体質が変わったので

JUN

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ヒーローショー(2)悪の妖怪

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 スーツアクターというのは、なかなかハードな仕事だ。ショーの短時間でも、暑いし、視界は悪いし、場合によっては子供によじ登られたり蹴られたりもする。
 今回は悪の妖怪の役だから、余計に気が進まない。どうせなら、ヒーロー側の方が気分もいい。スーツアクターのバイトではなく、顔出しで俳優ができればもっといい。
 だが、仕事だ。
「そろそろ時間だな」
 妖怪の着ぐるみを着てスタンバイするかと、パイプ椅子から立ち上がる。
「ん?」
 着ぐるみがない。キョロキョロと探していると、それが立っているのが見えた。
 中に入ってないのに、誰かが着ているようだ。
「誰か入ってるのか?時間がないから、もう脱げよ」
 言いながら近付くと、それはクルリと反転した。開いたままの背中のファスナーから、中に誰も入っていない事がわかる。
「え。そんなばかな……」
 スタッフと呆然として見ている先で、スルスルとひとりでにファスナーが上がり、それはすうーっと滑るように歩き出した。
「ど、どうしよう?」
 狼狽える彼らをよそに、ステージの方では、前座が始まっていた。

 広い屋上ステージには、大勢の子供達が集まっていた。
「え、直?」
「怜と司さん、に、倉阪?どうしたのかねえ?」
 町田 直まちだ なお、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
「バッタリあったんだ。直は?」
「千穂ちゃんが、何か化粧品のイベントに行きたいとか言うから。その間時間潰そうと思って」
「直君!こんにちは。あのね、舞ちゃん」
 敬が舞ちゃんを紹介している。
「ああ、そうか。
 初めまして。お父さんのお友達の町田 直です。よろしくねえ」
 舞ちゃんはにこにことして
「倉阪 舞です!」
と言うと、さっさと敬の手を引いて、いい席を取ってしまえとグイグイ引っ張る。
「頼もしいねえ」
 僕達は笑って、子供達の横に座った。
「ヒーローショーで会うとはねえ」
「本当にな。ところで、これはどんな番組なんだ?」
「陰陽師の流れをくむ主人公達が、青龍とか白虎とかの四神の力を借りて、悪の妖怪と戦うというものらしい」
「カードゲームとかも、凄い人気らしいぞ」
 大人4人は、番組についてのすり合わせをしておく。
「悪の妖怪って」
「やっぱり、地球征服が目的なのかねえ?」
 その途端、敬や舞ちゃんだけでなく、辺りの子供達が我先にと喋り出す。
「知らないの?」
「地球を暗黒に突き落とそうとしてるんだよ」
「朱雀が強いのよ、きれいだし」
「青龍の方がかっこいいもん!」
「ええー、白虎だよ!」
「玄武も凄いんだよ!」
 周りのお父さん連中と思しき大人達も、苦笑いだ。
「はいはい、そうか。ありがとう。よおくわかったぞ」
「楽しみだねえ」
「お、始まるぞ」
 子供達の関心を、音楽の流れ始めたステージの方へと向ける。
 通路際の敬と舞ちゃんも、他の子供達と一緒に主題歌らしき歌を歌う。
 と、その気配に気付いた。
「何だ、これ?」
 僕と直が気配の元を探ろうと気を引き締める様子に、兄と倉阪が気付く。
「どうした、怜、直君」
「何か、いるよ、兄ちゃん」
「何だろうねえ。ちょっと、行ってみるかねえ」
「そうだな。行って来る」
 僕と直は、盛り上がる会場の中を、気配の元に向かった。
 どんどん、ステージ裏に近付いて行く。
「あ、ここは関係者以外ーー」
 制止しようとしたスタッフに告げる。
「警視庁陰陽課の者です。何かこっちから気配がするんですが、何かありましたか」
 妙にざわついて狼狽えているように見えるスタッフ達に訊くと、ホッとしたように喋り出した。
「悪の妖怪のスーツが勝手に動き出したんですよ!俺も、誰も入ってないのに!」
 それは、後ろのドアの前でスタンバイしていた。
「……勝手に出演しようとしているのかねえ?」
「そう、見えるんですよねえ」
「近付いて捕まえようとしたんですが、スイッと逃げるんです」
「どうしよう、始まってしまう!」
 悲鳴のような声の中、歓声が上がり、バン!とドアが開いて、スーツは客席後方のドアから中に入り、真ん中の通路を前に進み始めた。
「あ」
 皆が揃って、それを見た。
「きゃああ、悪の妖怪だあ!」
 ステージ上の女性と一緒に、子供達が声を上げる。
「行っちゃったねえ」
 妖怪は滑るように進んで行き、ひょいと手近な子供を小脇に抱えた。
「敬!舞ちゃん!」
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