体質が変わったので

JUN

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トラップ(3)使い捨てのS

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 廊下の声が聞こえたのか、霊安室に入った堺田課長も顔を覗かせた。他のドアも、開き始める。
 それに慌てた男は踵を返して離れようとするが、そうはさせるものか。
「ちょっと待って下さい」
「あなたに憑いたSさんに、質問があるんですよねえ」
「離せ、おい」
「嫌です」
「落ち着かないねえ。どこかの部屋へ入ろうかねえ」
 すると、凄惨な遺体を前にすると委縮するとでも思ったのか、男は、
「じゃあ、そこで」
と霊安室へ入ろうと提案した。
「そうだな。廊下はちょっとな」
「お邪魔しますねえ」
 僕と直は、男を掴んだまま、ずんずんと部屋に入って行く。
「え?え?」
 当てが外れたと思っているような顔をしながら男が入って来、最後に豊川が入って来てドアを閉める。
「うわあ。拷問を受けたんだな。気の毒に」
 男は、気の毒そうに聞こえない声音で言い、遺体を覗き込む。
「そうですね。奥歯が無理やり3本ほど引き抜かれてますね。顔を殴られた時に左眼球が破裂、右の鼓膜も破れているようですよ」
 しげしげと覗き込んで、補足してやる。
「内臓も破裂してるそうですねえ。手足の骨折の念の入りようも凄いですよねえ」
「爪も全部剥がされて残っていませんしね」
 男の方が、青い顔をして僕と直を非難するように見る。
「え?詳しい所見を見たかったんじゃないんですか?」
「てっきりそうだとばかり……」
 僕と直は申し訳なかったかな、と顔を見合わせた。
「いやに平然としてるな」
「霊ってかなり、その、個性的な姿をしている人もいるんだよ」
「樹海探索に行った時も、色々見たからねえ、遺体」
 皆、ああ、と頷いた。
 男と堺田課長についていた男は、目論見が外れた、という顔をしている。
「ところで、あなたは?」
 男は堺田課長についていた男と顔を見合わせ、どうすべきか迷っているようだった。
「言う必要は――」
「あるから訊いています!
 あなたに、霊が憑いています。どう見てもあなたに害意がある様子で、憑いているのはこの殺害された被害者とくれば、このまま放っておくわけがないでしょう!」
 男は落ち着かなさ気に視線を泳がせ、遺体を見ては、そらせた。
「あなたの名前を伺います」
「な、何の権限で。係長から抗議を――」
「好きにしろ。後でな。陰陽課1係係長御崎 怜警部だ」
「同じく2係係長町田 直。間違いなくねえ」
「で、あなたの名前は?」
 男はぐっと詰まった後、渋々口を開いた。
「外事……の、竹山巡査長です」
 課まではっきり言うのは嫌なのか、少しでも抵抗したいのか。
「宮迫巡査です」
 堺田課長についていた方も、そう言った。
「では、竹山さん。被害者との関係は」
「……」
「あなたを恨んで憑いているんですよ。知らないは通りません」
「……こいつは、自分の使っていたSです。久山敏則ひさやまとしのり、元は寸借詐欺なんかをするチンケなやつで、出し子をやりかけていたところを見逃してやって、Sとして運用していました」
「あなたを恨んで憑いている事に、心当たりはありますか?」
「……それは……こうやって、結局は死ぬ事になったからだと思います……」
 唇をなめてそう言った時、久山さんの霊の気配が変わった。怒りだ。
「そう、ですか?」
「久山さんの意見は、違うようですがねえ」
 それで、竹山さんと宮迫さんは落ち着きをなくし、堺田課長と豊川も緊張したような様子を見せた。
「久山さん、落ち着いて下さい。あなたの意見も、これから聴きますから」
「皆にも聞いてもらった方がいいよねえ。札で見えるようにしようかねえ」
 札をきると、目の前に横たわる久山さんと同じ風体をした久山さんの霊が、竹山さんの目と鼻の先に現れてじっと睨み、竹山さんは悲鳴を上げた。
「さあ。伺います」
 豊川がスマホを録音状態にするのを目の端で捉えながら、僕は言った。




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