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カーマニア(4)その時、見ていた物は
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結理さんは憎々し気に車を見ている。
「ゆ、結理。どうして」
英介は青い顔で問いかける。
「落ちながら、納車されたばかりのこの車が見えたわ。落ちて地面に叩きつけられた後も、ずっとこの車を見ていた。この車がなければ、あなたは欲しいなんて言い出さなかった。そして、ケンカせずに済んだから、私も殺されずに済んだでしょう」
衝撃発言だったが、英介には別の部分が衝撃だったらしい。
「この車がどれだけ素晴らしいか!言っただろ?子供の頃から憧れてた、お爺さんの写真にあった車なんだぞ。もう世界に1台か2台しかない、貴重な車だ。しかもこんないい状態なんて、2度とない!
まさか、事故を起こさせたのはお前か?何をしたかわかってるんだろうな!?」
「いや、岩宮さんこそ、何をしたか――」
「自分のした事はどう思ってるのよ」
「あの――」
「この車の価値もわからないなんて、なんて芸術オンチなバカ女だ!」
「もしもーし」
「何ですってぇ!?」
「……ダメだ。聞いてない」
岩宮さん夫婦はケンカを始めてしまい、生者と霊の珍しい夫婦ゲンカに、交通課員は目を丸くし、強行犯と盗犯の皆はウンザリとした。
益田さんですら、青い顔をしながらも呆れかえって眺めている。
「大体あなたは、車の事以外にはケチで」
「お前だって、似たような服を持ってるくせにまた欲しがって!」
「似たようなものは、似ているだけであって、別物なのよ!あなたこそ家ではダサい中年でしょ!」
「なんだとお!?」
「はい、ストーップ!!」
黒井さんが声を張り上げ、夫婦は口を閉じた。
「……ゆっくりと話を聞かせてもらうから。場所を変えて」
「……直。これが結婚か?」
「怜……。まあ、こういう事も、あるかも、ねえ」
畑田さんは優しい顔で僕と直の肩を叩き、無言で笑った……。
車買いたさに結理さんに薬とアルコールを飲ませ、ベランダから抱え落とした事は、英介も結理さんも認めた。そして結理さんは車に憑りついて、英介がドライブに行くたびに、壊してやろうと、事故を狙っていたという。1年間の転勤がなければ、とうに死んでいたに違いない。
そして空き巣の矢代が見たのは、「私は悪くないでしょ」と同意を得たくて見せたのだと言う。完全にその意図は伝わっていなかったが。
「幽霊でも、目の前でくだらない口ゲンカをしている分には怖くないもんだな」
とは、益田さんの言葉である。
証拠は無いかと探したら、フラフラの割にはすんなりとベランダの手すりに乗った事と、その日の昼間に手首を痛めて外科を受診しており、そんな手で手すりを乗り越えるのは難しいとの外科医の見解、それを踏まえての手すりの指紋の位置と向きから、どうにかできそうだった。
桂さん達は面白くないんじゃないかと思ったが、引っかかりはあったから良かったと、サバサバしていた。当時は、手首を事件前に痛めていた事がわからなかったそうだ。
「しかし、いろんな動機があるもんだなあ」
しみじみと僕は言った。
「そうだよねえ。車だよ?車……。
千穂ちゃん、早い車を欲しがるんだろうねえ。その時はどうしようかねえ」
直は顔色が優れない。
「それで殺人は無いにしても、ケンカはあるかもな」
「どうしようかねえ」
「積み立てをして、範囲内で買う事に決めておくとか?」
「積立金でもめたら?」
「……僕は直の味方だぞ」
「怜……」
僕達は友情を確かめ合った。
「しかし、あれだな。趣味も、入れ込み過ぎると怖いな。ああ、面倒臭い」
これにはどちらの係の者も、全員、嘆息して頷いた。
「ゆ、結理。どうして」
英介は青い顔で問いかける。
「落ちながら、納車されたばかりのこの車が見えたわ。落ちて地面に叩きつけられた後も、ずっとこの車を見ていた。この車がなければ、あなたは欲しいなんて言い出さなかった。そして、ケンカせずに済んだから、私も殺されずに済んだでしょう」
衝撃発言だったが、英介には別の部分が衝撃だったらしい。
「この車がどれだけ素晴らしいか!言っただろ?子供の頃から憧れてた、お爺さんの写真にあった車なんだぞ。もう世界に1台か2台しかない、貴重な車だ。しかもこんないい状態なんて、2度とない!
まさか、事故を起こさせたのはお前か?何をしたかわかってるんだろうな!?」
「いや、岩宮さんこそ、何をしたか――」
「自分のした事はどう思ってるのよ」
「あの――」
「この車の価値もわからないなんて、なんて芸術オンチなバカ女だ!」
「もしもーし」
「何ですってぇ!?」
「……ダメだ。聞いてない」
岩宮さん夫婦はケンカを始めてしまい、生者と霊の珍しい夫婦ゲンカに、交通課員は目を丸くし、強行犯と盗犯の皆はウンザリとした。
益田さんですら、青い顔をしながらも呆れかえって眺めている。
「大体あなたは、車の事以外にはケチで」
「お前だって、似たような服を持ってるくせにまた欲しがって!」
「似たようなものは、似ているだけであって、別物なのよ!あなたこそ家ではダサい中年でしょ!」
「なんだとお!?」
「はい、ストーップ!!」
黒井さんが声を張り上げ、夫婦は口を閉じた。
「……ゆっくりと話を聞かせてもらうから。場所を変えて」
「……直。これが結婚か?」
「怜……。まあ、こういう事も、あるかも、ねえ」
畑田さんは優しい顔で僕と直の肩を叩き、無言で笑った……。
車買いたさに結理さんに薬とアルコールを飲ませ、ベランダから抱え落とした事は、英介も結理さんも認めた。そして結理さんは車に憑りついて、英介がドライブに行くたびに、壊してやろうと、事故を狙っていたという。1年間の転勤がなければ、とうに死んでいたに違いない。
そして空き巣の矢代が見たのは、「私は悪くないでしょ」と同意を得たくて見せたのだと言う。完全にその意図は伝わっていなかったが。
「幽霊でも、目の前でくだらない口ゲンカをしている分には怖くないもんだな」
とは、益田さんの言葉である。
証拠は無いかと探したら、フラフラの割にはすんなりとベランダの手すりに乗った事と、その日の昼間に手首を痛めて外科を受診しており、そんな手で手すりを乗り越えるのは難しいとの外科医の見解、それを踏まえての手すりの指紋の位置と向きから、どうにかできそうだった。
桂さん達は面白くないんじゃないかと思ったが、引っかかりはあったから良かったと、サバサバしていた。当時は、手首を事件前に痛めていた事がわからなかったそうだ。
「しかし、いろんな動機があるもんだなあ」
しみじみと僕は言った。
「そうだよねえ。車だよ?車……。
千穂ちゃん、早い車を欲しがるんだろうねえ。その時はどうしようかねえ」
直は顔色が優れない。
「それで殺人は無いにしても、ケンカはあるかもな」
「どうしようかねえ」
「積み立てをして、範囲内で買う事に決めておくとか?」
「積立金でもめたら?」
「……僕は直の味方だぞ」
「怜……」
僕達は友情を確かめ合った。
「しかし、あれだな。趣味も、入れ込み過ぎると怖いな。ああ、面倒臭い」
これにはどちらの係の者も、全員、嘆息して頷いた。
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