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人形(1)初釣り
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初日の出を眺めながらの釣り、初釣り。普段、寒いと文句を言っていても、朝は眠いと寝坊気味でも、釣り人は、釣りの時は何にも言わない。
「おお」
「今年も大漁で頼みます」
「大物を釣らせてください」
好きな事を願い、すぐに竿先へ視線を戻す。
通称がっさんも、そんな釣り人の1人だ。ガシラ――標準和名カサゴ――ばかり釣れるので、がっさんという綽名を頂戴し、実家のある関東へ戻って来て最初の初釣りだ。ここは何とか、真鯛が欲しい。そう思って、竿を持つ手に集中していた。
と、何かあたり、食いこんだ。
「来た!」
「お、新年初ヒットか?」
釣り船中が、がっさんに注目する。
仕掛けがどんどん巻き取られて行く。あと18メートル、17メートル――。
しかし最初の手ごたえとは裏腹に、暴れもしなければ、そう重くもない。嫌な予感がした。
「見えたぞ。大人しいわりにデカイな」
「カレイじゃないのか?」
「引きが何か……カサゴかメバルか?」
皆が見る中で、それが海面に上がった。仕掛け部分をしっかりとくわえているのは、子供だった。
「何だ!?」
悲鳴が上がる中、タモでそれをすくった船長が言った。
「人形かぁ?」
途端に、ホッとしたようなガッカリしたような空気が流れ、がっさんは肩を落とした。
「何で人形?くそっ。しっかり口にかかってるところは凄いけど」
針を外し、それをまじまじと見た。頭はドッジボールほどの大きさがあり、女の子のようで、かなり精巧に作られている。思わず遺体かと思ったほどで、薄気味悪い。
それを足元に置いて、改めて竿を振った。
が、揺れた拍子にしてもおかしいのだが、いきなり人形が飛んで、海にはまってしまった。
見ていた数人は唖然とし、次いで、
「あんなに飛ぶなんておかしいぞ」
「変な物だったんじゃないのか?」
と言い合い、その日の釣果は散々な結果になったのだった。
初出勤した僕達を待っていたのは、その依頼だった。
「船を覗き込む霊ですか」
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「船幽霊とかそういうものですかねえ」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
「いや、子供を模して作ったような人形らしいよ。まるで生きているみたいに見えるとか。それが船べりに手をかけて、覗き込むそうだね。それで驚いて、船の舵を変に切ったり、海に落ちそうになったりする事故が多発してるらしい。
海保も船宿も困り果てていてねえ」
徳川一行。飄々として少々変わってはいるが、警察庁キャリアで警視長。なかなかやり手で、必要とあらば冷酷な判断も下す。陰陽課の生みの親兼責任者で、兄の上司になった時からよくウチにも遊びに来ていたのだが、すっかり、兄とは元上司と部下というより、友人という感じになっている。
「釣り船って、漁師さんの船ですかねえ?」
「いや、乗合船、遊漁船だよ。『海宝丸』。それ以外の船には見向きもしないらしいよ、何でか」
「何でだろうな。その船に何かあるのか?」
「恨みのある釣り人を探してたりしてねえ」
「というわけだから、頼むね」
笑顔で言われ、僕と直は海宝丸に電話を入れた。
「おお」
「今年も大漁で頼みます」
「大物を釣らせてください」
好きな事を願い、すぐに竿先へ視線を戻す。
通称がっさんも、そんな釣り人の1人だ。ガシラ――標準和名カサゴ――ばかり釣れるので、がっさんという綽名を頂戴し、実家のある関東へ戻って来て最初の初釣りだ。ここは何とか、真鯛が欲しい。そう思って、竿を持つ手に集中していた。
と、何かあたり、食いこんだ。
「来た!」
「お、新年初ヒットか?」
釣り船中が、がっさんに注目する。
仕掛けがどんどん巻き取られて行く。あと18メートル、17メートル――。
しかし最初の手ごたえとは裏腹に、暴れもしなければ、そう重くもない。嫌な予感がした。
「見えたぞ。大人しいわりにデカイな」
「カレイじゃないのか?」
「引きが何か……カサゴかメバルか?」
皆が見る中で、それが海面に上がった。仕掛け部分をしっかりとくわえているのは、子供だった。
「何だ!?」
悲鳴が上がる中、タモでそれをすくった船長が言った。
「人形かぁ?」
途端に、ホッとしたようなガッカリしたような空気が流れ、がっさんは肩を落とした。
「何で人形?くそっ。しっかり口にかかってるところは凄いけど」
針を外し、それをまじまじと見た。頭はドッジボールほどの大きさがあり、女の子のようで、かなり精巧に作られている。思わず遺体かと思ったほどで、薄気味悪い。
それを足元に置いて、改めて竿を振った。
が、揺れた拍子にしてもおかしいのだが、いきなり人形が飛んで、海にはまってしまった。
見ていた数人は唖然とし、次いで、
「あんなに飛ぶなんておかしいぞ」
「変な物だったんじゃないのか?」
と言い合い、その日の釣果は散々な結果になったのだった。
初出勤した僕達を待っていたのは、その依頼だった。
「船を覗き込む霊ですか」
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「船幽霊とかそういうものですかねえ」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
「いや、子供を模して作ったような人形らしいよ。まるで生きているみたいに見えるとか。それが船べりに手をかけて、覗き込むそうだね。それで驚いて、船の舵を変に切ったり、海に落ちそうになったりする事故が多発してるらしい。
海保も船宿も困り果てていてねえ」
徳川一行。飄々として少々変わってはいるが、警察庁キャリアで警視長。なかなかやり手で、必要とあらば冷酷な判断も下す。陰陽課の生みの親兼責任者で、兄の上司になった時からよくウチにも遊びに来ていたのだが、すっかり、兄とは元上司と部下というより、友人という感じになっている。
「釣り船って、漁師さんの船ですかねえ?」
「いや、乗合船、遊漁船だよ。『海宝丸』。それ以外の船には見向きもしないらしいよ、何でか」
「何でだろうな。その船に何かあるのか?」
「恨みのある釣り人を探してたりしてねえ」
「というわけだから、頼むね」
笑顔で言われ、僕と直は海宝丸に電話を入れた。
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