体質が変わったので

JUN

文字の大きさ
上 下
572 / 1,046

百万両の夜景(2)浮世離れしたお嬢さん

しおりを挟む
 美里と千穂は、少しウインドウショッピングをしてから、混みあう雑踏を歩いていた。
 と、前方で、人波が乱れる所があるようだった。立ち止まるか何かしている人がいるらしい。
「あの女の子ね」
「個性的な恰好ね」
 10代終わりくらいだろうか。辺りを物珍しそうに眺めまわす女の子がいた。大きなリボンをつけ、クラシックな感じのワンピースを着ていた。
 と、どこかの田舎から出て来た子と思ったのか、大学生くらいの下品な下心丸出しのグループが、チラチラと彼女に視線を送って何か相談しているのが見えた。
 美里と千穂は彼女に近付き、当たり前の顔をして話しかけた。
「待たせたかしら」
「行きましょう。もう、警部もお待ちですから」
 言い、両側から彼女を挟んでその場を離れた。
 そして、人混みから外れたところで、足を止めた。
「あのぉ」
「大丈夫。ついて来てはいないみたい」
 千穂が言い、2人は彼女と向き合った。
「あんまり良くない人に目を付けられていたみたいだったから」
「まあ。ありがとうございました。全然気づきませんでしたわ。こんなにたくさんの人が歩いているのも、大きな建物も、初めてなものでしたので、珍しくて、見とれてしまいましたの」
 2人は顔を見合わせた。
 どこのド田舎でも、テレビでならこんな風景は見慣れているだろうに。
「私は、霜月美里です」
「初めまして。私は成城院初音せいじょういんはつねと申します」
 そう言いながら、頭を丁寧に下げた。
 美里と千穂は、コソコソと話し合った。
「美里ちゃんの名前を知らないって、現代日本人?」
「まあ、初めて会った時、怜も私を知らなかったけど」
「怜君は特殊よ。その頃は特に、お兄さんと直君以外に興味が無かったから」
「どこかで閉じこもって生きて来たのかしら」
 にこにことしている、どこか浮世離れした初音は、辺りを見廻して、
「わあ、ガス燈がいっぱいだわ」
などと言っている。
「ガス燈?」
 千穂が首を捻る。
「随分古風ね」
 とてもではないが、このまま放り出すのは心配だ。
「成城院さん」
「あの、できれば、初音と呼んでいただけませんか。成城院の名は、今は忘れていたいので」
「わかったわ。初音さん。この後どこかへ行くつもりだったのかしら。私達はぶらぶらとしていただけだから、もし良かったら、案内するわよ」
「まあ!ご親切に、ありがとうございます!
 大して予定があったわけではございませんの。ただ、あまり世間を知らないものですから、見てみたいと」
 恥ずかしそうに答える。
「わかったわ。美里ちゃん、パンケーキはどうかしら」
「いいわね」
「まずはおやつにしましょ、ね」
「はい!」
 女子3人は連れ立って、歩き始めた。

 僕と直は、何かひっかかりは無いかと探していた。
 と、SNSをチェックしていた直が、眉を寄せた。
「んん?詰襟のハンサムな20代の男の幽霊?」
「幽霊のコスプレか?前に魔法少女のコスプレをした20代の女もいたしな」
「どうだろうねえ。でも、表情は真剣で、2.26の頃の青年将校っぽかったって」
「……抜け出た霊の1体か?」
「聞いた話では、巫女と執事だけどねえ」
「執事って、あれだろ。『お嬢様の目は節穴でございますか』とか言って罵倒するか『わたくし、執事でございますから』でなんでもこなすスーパーマンか」
「何か、偏ってるねえ。でも、それは最近の執事だねえ。昔は、セバスチャン?」
「まあどっちにしろ、青年将校に見える格好はしてないと思うぞ」
「確かに。じゃあ、別口?影響が出始めたのかねえ」
「軍人か。追った方がいいかもな。暴れられたら、まずい気がする」
 僕と直は、青年将校の行方も追い始めた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

未亡人クローディアが夫を亡くした理由

臣桜
キャラ文芸
老齢の辺境伯、バフェット伯が亡くなった。 しかしその若き未亡人クローディアは、夫が亡くなったばかりだというのに、喪服とは色ばかりの艶やかな姿をして、毎晩舞踏会でダンスに興じる。 うら若き未亡人はなぜ老齢の辺境伯に嫁いだのか。なぜ彼女は夫が亡くなったばかりだというのに、楽しげに振る舞っているのか。 クローディアには、夫が亡くなった理由を知らなければならない理由があった――。 ※ 表紙はニジジャーニーで生成しました

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

夫の不貞現場を目撃してしまいました

秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。 何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。 そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。 なろう様でも掲載しております。

【R18】やがて犯される病

開き茄子(あきなす)
恋愛
『凌辱モノ』をテーマにした短編連作の男性向け18禁小説です。 女の子が男にレイプされたり凌辱されたりして可哀そうな目にあいます。 女の子側に救いのない話がメインとなるので、とにかく可哀そうでエロい話が好きな人向けです。 ※ノクターンノベルスとpixivにも掲載しております。 内容に違いはありませんので、お好きなサイトでご覧下さい。 また、新シリーズとしてファンタジーものの長編小説(エロ)を企画中です。 更新準備が整いましたらこちらとTwitterでご報告させていただきます。

処理中です...