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野天風呂(4)危険
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迫る鮫沢さんの腕を、刀でブロックする。
「鮫沢さんですね。ここで、亡くなった」
あああああ!!
殺されたようなもの!
あいつら!
鮫沢さんは、怒り狂っていた。
「何があったんですか。あいつらとは?」
「ボク達は警察ですねえ。事情を聴かせて欲しいですねえ」
野天風呂に来て、夜景を見ながらお湯に入って
服を着ていたら人が来た
酔った若い男が5人
地元の人みたいだった
それで、レイプされそうになって
逃げているうちに崖に追い詰められて
落ちた
冷たくて 寒くて 怖くて 寂しくて
「それで、温泉に一緒に入る仲間を集めようと?」
鮫沢さんは、ニイ、と口の両端を吊り上げた。
「それはだめですよ。
鮫沢さん。ここにいても寒い。逝きましょう。
その男達は、捕まえますから。名前とか特徴とか、覚えていませんか」
リーダーは、ヤスって呼ばれてた
ああ、あいつら
順番をじゃんけんで決めて
嫌、いや、イヤ、イヤ
コワイ イッショニイマショウ
シンデ サミシイカラ
「鮫沢さん」
鮫沢さんは恨みと怒りの気配を濃くし、こちらを殺そうと、ひたすら狙って来る。
「……だめか。祓う」
「了解」
大きく突き出した両手を払いのけ、刀で一気に斬りつける。
アアアアア……!!
ああ……
鮫沢さんはキョトンとしたような顔をして、ほろほろと崩れるように光になっていくと、消えて行った。
それを、呆然としたように眺めている捜査員に、振り返って訊く。
「今言っていたヤスっていう男を含む5人組、わかりますか」
彼はハッと我に返り、シャキッとして言った。
「はい!地元の悪ガキグループです。今年で23歳。今、別の暴行罪で服役中です」
「ウラがとれるかねえ」
「難しいだろうなあ」
「上とも相談しますが、多分、黙っていたとは思えない性格です。当時の知人友人にあたれば、何か出るかも知れません。あと、被害者の服、持ち物を、洗い直します」
「指紋でも出ればいいねえ」
こうして、血洗い池の秘密は露わになった。
グツグツと鍋がいい音を立てている。
「そろそろいいかな。さあ、どうぞ」
湯気と香りがふわっと立ち昇る。
「うわあ、美味しそう」
徳川さんが、ホクホク顔でとんすいに具を入れる。
「熱いからね。よく冷まさないと火傷するわよ」
冴子姉が、敬のとんすいによそって、ふうふうと冷ます。
御崎冴子。姉御肌のさっぱりとした気性の兄嫁だ。母子家庭で育つが母親は既に亡い。
「ちくわじゃないの?きりたんぽ?」
「そう。お米でできてるんだぞ」
兄が言いながら、自分のとんすいによそう。
御崎 司。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視正だ。
「きりたんぽって、初めてです」
町田千穂、旧姓舞坂。交通課の警察官だ。仕事ではミニパトで安全且つ大人しい運転をしなければいけないストレスからなのか、オフでハンドルを握ると別人のようになってしまうスピード狂だった。が、今は安全運転に目覚めたようで何よりだ。直よりも1つ年上である。
「向こうで食べたのがボクも初めてだったねえ」
今日はこのメンバーで、お土産を使っての鍋だ。
「じゃあ改めて。いただきます!」
それで、食べ始める。
「よくしゅんでるなあ」
「熱っ。はあ。やっぱり鍋だねえ、冬は」
徳川さんと兄は機嫌よく、ビールを注ぎ合っていた。
やがて話は出張中の事になり、差しさわりのない範囲の話をする。
「温泉かあ。いいわねえ」
冴子姉が言うと、徳川さんと兄が申し訳なさそうな顔をする。警察官である以上、気軽に家族旅行とはいきにくい。上司に申請書を出して許可を貰って、やっとだ。
「そうだ。冴子と敬で行って来るか?何なら美里ちゃんも誘ってみたらどうだ」
「いいわね。楽しそう」
「温泉?」
「大きいお風呂だな」
「この前行った、いっぱいお風呂があるとこ?」
敬が訊く。スーパー銭湯の事を言っているらしい。
「そうよ」
「怜君と直君が泊まった所は、洞窟風呂が有名らしいね」
徳川さんのセリフに、僕と直はきりたんぽにむせそうになった。
「あそこはだめ!やめた方がいい!お勧めしない!」
それに皆が、いぶかし気な顔をする。
「うう……。悟ってない爺さんのいる、混浴なんだ!」
それに、兄と徳川さんがビールを吹きかける。
「直君。まさか」
「え!?ボクも怜も、知らなかったんだよねえ!そ、それに、女性は湯あみ着を着てたし!ねえ!?」
「そう!冤罪!見てない!」
「あら。だったら、私と美里ちゃんが行ってもいいわよね?」
「それはだめ!」
それで冴子姉と千穂さんが吹き出し、皆、つられて笑い出す。
「ぼく、皆と入れるところがいいなあ。この前のトコ!」
「ようし、いいぞ、敬。また行こうな、スーパー銭湯」
「うん!」
「はあ。混浴は面倒臭い」
僕と直は顔を見合わせ、肩を竦めた。
「鮫沢さんですね。ここで、亡くなった」
あああああ!!
殺されたようなもの!
あいつら!
鮫沢さんは、怒り狂っていた。
「何があったんですか。あいつらとは?」
「ボク達は警察ですねえ。事情を聴かせて欲しいですねえ」
野天風呂に来て、夜景を見ながらお湯に入って
服を着ていたら人が来た
酔った若い男が5人
地元の人みたいだった
それで、レイプされそうになって
逃げているうちに崖に追い詰められて
落ちた
冷たくて 寒くて 怖くて 寂しくて
「それで、温泉に一緒に入る仲間を集めようと?」
鮫沢さんは、ニイ、と口の両端を吊り上げた。
「それはだめですよ。
鮫沢さん。ここにいても寒い。逝きましょう。
その男達は、捕まえますから。名前とか特徴とか、覚えていませんか」
リーダーは、ヤスって呼ばれてた
ああ、あいつら
順番をじゃんけんで決めて
嫌、いや、イヤ、イヤ
コワイ イッショニイマショウ
シンデ サミシイカラ
「鮫沢さん」
鮫沢さんは恨みと怒りの気配を濃くし、こちらを殺そうと、ひたすら狙って来る。
「……だめか。祓う」
「了解」
大きく突き出した両手を払いのけ、刀で一気に斬りつける。
アアアアア……!!
ああ……
鮫沢さんはキョトンとしたような顔をして、ほろほろと崩れるように光になっていくと、消えて行った。
それを、呆然としたように眺めている捜査員に、振り返って訊く。
「今言っていたヤスっていう男を含む5人組、わかりますか」
彼はハッと我に返り、シャキッとして言った。
「はい!地元の悪ガキグループです。今年で23歳。今、別の暴行罪で服役中です」
「ウラがとれるかねえ」
「難しいだろうなあ」
「上とも相談しますが、多分、黙っていたとは思えない性格です。当時の知人友人にあたれば、何か出るかも知れません。あと、被害者の服、持ち物を、洗い直します」
「指紋でも出ればいいねえ」
こうして、血洗い池の秘密は露わになった。
グツグツと鍋がいい音を立てている。
「そろそろいいかな。さあ、どうぞ」
湯気と香りがふわっと立ち昇る。
「うわあ、美味しそう」
徳川さんが、ホクホク顔でとんすいに具を入れる。
「熱いからね。よく冷まさないと火傷するわよ」
冴子姉が、敬のとんすいによそって、ふうふうと冷ます。
御崎冴子。姉御肌のさっぱりとした気性の兄嫁だ。母子家庭で育つが母親は既に亡い。
「ちくわじゃないの?きりたんぽ?」
「そう。お米でできてるんだぞ」
兄が言いながら、自分のとんすいによそう。
御崎 司。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視正だ。
「きりたんぽって、初めてです」
町田千穂、旧姓舞坂。交通課の警察官だ。仕事ではミニパトで安全且つ大人しい運転をしなければいけないストレスからなのか、オフでハンドルを握ると別人のようになってしまうスピード狂だった。が、今は安全運転に目覚めたようで何よりだ。直よりも1つ年上である。
「向こうで食べたのがボクも初めてだったねえ」
今日はこのメンバーで、お土産を使っての鍋だ。
「じゃあ改めて。いただきます!」
それで、食べ始める。
「よくしゅんでるなあ」
「熱っ。はあ。やっぱり鍋だねえ、冬は」
徳川さんと兄は機嫌よく、ビールを注ぎ合っていた。
やがて話は出張中の事になり、差しさわりのない範囲の話をする。
「温泉かあ。いいわねえ」
冴子姉が言うと、徳川さんと兄が申し訳なさそうな顔をする。警察官である以上、気軽に家族旅行とはいきにくい。上司に申請書を出して許可を貰って、やっとだ。
「そうだ。冴子と敬で行って来るか?何なら美里ちゃんも誘ってみたらどうだ」
「いいわね。楽しそう」
「温泉?」
「大きいお風呂だな」
「この前行った、いっぱいお風呂があるとこ?」
敬が訊く。スーパー銭湯の事を言っているらしい。
「そうよ」
「怜君と直君が泊まった所は、洞窟風呂が有名らしいね」
徳川さんのセリフに、僕と直はきりたんぽにむせそうになった。
「あそこはだめ!やめた方がいい!お勧めしない!」
それに皆が、いぶかし気な顔をする。
「うう……。悟ってない爺さんのいる、混浴なんだ!」
それに、兄と徳川さんがビールを吹きかける。
「直君。まさか」
「え!?ボクも怜も、知らなかったんだよねえ!そ、それに、女性は湯あみ着を着てたし!ねえ!?」
「そう!冤罪!見てない!」
「あら。だったら、私と美里ちゃんが行ってもいいわよね?」
「それはだめ!」
それで冴子姉と千穂さんが吹き出し、皆、つられて笑い出す。
「ぼく、皆と入れるところがいいなあ。この前のトコ!」
「ようし、いいぞ、敬。また行こうな、スーパー銭湯」
「うん!」
「はあ。混浴は面倒臭い」
僕と直は顔を見合わせ、肩を竦めた。
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