体質が変わったので

JUN

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ボディーガード(2)訓練

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 警護対象者を囲んで、部屋に向かう。
『エレベーター、4階エレベーターホール、問題なし』
「了解。4階へ向かいます」
 無線に返し、エレベーターに乗り込んで、4階、目指すフロアに向かう。
 浮遊感の後、チーンという音がして、ドアが開く。ドア正面にはSPが立ち、万が一に備える。
 何の問題も無い事を確認し、エレベーターを降りると、要人を囲んで、曲がり角ごとに注意をしながら部屋へ向かった。
 ドアの前には仲間のSPがいて、
「部屋の中はクリーンでした」
と報告する。
「了解」
 言って、それでも、先にドアを開けて中に入った。
 安全を確認したのだから、爆発物などはないという事だろうが、天井に潜んでいたとか、時間差の仕掛けがあるとか、何かがあるかも知れない。
「大丈夫ですね。どうぞ」
 亀田さんが言って、要人が入室して来る。
 と、窓の向こう、1キロ先のビルの窓で何かが光った。
「待った!しゃがんで下さい!」
 言いながら、僕と直は、要人と亀田を押し倒すように窓から見えない位置へと押しやった。
 次の瞬間、窓の向かい側の壁に、赤いレーザーポインターが当てられた。
「え!?」
 亀田さんが声を上げた。
「狙撃手がいる。向かいのマンション7階右端の窓」
 報告している内に、直が要人を促して姿勢を低くしたまま廊下へと出る。
「退避しますねえ。階段を使いますよぉ」
「わかった」
「おい、裏の非常階段はこっちだぞ」
 亀田は反対側に向かう僕達に言うが、
「そっちは狙撃手の的になる。表から行くべきだ。
 こちらA班。車を表に回して下さい」
言いながら、足早に階段を下りる。
「だったらエレベーターで――」
「トラップの予感しかしない。エレベーターごと落ちるとか」
 と、何か細い線がよぎって、足を止めさせる。
「ストップ。
 ワイヤートラップか」
 階段の幅いっぱいに、ワイヤーが張られていた。ワイヤーの片端は消火器の陰に押し込まれた手りゅう弾につながっており、足を引っかけたらドカンと爆発するところだった。
 それをまたいで、先へと進む。
 1階に着いた曲がり角で、ホテルスタッフの制服を着た青年がいた。サッと身を引いて進路を空ける――ようにして、ナイフを突き出す。
 それを、弾き、腕をねじって背中を蹴り飛ばし、先を急ぐ。
 宿泊客らしき和服の上品な老婦人が廊下の椅子に座っていた。そして何気なく袂から拳銃を出したところを、蹴り飛ばすと、かつらが吹っ飛んで、拳銃も落下した。
 オートマチック。拾って弾倉を外したところで、ナイフに持ち替えて襲って来たので、転がして抑え込み、帯留めで両手を背中で縛り上げる。
 直はと見ると、清掃員の格好の襲撃者からナイフを取り上げ、ベルトで後ろ手に縛りあげていた。
「行きましょう」
 玄関を目指し、そして、車に近付く。
 車にはSPが貼り付いており、警戒をしていたが、後部座席の秘書が気付いて声を上げる。
「先生!」
「車の中へ」
 亀田さんが要人を促す。
「待った!」
 僕は秘書に銃を突き付けた。
「は?おま、何やってるんだよ?」
 亀田さんがポカンとした顔をする。
「この秘書、さっきよりも太ってます。爆弾でも巻き付けたか?」
「ええ!?」
 皆の視線を集め、秘書は笑ってジャケットの前を開いて、プラスチック爆弾のベストを見せた。
「お見事。合格ね」
 空気が一気に弛緩した。
 ここは警察大学の中にある訓練施設だ。ここで、大掛かりな実地訓練をしている最中だった。
 襲撃者役も、勿論警官だ。
「嘘だろ。全部かわす?」
 襲撃者役がぼやきながら集まって来る。
「でも1つだけ」
 秘書役の先輩が言う。
「太ったはないでしょ」
「いやあ、すみません」
 肩や腕などをさすりながら現れる人達にも、
「すみません。加減はしたんですが」
「すみませんねえ」
と謝っておく。
「カメよぉ」
「すみません……」
 亀田さんは、がっくりと肩を落とした。

 亀田は、先輩の言っていた事を噛み締めていた。
 射撃をしても怜と直が上、接近戦は小太刀の修練のせいらしくもうケタ外れに強い。実地なら自分に一日の長があると思っていたのに、このザマだ。秘書の自爆に気付くなど、これは今までにもなかなかクリアできなかったらしいし、狙撃手に至っては、ゼロらしい。それを敢えて入れたのは、単に、部屋から慌てて追い出す為だったらしく、クリアされて驚いていた。
 先輩も係長もべた褒めで、本格的に来いとかリクルートしている。
「はああ」
「カメ」
 先輩が来た。
「あ。すいません」
「いい経験になっただろ。それでいい」
「でもまあ、戦力としてアテにしていいって事はありがたい。だろ」
「はい!」
「よし。じゃあ、反省会だ」
 皆の顔が、引き締まった。

 周二は、霊を封じ込めた壺を用意していた。
 後はこれを、上手く仕込むだけだ。
「ふう。よろしく頼むぜ」
 そして、壺を愛おし気に撫でた。



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