体質が変わったので

JUN

文字の大きさ
上 下
666 / 1,046

とおりゃんせ(1)七五三

しおりを挟む
 羽織袴の凛々しい姿を見て、うん、と頷く。
「似合うぞ、敬。格好いい」
 御崎 怜みさき れん。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
 甥の敬も5歳になり、七五三のお参りだ。
 まずは写真館で写真だけを撮り、当日、貸衣装で神社へ行くのだ。
「えへへ」
 敬は嬉しそうに笑った。
 写真はもう写真館で撮ったが、それはそれ、今日は今日だ。冴子姉は、写真撮影に忙しい。
「こっち向いて、敬。シャキッと」
 注文をつけ、角度を変えたりして写真を撮る。
 御崎冴子みさきさえこ。姉御肌のさっぱりとした気性の兄嫁だ。母子家庭で育つが母親は既に亡い。
「冴子姉も兄ちゃんも、敬と一緒に撮らないのか?僕が撮るから」
「そうだな。じゃあ、頼む、怜」
 兄と冴子姉は敬の隣に並んで、本殿をバックに撮る。
 ああ。敬もいいが、兄ちゃんも格好いい。冴子姉もハンサムなタイプでスーツが似合うし。この写真、僕ももらおう。
 11月の土日にお参りをという人が多く、この神社でも敬のほかに8人いる。どの子も、写真館の写真ではスーツも撮るようだが、当日は和装が多いらしい。
 着慣れない着物に動きづらそうな子もいるし、チャンバラごっこをしたそうな子もいる。
 そんな子供達はまとめて、巫女さんに連れられ、祈祷の為に本殿に上がる。それに、居並ぶ親達が、カメラやビデオを向ける。
「敬も5歳か。早いなあ」
 しみじみと言うと、兄も、
「昨日の事みたいなのにな、生まれたの」
と言う。
 御崎 司みさき つかさ。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視正だ。
「怜も七五三、可愛かったぞ。千歳あめを半分くれて、その後あめにかぶりついたら、歯がくっついて涎まみれになって」
「ええー。それ、恥ずかしい」
「子供だからいいんだ」
 兄は笑った。
 子供達は並んだパイプ椅子に座って祈祷を受けるのだが、すでに落ち着きなくそわそわとしている子もいれば、不安そうに親の方を見ている子もいるし、じっと神主さんや巫女さんを見ている子もいる。
 敬は大人しく神主さんを見ていた。
 やがて祈祷が終わると、各々千歳あめの袋を貰って、また、並んで廊下をグルッと回って出て来る。
 が、不意に、何か気配がした。
「ん?何だ、これ」
「どうした、怜」
「何か、短く気配がした」
 僕と兄が、たちどころに緊張する。
 いつまでたっても子供達が出て来ないので、ほかの親達も、伸び上がって廊下の奥を覗き込んだりし始める。
 やがて、血相を変えた巫女が本殿に走り込んで、何かを神主に言い、神主も顔色を変えた。
「ちょっと行って来る」
 僕は本殿に近付き、小声で神主に話しかけた。
「陰陽課で霊能師の御崎です。何かありましたね。次元の穴、とか」
 神主と巫女は、息を呑んだ。
「あの、こちらに」
 言われ、子供達が通って行った通路を辿って行く。向こうからも神主と巫女が足早にやって来た。
 気配の残滓がある所で足を止めると、巫女は泣きそうな顔で言った。
「そこです。そこに陽炎みたいなものができて、そこに子供達が皆」
「わかりました。ちょっと行ってきます」
「は?」
「警察官の兄に説明したら、上手く混乱を避けるように説明できるはずですから」
 言って、次元の穴の痕跡を辿るように潜り込んだ。
 敬、今行くからな!待ってろよ!


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

女装バーならドクターストップ!

緒方あきら
キャラ文芸
 ホストをこころざし、お客さんの悲しい目を救いたいと願った青年・藤岡彰人。  夢破れ行き倒れていた彼を拾った女装バー『ドクターストップ』の主、エリザベス茂美。  見た目はゴリラ、しかし心は女神の如き懐の深さと、相手の心情を瞬時に察する洞察力の持ち主である。茂美の接客に憧れ女装バーに勤務することになった彰人は、誰もが見惚れるほどの可愛い男の娘へとなっていく。  閉ざされていた彰人の心はスタッフである美少女男の娘(!?)ナルとバーテンダー古賀との出会いや、訪れるお客さんたちの悲しい物語に触れて変わり始めていった。  そして、あらゆる悲しみを優しく包み込む茂美を目の当たりにして、『悲しい目を変えてあげたい』という思いは募っていく。  ドクターストップでの仕事に追われながら、様々な人々との交流が彰人を少しずつ変えていき――  そんなある日、茂美が倒れてしまう。  茂美のいない店を任されたのは、ほかでもない彰人であった。  茂美不在のドクターストップの最終日、心に大きな傷を負った女性を前に、彰人は心の中で何度も茂美に問いかける。そして彼女の傷を少しずつ、そっと包み込んでいくのであった。  シリアスあり、女装あり、コメディありのお手軽グルメもちょっとあり。  盛りだくさんなひとりの青年の成長物語。

おおかみ宿舎の食堂でいただきます

ろいず
キャラ文芸
『おおかみ宿舎』に食堂で住み込みで働くことになった雛姫麻乃(ひなきまの)。麻乃は自分を『透明人間』だと言う。誰にも認識されず、すぐに忘れられてしまうような存在。 そんな麻乃が『おおかみ宿舎』で働くようになり、宿舎の住民達は二癖も三癖もある様な怪しい人々で、麻乃の周りには不思議な人々が集まっていく。 美味しい食事を提供しつつ、麻乃は自分の過去を取り戻していく。

王太子殿下に婚約者がいるのはご存知ですか?

通木遼平
恋愛
フォルトマジア王国の王立学院で卒業を祝う夜会に、マレクは卒業する姉のエスコートのため参加をしていた。そこに来賓であるはずの王太子が平民の卒業生をエスコートして現れた。 王太子には婚約者がいるにも関わらず、彼の在学時から二人の関係は噂されていた。 周囲のざわめきをよそに何事もなく夜会をはじめようとする王太子の前に数名の令嬢たちが進み出て――。 ※以前他のサイトで掲載していた作品です

順応力が高すぎる男子高校生がTSした場合

m-kawa
キャラ文芸
 ある日リビングでテレビを見ていると突然の睡魔に襲われて眠ってしまったんだが、ふと目が覚めると……、女の子になっていた!  だがしかし、そんな五十嵐圭一はとても順応力が高かったのだ。あっさりと受け入れた圭一は、幼馴染の真鍋佳織にこの先どうすればいいか協力を要請する。  が、戸惑うのは幼馴染である真鍋佳織ばかりだ。  服装しかり、トイレや風呂しかり、学校生活しかり。  女体化による葛藤? アイデンティティの崩壊?  そんなものは存在しないのです。  我が道を行く主人公・圭一と、戸惑いツッコミを入れるしかない幼馴染・佳織が織りなす学園コメディ! ※R15は念のため

たまり場に湯気

闇雲の風
児童書・童話
女子が一人、空腹で倒れていた。 食事を用意してあげたら、空き部屋を貸してくれるらしい。 1990年代のおはなし。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

イレブン

九十九光
キャラ文芸
東日本を襲った震災から2週間。私、樋口明美は被災者の少年をクラス担任として受け持つこととなった。元々いじめや虐待を受けて心に傷を負っていた彼と、その他の多感な時期の生徒たちに悪戦苦闘しながら、私は教師人生で一生忘れられない1年を駆け抜けていく。

桜の季節

清杉悠樹
恋愛
定年を迎えた男は、亡き妻を思い出し自分の昔を振り返る。 誰にでも訪れる人生の週末。 貴方の幸せとはなんですか? ショートストーリーです。少し切なさが表現できたらなと思いながら書きました。

処理中です...