よろしくお願いね」
故人の妻真澄が言うと、長女の婚約者である武留は如才なく笑って頷いた。
「はい。できる限り、お手伝いさせていただきます」
二女の百合はその武留の横で、澄ました顔で座っている。
そんな彼らの前に、メイドがコーヒーを置いていく。
真澄はそれを飲もうと手を伸ばし、掴み損ねて、中身のコーヒーが足の上にこぼれる。
「熱っ!!熱いじゃないの!」
メイドは、自分のせいではないと思ったが、大人しく謝った。
「申し訳ございません」
しかし真澄は怒り心頭だ。
「火傷したらどうしてくれるのよ!使えない!」
言って、残りのコーヒーを彼女の顔にバシャリとかけた。
「キャッ!」
「フン。
少し休むわ」
そして、何事もなかったかのように、部屋を出て行く。
百合は
「もういいから」
とメイドを下がらせ、薄く笑った。
「お母様は癇癪持ちね」
武留は返事を避け、軽く笑った。
「姉さんは面白くないでしょ」
「いや、まあ」
そう言う武留に、距離を詰める。
「いないから、いいじゃない。姉さん、しばらく戻って来ないわよ。今頃、お祈りでもしてるんじゃないの?何かっていうと神様。地味でやぼったいんだから。ねえ、そう思わない?本当のところ」
しなだれかかられ、武留は少し考えて、百合の肩に腕を回した。
「まじめだよな、千鶴は。でも君の方が、きれいで、情熱的で、刺激的だ」
2人は視線を絡ませてフフフと笑うと、ゆっくりと倒れ込んで行った。
それを、見ていた人物がいた。長女の千鶴だ。自室に入って休んだものの、婚約者や家族を放っておくわけにもいかないと、父親のアルバムを見て語り合おうかと思って応接室の隣の書斎に入った。
そこで、戸棚を開けて探していると、父親が作っていたらしい仕掛けを発見した。戸棚の奥がマジックミラーになっていて、応接室の大きな鏡を通して向こうの様子が丸わかりになるのだ。来客の本音をここでこっそりのぞいたりするのに使っていたのだろうか。
しかし、見た光景の衝撃は、仕掛けを発見した衝撃を軽く上回った。
母親がメイドの顔にコーヒーをかけ、妹が婚約者を誘惑し、彼はそれを受け入れたのだ。
何も考えられなかった。ただただ混乱し、悲しいような腹立たしいような気がし、これまで押し殺して来た不満などが吹き出して、気が付けばフラフラと家を出て、近所の教会に祈りに行っていた。千鶴は昔から、ここのマリア像に、不安も悲しみも、全てを語って来たのだ。
酷い、酷すぎる。母は傲慢だし、妹はいつも私をばかにして気に入ったものは私のものでもとってしまうし、武留さんも私との婚約は仕事の為で、全てが嘘ばっかり。ああ。皆報いを受ければいいのに。どうか彼らに、相応の報いを。
気付けばそう祈っていた。
そして、家へ帰ろうと教会を出て、そこで、アクセルとブレーキを踏み間違えた車にはねられてしまったのだった。
テレビのワイドショーでは、そのニュースが取り上げられていた。
決してクリーンとは言えないやり方でのし上がって来た資産家の依田家の呪い。
依田重五郎氏が病を得て最後まで苦しみながら死んでいったと思ったら、その葬儀の日に長女が交通事故で意識不明の重体。依田氏に苦しめられた者達の呪いの念ではないのか、というものだ。
「たまたまだろう?」
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「好きだよねえ、皆そういうの」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
僕と直は夜勤明けで、陰陽課でその朝のワイドショーを見つつ、パンとコーヒーで朝食を摂っていた。
「それこそが呪いだよな」
「ああ、怖い怖い」
言って肩を竦め、サンドウィッチにパクリとかぶりつく。
この時は完全に他人事で、関わり合いになる事になるとは、思ってもみなかったのである。
「これで何とかなりそうね。武留さん、よろしくお願いね」
故人の妻真澄が言うと、長女の婚約者である武留は如才なく笑って頷いた。
「はい。できる限り、お手伝いさせていただきます」
二女の百合はその武留の横で、澄ました顔で座っている。
そんな彼らの前に、メイドがコーヒーを置いていく。
真澄はそれを飲もうと手を伸ばし、掴み損ねて、中身のコーヒーが足の上にこぼれる。
「熱っ!!熱いじゃないの!」
メイドは、自分のせいではないと思ったが、大人しく謝った。
「申し訳ございません」
しかし真澄は怒り心頭だ。
「火傷したらどうしてくれるのよ!使えない!」
言って、残りのコーヒーを彼女の顔にバシャリとかけた。
「キャッ!」
「フン。
少し休むわ」
そして、何事もなかったかのように、部屋を出て行く。
百合は
「もういいから」
とメイドを下がらせ、薄く笑った。
「お母様は癇癪持ちね」
武留は返事を避け、軽く笑った。
「姉さんは面白くないでしょ」
「いや、まあ」
そう言う武留に、距離を詰める。
「いないから、いいじゃない。姉さん、しばらく戻って来ないわよ。今頃、お祈りでもしてるんじゃないの?何かっていうと神様。地味でやぼったいんだから。ねえ、そう思わない?本当のところ」
しなだれかかられ、武留は少し考えて、百合の肩に腕を回した。
「まじめだよな、千鶴は。でも君の方が、きれいで、情熱的で、刺激的だ」
2人は視線を絡ませてフフフと笑うと、ゆっくりと倒れ込んで行った。
それを、見ていた人物がいた。長女の千鶴だ。自室に入って休んだものの、婚約者や家族を放っておくわけにもいかないと、父親のアルバムを見て語り合おうかと思って応接室の隣の書斎に入った。
そこで、戸棚を開けて探していると、父親が作っていたらしい仕掛けを発見した。戸棚の奥がマジックミラーになっていて、応接室の大きな鏡を通して向こうの様子が丸わかりになるのだ。来客の本音をここでこっそりのぞいたりするのに使っていたのだろうか。
しかし、見た光景の衝撃は、仕掛けを発見した衝撃を軽く上回った。
母親がメイドの顔にコーヒーをかけ、妹が婚約者を誘惑し、彼はそれを受け入れたのだ。
何も考えられなかった。ただただ混乱し、悲しいような腹立たしいような気がし、これまで押し殺して来た不満などが吹き出して、気が付けばフラフラと家を出て、近所の教会に祈りに行っていた。千鶴は昔から、ここのマリア像に、不安も悲しみも、全てを語って来たのだ。
酷い、酷すぎる。母は傲慢だし、妹はいつも私をばかにして気に入ったものは私のものでもとってしまうし、武留さんも私との婚約は仕事の為で、全てが嘘ばっかり。ああ。皆報いを受ければいいのに。どうか彼らに、相応の報いを。
気付けばそう祈っていた。
そして、家へ帰ろうと教会を出て、そこで、アクセルとブレーキを踏み間違えた車にはねられてしまったのだった。
テレビのワイドショーでは、そのニュースが取り上げられていた。
決してクリーンとは言えないやり方でのし上がって来た資産家の依田家の呪い。
依田重五郎氏が病を得て最後まで苦しみながら死んでいったと思ったら、その葬儀の日に長女が交通事故で意識不明の重体。依田氏に苦しめられた者達の呪いの念ではないのか、というものだ。
「たまたまだろう?」
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「好きだよねえ、皆そういうの」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
僕と直は夜勤明けで、陰陽課でその朝のワイドショーを見つつ、パンとコーヒーで朝食を摂っていた。
「それこそが呪いだよな」
「ああ、怖い怖い」
言って肩を竦め、サンドウィッチにパクリとかぶりつく。
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