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福娘(2)思惑
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僕と直は、サッカー選手が呪われてケガをしたらしいとの事で、大阪に来ていた。
そしてその報告に、考え込む。
「謎の呪文ですか?それに、鈴を持った巫女」
それに、所轄の刑事が言った。
「それ、えべっさんやと思いますよ」
僕と直は、聞き返した。
「えべっさん?」
「十日えびす。関西では、物凄く大々的にするお祭りで、『商売繫盛で笹持って来い』と言うのが掛け声です。笹は無料で、そこに有料の色んな飾りを巫女さんに付けて貰って、家内安全とか商売繫盛とかをえびす様にお願いするんですよ。1月9日は宵えびす、10日は本えびす、11日は残りえびす、3日間のお祭りです。
神戸の西宮神社は『福男』選びが有名で、毎年明け方の開門でスタートした挑戦者が本殿に向かって境内を全力疾走して、1着から3着までがその年の福男になるんですが、他の関西の神社では、福娘が選ばれて、ほえかごに乗って辺りを練り歩き、当日は境内で笹飾りを付けて福を授けるんです。歌舞伎役者や噺家も参加する、関西では大きなお祭りですよ」
係長の説明に、へええ、と声を上げた。
「あ、そう言えば、母がそんな事を言ってたなあ。関東ではえべっさんがほとんどないから驚いたって。それに、えびす様をえべっさんって知り合いみたいに呼ぶのはおかしいって言われたって」
僕はぼんやりと思い出した。
「そうそう。関西人は気軽にそう呼ぶんですよ。
それと謎の呪文ですが、それ、大阪締めじゃないかと。ちょっと文言は変わってるんですが」
うちまーしょ パンパン
もひとつせ パンパン
祝うて三度 パパンパン
「確か、こうだったと思います」
係長がやってみせた。
「勢いがあって、リズムもいいし、いいねえ」
「儲かりそう」
「ただし、これを手拍子も文言もバッチリという人は意外と少ないんですわ。若い人ほど」
「あ。福娘とかならできると」
「つまり、その巫女姿の霊は、福娘の可能性大だねえ」
皆で福娘かあなどと言って納得し、また考える。
「東内さんは、福娘、もしくは元福娘の霊に呪われて、足を怪我したということかねえ?」
直がそうまとめた。
「でも、近所の人は巫女の霊が部屋から出て来てすうっと消えたんを目撃してますし、東内も巫女が出て来てケガした、言うてますけど、巫女に知り合いはおらん言うてます」
「東内は新人とはいえ、将来を嘱望されているサッカー選手。ライバルが誰かに依頼でもして呪ったんじゃないかと、チームとファンクラブが主張して警察に被害届を出したんです」
事情は呑み込めた。
「とにかく、本人に会ってみましょう」
僕と直は、東内さんに会う事になった。
東内は、イライラとしていた。
包丁が刺さった時に神経が切断され、その神経をつなぐ手術をしなければならないらしい。足の甲から太ももまで切開して、切れた衝撃で縮んだ神経の端を引っ張り出すとか。
それでも、歩く事はできるそうだが、スポーツは無理だと言われた。
再生医療を利用すれば神経の完全治癒の可能性があるという事だが、そのための医療費は無い。
「せっかく、プロになれて、これからって言うのに――!」
巫女の霊にこの前はビビりまくったが、今目の前に現れたら、掴みかかって怒り狂いそうだ。
そこで、思いついた。
「そうか。俺には無くても、金を持っている奴がいるじゃないか」
東内は、友人に電話をかけた。
電話を切って、反田は悪態をついた。
「クソッ。脅しかよ、あいつ」
反田伴紀、売れ始めているピアニストである。
友人の東内から、「あの事」を黙っている代わりに手術費を、と要求されたのだ。
「どうするのよお!」
柳井が横で焦った声を出す。
柳井真珠、売れ始めたモデルで、反田の恋人だ。
3人は高校からの友人で、この正月も一緒に騒いで新年を迎えた。そして、店から家まで近くて慣れた道で、人が少ないから検問もしていないと、アルコールが残ったまま運転し、人をはね、逃げた。
運転していたのは反田で、東内はその口止め料として強請って来たというわけだ。
「いくら何でも、そんな金ねえよ」
「それより、これで済むの?」
「え?」
反田は、柳内の冷えた声音に冷水をかけられたような顔をした。
「リハビリは?手術が失敗したら?」
「真珠?」
「一生たかられるかもしれないわよ」
知らない女のように見えた。
「……じゃあ、どうするんだよ」
答えは聞くまでもない気がしたが。
柳内は、表情の無い顔を向けた。
「死んでもらうしかないんじゃないの?」
見つめ合ったまま、しばらく考え込む。
「わかった」
2人は重大な決心をした。
が、背後に巫女姿の霊がいて、冷たく嗤っている事には気付かなかった。
そしてその報告に、考え込む。
「謎の呪文ですか?それに、鈴を持った巫女」
それに、所轄の刑事が言った。
「それ、えべっさんやと思いますよ」
僕と直は、聞き返した。
「えべっさん?」
「十日えびす。関西では、物凄く大々的にするお祭りで、『商売繫盛で笹持って来い』と言うのが掛け声です。笹は無料で、そこに有料の色んな飾りを巫女さんに付けて貰って、家内安全とか商売繫盛とかをえびす様にお願いするんですよ。1月9日は宵えびす、10日は本えびす、11日は残りえびす、3日間のお祭りです。
神戸の西宮神社は『福男』選びが有名で、毎年明け方の開門でスタートした挑戦者が本殿に向かって境内を全力疾走して、1着から3着までがその年の福男になるんですが、他の関西の神社では、福娘が選ばれて、ほえかごに乗って辺りを練り歩き、当日は境内で笹飾りを付けて福を授けるんです。歌舞伎役者や噺家も参加する、関西では大きなお祭りですよ」
係長の説明に、へええ、と声を上げた。
「あ、そう言えば、母がそんな事を言ってたなあ。関東ではえべっさんがほとんどないから驚いたって。それに、えびす様をえべっさんって知り合いみたいに呼ぶのはおかしいって言われたって」
僕はぼんやりと思い出した。
「そうそう。関西人は気軽にそう呼ぶんですよ。
それと謎の呪文ですが、それ、大阪締めじゃないかと。ちょっと文言は変わってるんですが」
うちまーしょ パンパン
もひとつせ パンパン
祝うて三度 パパンパン
「確か、こうだったと思います」
係長がやってみせた。
「勢いがあって、リズムもいいし、いいねえ」
「儲かりそう」
「ただし、これを手拍子も文言もバッチリという人は意外と少ないんですわ。若い人ほど」
「あ。福娘とかならできると」
「つまり、その巫女姿の霊は、福娘の可能性大だねえ」
皆で福娘かあなどと言って納得し、また考える。
「東内さんは、福娘、もしくは元福娘の霊に呪われて、足を怪我したということかねえ?」
直がそうまとめた。
「でも、近所の人は巫女の霊が部屋から出て来てすうっと消えたんを目撃してますし、東内も巫女が出て来てケガした、言うてますけど、巫女に知り合いはおらん言うてます」
「東内は新人とはいえ、将来を嘱望されているサッカー選手。ライバルが誰かに依頼でもして呪ったんじゃないかと、チームとファンクラブが主張して警察に被害届を出したんです」
事情は呑み込めた。
「とにかく、本人に会ってみましょう」
僕と直は、東内さんに会う事になった。
東内は、イライラとしていた。
包丁が刺さった時に神経が切断され、その神経をつなぐ手術をしなければならないらしい。足の甲から太ももまで切開して、切れた衝撃で縮んだ神経の端を引っ張り出すとか。
それでも、歩く事はできるそうだが、スポーツは無理だと言われた。
再生医療を利用すれば神経の完全治癒の可能性があるという事だが、そのための医療費は無い。
「せっかく、プロになれて、これからって言うのに――!」
巫女の霊にこの前はビビりまくったが、今目の前に現れたら、掴みかかって怒り狂いそうだ。
そこで、思いついた。
「そうか。俺には無くても、金を持っている奴がいるじゃないか」
東内は、友人に電話をかけた。
電話を切って、反田は悪態をついた。
「クソッ。脅しかよ、あいつ」
反田伴紀、売れ始めているピアニストである。
友人の東内から、「あの事」を黙っている代わりに手術費を、と要求されたのだ。
「どうするのよお!」
柳井が横で焦った声を出す。
柳井真珠、売れ始めたモデルで、反田の恋人だ。
3人は高校からの友人で、この正月も一緒に騒いで新年を迎えた。そして、店から家まで近くて慣れた道で、人が少ないから検問もしていないと、アルコールが残ったまま運転し、人をはね、逃げた。
運転していたのは反田で、東内はその口止め料として強請って来たというわけだ。
「いくら何でも、そんな金ねえよ」
「それより、これで済むの?」
「え?」
反田は、柳内の冷えた声音に冷水をかけられたような顔をした。
「リハビリは?手術が失敗したら?」
「真珠?」
「一生たかられるかもしれないわよ」
知らない女のように見えた。
「……じゃあ、どうするんだよ」
答えは聞くまでもない気がしたが。
柳内は、表情の無い顔を向けた。
「死んでもらうしかないんじゃないの?」
見つめ合ったまま、しばらく考え込む。
「わかった」
2人は重大な決心をした。
が、背後に巫女姿の霊がいて、冷たく嗤っている事には気付かなかった。
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