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嵐の夜(5)ドッチ
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ドアチャイムを押そうとした瞬間、室内でいきなり爆発的な霊の気配がしたので、僕と直は中へ飛び込んだ。
ワンルームマンションの部屋の真ん中で、腰を抜かした自称和也と結城さんの霊が睨み合っていた。離れた所に彼の兄弟の霊もオロオロとして立っていた。
「直、取り敢えず両方共」
「りょうかーい」
直が札で、霊2体を拘束する。
「松永さん?大丈夫ですか?」
放心しているところを、肩を軽く揺すってみると、ハッと正気に戻ったように、ガクガクと頷く。
「今ドアチャイムを鳴らそうとしたら凄い声が聞こえて、飛び込んで来てしまいました」
「ああ、ありがとう。助かりました。怖かった」
彼は泣きそうになって、ヨロヨロと立ち上がると、冷蔵庫からペットボトルのお茶を出し、飲んだ。
「はああ……」
「申し遅れました。警視庁の御崎と申します」
「同じく町田と申しますぅ」
「え?」
「失礼します。警視庁の上田です」
「失礼します。警視庁の田中です」
2人が追加で入って来る。
「え?何、え?」
「まあ、落ち着いて。さ、座って下さいねえ」
直がにこやかに家主のように勧め、言われるがままに、床の上に座る。
「松永和也さんですか」
上田課長が、目は笑わないままに訊く。
「あ?はい」
「それとも、達也さんですか」
「え?和也ですけど?」
「そうですか。
結城麻美さんが殺害された件ですが、カズヤと呼ばれる人物と揉めていた声を聞いていた人物がいましてね。その直後、午後7時半頃に殺されたというのは明らかなんですよ」
「え……いや……他のカズヤなんじゃないですか?」
眼球が忙しく動いている。
「午後7時半、外を見る松永さんを、通行人の方が目撃していますが」
「そ、そう!俺はここにいたんです!風でかつらが飛んだのを見たんですから!その後目がバッチリ合ったんですよ!?」
「その松永さんは、どちらの松永さんだったんでしょうね」
「……え?」
呼吸が浅く、唇が乾燥して、ひっきりなしに舐めている。
上田課長は徐にポケットからスマホを取り出した。そして、それを再生する。
『待って、カズヤ、やめ――痛い!』
『付きまとうのはやめてくれって言ったよな』
『カズ――』
『死んでくれよ。な』
ゴボボ、ザバッ、ガボッ…………。
『彼女ができそうになったらある事無い事言いふらして。やめてくれよ。いつ俺がお前とそういう仲になったんだよいい加減にしろよ』
ザッ、バシャッ、ガボボボボ…………。
蒼白な顔で固まる松永を、全員で見つめる。
「結城さん。あなた、松永和也さんに殺されましたか」
訊くと、彼女は笑って肯定した。
そうよ。水の中に抑え込まれて、死んだら全身川に放り込まれたわ
だから、和也は離さない
一生 そばにいるわ
松永兄弟が、ビクッとする。
上田課長は、もう1台のスマホを出した。
「これは松永和也名義のスマホですね。静脈認証でロックですか」
「……」
「外せますか」
「……」
ねえ。あなた、どっち?
和也?達也?ねえ、どっち?
「う、うわああああ!!
すみません、すみません、すみません!俺は達也です!松永達也です!」
松永は土下座し、霊の方は溜め息をつき、結城さんはグリンと顔を、霊の松永に向けて笑った。
「そんな、和也が、殺人なんて」
そちらも見えるように直が札をきる。
「兄貴!?聞いてないよ!」
「ううーん。上手く行くと思ったのに」
「上手く?」
直が訊く。
「そう。達也は借金から解放されて、俺はアリバイがあっていい人のまま」
「……」
「どこで失敗したんだろう」
僕は溜め息をついて言った。
「見逃さないよ、僕達は。回り道をしても、時間がかかっても、疑惑は必ず明らかにする。
あの世で反省するんだな。
松永達也。お前は現世で」
兄弟は力なく項垂れた。
陰陽課のデスクで、僕と直は喋っていた。
「酷い兄弟だったな。和也は爽やかかと思いきや腹黒いし」
「でも、よくスマホが生き返ったねえ」
「結城さんの方は、死ぬ前に録音してて、それをかばんごと抱いてガードする形になったんだろうな。それで衝撃が和らいだんだろ」
「執念だったりしてねえ。結城さんの」
「……怖いな……」
話していると、千歳さんが来た。
「一課長が、礼を言ってましたよ」
「あはは。解決して良かったよ。なあ」
「そうだねえ。一課長の迫力、カッコ良かったしねえ」
「また何かの時はよろしくと」
「はい」
そこへ、八分さんと征木さんが駈け込んで来た。
「大変です!名前がわからない遺体の身元を聞き出せないかと――」
「三つ子の乳児が死んで、誰かわからないと!」
「……だめだ。面倒臭い事になったぞ」
「無理。乳児は話せないよねえ」
僕達は頭を抱えたのだった。
ワンルームマンションの部屋の真ん中で、腰を抜かした自称和也と結城さんの霊が睨み合っていた。離れた所に彼の兄弟の霊もオロオロとして立っていた。
「直、取り敢えず両方共」
「りょうかーい」
直が札で、霊2体を拘束する。
「松永さん?大丈夫ですか?」
放心しているところを、肩を軽く揺すってみると、ハッと正気に戻ったように、ガクガクと頷く。
「今ドアチャイムを鳴らそうとしたら凄い声が聞こえて、飛び込んで来てしまいました」
「ああ、ありがとう。助かりました。怖かった」
彼は泣きそうになって、ヨロヨロと立ち上がると、冷蔵庫からペットボトルのお茶を出し、飲んだ。
「はああ……」
「申し遅れました。警視庁の御崎と申します」
「同じく町田と申しますぅ」
「え?」
「失礼します。警視庁の上田です」
「失礼します。警視庁の田中です」
2人が追加で入って来る。
「え?何、え?」
「まあ、落ち着いて。さ、座って下さいねえ」
直がにこやかに家主のように勧め、言われるがままに、床の上に座る。
「松永和也さんですか」
上田課長が、目は笑わないままに訊く。
「あ?はい」
「それとも、達也さんですか」
「え?和也ですけど?」
「そうですか。
結城麻美さんが殺害された件ですが、カズヤと呼ばれる人物と揉めていた声を聞いていた人物がいましてね。その直後、午後7時半頃に殺されたというのは明らかなんですよ」
「え……いや……他のカズヤなんじゃないですか?」
眼球が忙しく動いている。
「午後7時半、外を見る松永さんを、通行人の方が目撃していますが」
「そ、そう!俺はここにいたんです!風でかつらが飛んだのを見たんですから!その後目がバッチリ合ったんですよ!?」
「その松永さんは、どちらの松永さんだったんでしょうね」
「……え?」
呼吸が浅く、唇が乾燥して、ひっきりなしに舐めている。
上田課長は徐にポケットからスマホを取り出した。そして、それを再生する。
『待って、カズヤ、やめ――痛い!』
『付きまとうのはやめてくれって言ったよな』
『カズ――』
『死んでくれよ。な』
ゴボボ、ザバッ、ガボッ…………。
『彼女ができそうになったらある事無い事言いふらして。やめてくれよ。いつ俺がお前とそういう仲になったんだよいい加減にしろよ』
ザッ、バシャッ、ガボボボボ…………。
蒼白な顔で固まる松永を、全員で見つめる。
「結城さん。あなた、松永和也さんに殺されましたか」
訊くと、彼女は笑って肯定した。
そうよ。水の中に抑え込まれて、死んだら全身川に放り込まれたわ
だから、和也は離さない
一生 そばにいるわ
松永兄弟が、ビクッとする。
上田課長は、もう1台のスマホを出した。
「これは松永和也名義のスマホですね。静脈認証でロックですか」
「……」
「外せますか」
「……」
ねえ。あなた、どっち?
和也?達也?ねえ、どっち?
「う、うわああああ!!
すみません、すみません、すみません!俺は達也です!松永達也です!」
松永は土下座し、霊の方は溜め息をつき、結城さんはグリンと顔を、霊の松永に向けて笑った。
「そんな、和也が、殺人なんて」
そちらも見えるように直が札をきる。
「兄貴!?聞いてないよ!」
「ううーん。上手く行くと思ったのに」
「上手く?」
直が訊く。
「そう。達也は借金から解放されて、俺はアリバイがあっていい人のまま」
「……」
「どこで失敗したんだろう」
僕は溜め息をついて言った。
「見逃さないよ、僕達は。回り道をしても、時間がかかっても、疑惑は必ず明らかにする。
あの世で反省するんだな。
松永達也。お前は現世で」
兄弟は力なく項垂れた。
陰陽課のデスクで、僕と直は喋っていた。
「酷い兄弟だったな。和也は爽やかかと思いきや腹黒いし」
「でも、よくスマホが生き返ったねえ」
「結城さんの方は、死ぬ前に録音してて、それをかばんごと抱いてガードする形になったんだろうな。それで衝撃が和らいだんだろ」
「執念だったりしてねえ。結城さんの」
「……怖いな……」
話していると、千歳さんが来た。
「一課長が、礼を言ってましたよ」
「あはは。解決して良かったよ。なあ」
「そうだねえ。一課長の迫力、カッコ良かったしねえ」
「また何かの時はよろしくと」
「はい」
そこへ、八分さんと征木さんが駈け込んで来た。
「大変です!名前がわからない遺体の身元を聞き出せないかと――」
「三つ子の乳児が死んで、誰かわからないと!」
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僕達は頭を抱えたのだった。
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