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ヒーローショー(3)将来の夢
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人質は、敬と舞ちゃんだった。だが、観客は皆、そういう話だと思っている。
「通路際だったから。くそっ」
妖怪は人質を取ってステージの上のコンテナの上に飛び乗った。
飛び上がれる高さではないのに、子供達は気付かないし、大人も「仕掛けか」と思っているらしい。
「まずい。コンテナの向こう側に落としながら、敬と舞ちゃんを救出する。
あの子達の父兄を、コンテナ裏へ。直」
「了解だねえ」
スタッフを走らせ、僕と直は飛び出した。
「フハハハハ!子供達はいい生贄になるぞ!」
セリフ担当のスタッフが困っていると、妖怪が自分で喋り出す。
「パパァ!」
べそをかく舞ちゃんを敬が励ます。
「舞ちゃん、大丈夫だよ!」
「そうはさせるか!」
妖怪に風を当てて敬と舞ちゃんを手放させ、直の札を足掛かりに跳んで2人をキャッチし、そのままコンテナの影に着地する。
そこに、スタッフに先導されて兄と倉阪が、そして直も来た。
舞台では上手く、
『変身!』
というセリフで俳優が登場し、悪の手下と戦いを始め、劇は続いているようだ。上手く、変身前の陰陽ジャーが助けに来たように思わせたらしい。
「怜?お父さん?」
2人を兄と倉阪に渡し、僕と直は、妖怪のスーツと向き合う。
「何が望みだ」
「デビューしたい。ちゃんと、役が欲しい。ヒーローがいい」
「たくさんのスーツアクターの無念とかが集まったものかねえ」
「らしいな。
だからって、子供に危ない真似はだめだろう」
妖怪スーツはゆらゆらとしながら、
「ちゃんと番組に出たい。顔出しの役が欲しい」
と呟いている。
「ヒーローになりたいなら、子供を人質にして脅すな」
浄力を叩きつけると、
「ぎゃああ!」
と声を上げ、悶絶するように体をねじって、クタッと床に落ちた。
「……大丈夫ですか?」
「もう平気ですねえ」
「おい、早く着ろ!出番!」
妖怪役の俳優とスタッフがスーツに飛びつくので、兄と倉阪は、敬と舞ちゃんの視線からそれを遮った。中の人は、いないというのがお約束だ。
そして妖怪は無事にステージ上に飛び出して行って、ヒーロー4人組に倒される。
スタッフに言い含められた敬と舞ちゃんは、
「ありがとう、陰陽ジャー!」
とヒーロー4人組の所に走って行って抱きつき、抱っこして貰ってからまた降ろされ、
『じゃあ、またな!』
『困った時はいつでも呼んでね』
『どこにでも参上!』
『我ら、陰陽戦隊』
『陰陽ジャー!』
と4人で決めポーズをして、拍手の中、舞台袖に引っ込んで来る。
敬と舞ちゃんは、最初の女性の隣で、
『無事に助けられたお友達に、拍手ぅ!』
と言われて拍手を受け、ニコニコとしていた。
「陰陽戦隊陰陽ジャーって、他にいい名前は思い付かなかったのか」
ボソッと言うと、直が吹き出した。
スタッフルームで、事情を訊いた。
「なるほどねえ。役者の無念の思いかねえ」
「もうこれは本当に大丈夫ですか?」
訊いて来るので、
「これは大丈夫ですが、こういうのは再発するかも知れませんね。まあ、役者の方の希望はともかく、どんな仕事もきっちりとするというプライド、丁寧な手入れが肝心でしょうか」
と答えておいたが、他に言いようがない。
敬と舞ちゃんは、貰った缶バッジを嬉しそうに付け、ライトセイバーみたいな剣とかそれっぽく作った札を持たせてもらってご機嫌だ。
「はい。原点に戻って、しっかりやります」
スタッフ達は神妙な顔で頭を下げ、それで僕達は外へ出た。
「恰好良かったねえ、怜と直君」
敬、そこは陰陽ジャーがと言ってやれ。
「怖かった。でも、敬君がいてくれて良かった」
倉阪は、
「あんな事をして、もし子供達が落ちたらどうするんだ」
とか言って取り乱していたが、今はすっかり落ち着いていた。
「あ、ママ!」
「お母さん!」
冴子姉と千穂さん、もう1人の女性が、人の少なくなった観客席を見廻していた。
「千穂ちゃん、買い物は済んだのかねえ」
「あらあら。男組と子供達は、随分と楽しんだようね、ヒーローショー」
合流し、興奮しきりの子供達の報告と兄の皆を代表しての説明で、何とか起こった事を言う。
「まあ!お世話になりました。ありがとうございます」
もう1人のその女性が、倉阪の奥さんの恵子さんだった。
「ママ、あのね、舞決めたの。大きくなったら、敬君はお巡りさんになるんだって。舞は、敬君のお嫁さんになるの!」
倉阪が、打ちのめされた顔になった。
「倉阪君、子供の言う事だ。しっかりしろ、な」
兄が慰めている。
「はい……」
「ああ、もう、面倒臭い」
休日のお父さんは、大変だな。
「通路際だったから。くそっ」
妖怪は人質を取ってステージの上のコンテナの上に飛び乗った。
飛び上がれる高さではないのに、子供達は気付かないし、大人も「仕掛けか」と思っているらしい。
「まずい。コンテナの向こう側に落としながら、敬と舞ちゃんを救出する。
あの子達の父兄を、コンテナ裏へ。直」
「了解だねえ」
スタッフを走らせ、僕と直は飛び出した。
「フハハハハ!子供達はいい生贄になるぞ!」
セリフ担当のスタッフが困っていると、妖怪が自分で喋り出す。
「パパァ!」
べそをかく舞ちゃんを敬が励ます。
「舞ちゃん、大丈夫だよ!」
「そうはさせるか!」
妖怪に風を当てて敬と舞ちゃんを手放させ、直の札を足掛かりに跳んで2人をキャッチし、そのままコンテナの影に着地する。
そこに、スタッフに先導されて兄と倉阪が、そして直も来た。
舞台では上手く、
『変身!』
というセリフで俳優が登場し、悪の手下と戦いを始め、劇は続いているようだ。上手く、変身前の陰陽ジャーが助けに来たように思わせたらしい。
「怜?お父さん?」
2人を兄と倉阪に渡し、僕と直は、妖怪のスーツと向き合う。
「何が望みだ」
「デビューしたい。ちゃんと、役が欲しい。ヒーローがいい」
「たくさんのスーツアクターの無念とかが集まったものかねえ」
「らしいな。
だからって、子供に危ない真似はだめだろう」
妖怪スーツはゆらゆらとしながら、
「ちゃんと番組に出たい。顔出しの役が欲しい」
と呟いている。
「ヒーローになりたいなら、子供を人質にして脅すな」
浄力を叩きつけると、
「ぎゃああ!」
と声を上げ、悶絶するように体をねじって、クタッと床に落ちた。
「……大丈夫ですか?」
「もう平気ですねえ」
「おい、早く着ろ!出番!」
妖怪役の俳優とスタッフがスーツに飛びつくので、兄と倉阪は、敬と舞ちゃんの視線からそれを遮った。中の人は、いないというのがお約束だ。
そして妖怪は無事にステージ上に飛び出して行って、ヒーロー4人組に倒される。
スタッフに言い含められた敬と舞ちゃんは、
「ありがとう、陰陽ジャー!」
とヒーロー4人組の所に走って行って抱きつき、抱っこして貰ってからまた降ろされ、
『じゃあ、またな!』
『困った時はいつでも呼んでね』
『どこにでも参上!』
『我ら、陰陽戦隊』
『陰陽ジャー!』
と4人で決めポーズをして、拍手の中、舞台袖に引っ込んで来る。
敬と舞ちゃんは、最初の女性の隣で、
『無事に助けられたお友達に、拍手ぅ!』
と言われて拍手を受け、ニコニコとしていた。
「陰陽戦隊陰陽ジャーって、他にいい名前は思い付かなかったのか」
ボソッと言うと、直が吹き出した。
スタッフルームで、事情を訊いた。
「なるほどねえ。役者の無念の思いかねえ」
「もうこれは本当に大丈夫ですか?」
訊いて来るので、
「これは大丈夫ですが、こういうのは再発するかも知れませんね。まあ、役者の方の希望はともかく、どんな仕事もきっちりとするというプライド、丁寧な手入れが肝心でしょうか」
と答えておいたが、他に言いようがない。
敬と舞ちゃんは、貰った缶バッジを嬉しそうに付け、ライトセイバーみたいな剣とかそれっぽく作った札を持たせてもらってご機嫌だ。
「はい。原点に戻って、しっかりやります」
スタッフ達は神妙な顔で頭を下げ、それで僕達は外へ出た。
「恰好良かったねえ、怜と直君」
敬、そこは陰陽ジャーがと言ってやれ。
「怖かった。でも、敬君がいてくれて良かった」
倉阪は、
「あんな事をして、もし子供達が落ちたらどうするんだ」
とか言って取り乱していたが、今はすっかり落ち着いていた。
「あ、ママ!」
「お母さん!」
冴子姉と千穂さん、もう1人の女性が、人の少なくなった観客席を見廻していた。
「千穂ちゃん、買い物は済んだのかねえ」
「あらあら。男組と子供達は、随分と楽しんだようね、ヒーローショー」
合流し、興奮しきりの子供達の報告と兄の皆を代表しての説明で、何とか起こった事を言う。
「まあ!お世話になりました。ありがとうございます」
もう1人のその女性が、倉阪の奥さんの恵子さんだった。
「ママ、あのね、舞決めたの。大きくなったら、敬君はお巡りさんになるんだって。舞は、敬君のお嫁さんになるの!」
倉阪が、打ちのめされた顔になった。
「倉阪君、子供の言う事だ。しっかりしろ、な」
兄が慰めている。
「はい……」
「ああ、もう、面倒臭い」
休日のお父さんは、大変だな。
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