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福娘(1)巫女の霊
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僕は、お年玉のおもちゃで遊ぶ凜を膝の上に座らせながら、テレビを見ていた。
振ったりすれば音が出て光るもので、振って音と光に喜んでは手を叩き、また振る、を繰り返していた。
「面白いか?良かったな」
「ああう」
凜は返事をするように言って、僕を見上げた。
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「ごきげんね」
御崎美里、旧姓及び芸名、霜月美里。若手ナンバーワンのトップ女優だ。演技力のある美人で気が強く、遠慮をしない発言から、美里様と呼ばれている。そして、僕の妻である。
美里はにこにことして、それを見ていた。
「もう正月休みも終わりだな。明日からまた仕事か」
「あっという間ね」
「ああ。今年は、面倒臭い事件が起こらないといいな」
「望み薄ね」
にべもない。
と、テレビがニュースになり、女子大生がひき逃げされて死亡したと報じられた。
「ひき逃げか」
「新年早々、気の毒にね」
僕達は被害者の顔写真を見ながらそう言い合った。
東内は、テレビを消して、深くソファに体を沈めた。
東内武人、将来を嘱望されているプロになりたてのサッカー選手だ。
「大丈夫かな。見られてなかっただろうな。
ああ、何であいつを止めなかったんだろう」
悔やんでも悔やみきれない。
と、どこからか鈴の音が聞こえて来た。
「ん?」
キョロキョロとして耳を澄ませてみる。神社で巫女が舞う時に使う、神楽鈴のような音だ。
しかし東内は1人暮らしだし、そんな鈴も持っていない。近くに神社も無い。
「何だ?」
気のせいにしては、マンションの中からハッキリ聞こえて来るし、どうも、いやに寒い。
「え、何?」
不安でいっぱいになりながら落ち着きなくそわそわとしていると、背後に気配を感じて、慌てて立ち上がる。
そこには、白い着物に緋袴を着た巫女姿の若い女が立ち、神楽鈴を振っていた。
「え、巫女さん?」
それはわかる。しかし、家の中に突然現れた理由はわからない。いや、わかりたくなかった。
そしてそれは、掛け声をかけながら、手拍子を打った。
ひきましょ パンパン
もひとつせ パンパン
呪うて三度 パパンパン
「はあ?」
わけがわからない。だが、恐ろしい。
東内はソロリソロリと後ずさり、近付いて来る巫女から逃れようとしたが、巫女は同じスピードで進んで来る。
やがて、背中がキッチンのシンクに当たり、肘が包丁ラックにぶつかった。それで、ラックが倒れ、包丁がバラバラと零れ落ちた。
その内の1本が、東内の足の甲に深々と突き刺さる。
「ギャアアアア!!」
巫女の幽霊の事も一瞬忘れて、痛みに声を張り上げた。
そして、ハッとして顔を戻すと、巫女はその場から消えていた。
「え?何?え?痛てててて!これ、自分で抜くの?救急車――電話は向こう……痛たたた」
巫女のショックと痛みのショックとにわけがわからなくなる東内だったが、落ち着いた時、決して巫女がたまたま消えてくれたわけではない、これで終わりではなかったのだと、思い知るのだった。
振ったりすれば音が出て光るもので、振って音と光に喜んでは手を叩き、また振る、を繰り返していた。
「面白いか?良かったな」
「ああう」
凜は返事をするように言って、僕を見上げた。
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「ごきげんね」
御崎美里、旧姓及び芸名、霜月美里。若手ナンバーワンのトップ女優だ。演技力のある美人で気が強く、遠慮をしない発言から、美里様と呼ばれている。そして、僕の妻である。
美里はにこにことして、それを見ていた。
「もう正月休みも終わりだな。明日からまた仕事か」
「あっという間ね」
「ああ。今年は、面倒臭い事件が起こらないといいな」
「望み薄ね」
にべもない。
と、テレビがニュースになり、女子大生がひき逃げされて死亡したと報じられた。
「ひき逃げか」
「新年早々、気の毒にね」
僕達は被害者の顔写真を見ながらそう言い合った。
東内は、テレビを消して、深くソファに体を沈めた。
東内武人、将来を嘱望されているプロになりたてのサッカー選手だ。
「大丈夫かな。見られてなかっただろうな。
ああ、何であいつを止めなかったんだろう」
悔やんでも悔やみきれない。
と、どこからか鈴の音が聞こえて来た。
「ん?」
キョロキョロとして耳を澄ませてみる。神社で巫女が舞う時に使う、神楽鈴のような音だ。
しかし東内は1人暮らしだし、そんな鈴も持っていない。近くに神社も無い。
「何だ?」
気のせいにしては、マンションの中からハッキリ聞こえて来るし、どうも、いやに寒い。
「え、何?」
不安でいっぱいになりながら落ち着きなくそわそわとしていると、背後に気配を感じて、慌てて立ち上がる。
そこには、白い着物に緋袴を着た巫女姿の若い女が立ち、神楽鈴を振っていた。
「え、巫女さん?」
それはわかる。しかし、家の中に突然現れた理由はわからない。いや、わかりたくなかった。
そしてそれは、掛け声をかけながら、手拍子を打った。
ひきましょ パンパン
もひとつせ パンパン
呪うて三度 パパンパン
「はあ?」
わけがわからない。だが、恐ろしい。
東内はソロリソロリと後ずさり、近付いて来る巫女から逃れようとしたが、巫女は同じスピードで進んで来る。
やがて、背中がキッチンのシンクに当たり、肘が包丁ラックにぶつかった。それで、ラックが倒れ、包丁がバラバラと零れ落ちた。
その内の1本が、東内の足の甲に深々と突き刺さる。
「ギャアアアア!!」
巫女の幽霊の事も一瞬忘れて、痛みに声を張り上げた。
そして、ハッとして顔を戻すと、巫女はその場から消えていた。
「え?何?え?痛てててて!これ、自分で抜くの?救急車――電話は向こう……痛たたた」
巫女のショックと痛みのショックとにわけがわからなくなる東内だったが、落ち着いた時、決して巫女がたまたま消えてくれたわけではない、これで終わりではなかったのだと、思い知るのだった。
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