体質が変わったので

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110番(3)大迷宮の冒険

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 ショッピングセンターの前で警官が待っており、僕と直を見て、敬礼をよこした。
「何か異常は?」
「はっ、ありません!」
「じゃあ、行こうか。離れないようにして下さい」
「はっ!」
 3人は、ドアに近付いてみた。
 正面の自動ドアは当然閉まっているし、開かない。横に回ると従業員用らしきスチールのドアがあり、少し開いていた。
 そこから中へ入る。
 僕、直、警官が入ったところで、結界が建物を包む感覚があった。
 直と目を交わし、先に進む。
 マネキンやポスター、鏡に映る自分達にビクつく警官を連れて奥へ行くと、階段があった。そこの踊り場で、中学生くらいの子供がしゃがみ込んでいる。
「君が通報をしたんですか」
 その子は顔を上げ、僕、直を見て怪訝な顔をし、警官を見て安心したような顔をした。
「お巡りさん!盗られたんだ!あいつは今、階段を上って行った!あ、そこに!」
 指さす方を見ると、サッと手すりに隠れる人影があり、走って行く足音がした。
「君の名前は?」
「え?あ、はい。賀西拓也です。あの、逃げちゃうよ!」
「一緒に追いかけようか」
「は?え、何で?」
「ほら、行くよお!」
「え?え?」
 僕達は4人で走り出した。
 影は、つかず離れずの距離をチョロチョロしていく。
 それを追いかける途中、廊下で倒れ込んでいる警官を発見した。
「江川先輩!?」
 すぐに様子をみてみると、意識は無いが、生きてはいる。
「この迷宮の中に、こうやって倒れているんだな」
 賀西は無表情で僕を見返している。
「鬼ごっこは終わりだ」
 直が札を前を走る影の足元に叩きつけて、足を止めさせた。
 先にあと2人、制服警官が倒れているのが見えた。そしてその向こうに、中学生くらいの子が、震えながら立っていた。
「東条基樹君だね?」
 こっくりと頷く。
「おいで」
「……」
「とりあえずは怒らないから、こっちにおいで」
 東条は観念したのか、俯きながら、恐る恐るそばまで来た。
「さて、賀西君と東条君。自分達に何があってどうなったか、わかっているか?」
 2人は顔をチラッと見合わせ、言い難そうに俯きながら言った。
「どうしてもゲームが早く欲しくて……。弟が家で待ってて……。ごめんなさい」
「僕も、どうしてもって言うなら、譲れば良かった。ごめん」
「それで、もみ合ってるうちに、落ちちゃったんだよねえ、賀西君」
 直に、賀西が頷く。
「それにびっくりして、人も来るし、慌てて逃げようとしたら、自分も落ちちゃったんだよね」
 直に言われて、東条君も頷く。
「それで、どうして中が迷路になったんだ?」
 僕が訊くと、2人は待ってましたというように訴えだした。
「それが全然わからないんだよ!」
「気が付くと誰もいないショッピングセンターになってて、いくら走っても外に出られないし!」
「ある筈のない階段や曲がり角があって、ダンジョンみたいになってて!」
「警察を呼んだら助かるのかなって」
「でも、ぼくには追いかけて来る人がモンスターにしか見えないから、とにかく逃げ続けてた!」
「来た警察官に『盗られた』って言ったのは?」
「自然とそう言っちゃうんだよ。何でかわからないけど!」
 2人は必死の形相で訴える。
「ゲームのせいか。迷宮のゲームで、2人共がそれをしたかったから?」
 僕は、通路の先で気配を放ち続ける、ゲームソフトのパッケージを見た。
「斬っとくか」
「え?」
「だねえ」
「ええ?」
 キョトンとする2人の中学生と警官をよそに、無造作にそれに近付きながら刀を出すと、パッケージに突き立てた。
 すると、それは何とも言えない声を放って煙のような物になって消え、薄い膜がパンッと割れるような感覚と共に、結界が解けた。
 辺りが、ただの廃墟に戻る。
「救急車を」
 指示して警官に救急車を呼ばせ、僕と直は、2人の中学生と向かい合った。
「これで、迷宮はクリアしたな」
「おおお……!」
「まず、東条君。いくら欲しくても、してはいけない事だったのはわかるな?階段から落ちた賀西君を放って行こうとしたのも」
「はい。ごめんなさい」
「うん。反省してるな。じゃあ、いい。
 賀西君、許してやってくれるか?」
「うん。一緒に遊ぼうって言えば良かった。ごめんなさい」
 2人は頭を下げ合い、どちらからともなく笑った。
 今まで迷宮に一緒に捕まっていたという連帯感のせいで、恨みとかいうものが薄れたのだろうか。こちらとしては、それは助かるが。
「じゃあ、今度は仲良く、向こうへ逝こうか」
 2人は顔を見合わせた。
「大丈夫。一緒にダンジョンをクリアした、頼もしい相棒がいるしねえ」
 2人は途端に、嬉しそうに笑った。
「お巡りさんに、ごめんなさいって言っておいて下さい」
「本当に、すみませんでした」
 そう言う2人にそっと浄力を当てると、2人は光りながらさらさらと形を崩し、じゃれ合うようにしながら消えて行った。
「たかがゲーム、かあ」
 僕は嘆息した。

 発見された警察官も多少の衰弱はあったものの命に別状はなく、すぐに復帰できるそうだ。
「まあ、不幸中の幸いだねえ」
 アオの頭をかいてやりながら直が言う。
「ゲーム自体が迷宮を作り出して人を閉じ込めるとはな。そういう事もあるんだな」
「付喪神の、促成版みたいなものかねえ」
「ああ、それだな、たぶん。もう少ししたら、魔物まで再現し出してたのかもな」
「危ない、危ない」
 僕達は言いながら、アオにレタスをやっていた。
「ゲームソフトが意思を持って迷宮を作るとはねえ。だったら、車が勝手に動き出したりしてね」
 徳川さんが言い、
「それこそ本当の、自動運転だ」
と僕が言い、
「目的地を無視して走り回ったりしてねえ?」
と直が言い、3人であははと笑ってから、真顔になった。
「冗談じゃない」
 そして、そんな事にならない事を、心から祈った。






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