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公道レーサー(2)都市伝説の峠
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三半規管の耐久度のテストか何かだろうか。ガックンガックンと体を振り回され、ドアに頭をぶつけ、ドリフトで止まった車から転がり出るように外に降りた僕は、今、絶対に真っすぐ走れないと思った。
バイクごと転んでヨロヨロと起き上がるひったくり犯を捕まえ、直を振り返ると、直は車のそばにしゃがみ込んでいた。
「大丈夫か、直」
「だ、大丈夫、だねえ、うっ」
「どうしたの、直君」
「いや、ちょっと酔った、かねえ」
「華麗なドライブテクニックに?」
殺意を感じた。
「ひったくりの現行犯で、逮捕する。20時57分」
ひったくり犯は観念しているようで、大人しくしている。
と、深呼吸していた直が、ふと気付いた。
「ここ、噂の峠じゃないかねえ?」
「噂の峠?どういう噂だ?」
僕は知らなかったが、ひったくり犯も知っていたらしい。
「やべえ、公道レーサーが出るぞ」
「公道レーサー?暴走族か?」
「違えよ。都市伝説だよ」
直は上を見て何かをこらえながら言う。
「ここでレースをしていた走り屋がいて、もう少しでキングと呼ばれる不敗の王者を抜けそうだった時に事故でスリップして死んだらしいよ。それで今も、この峠に車が1台で来たら、勝負を挑んで来るんだってぇ。それで、相手に事故を起こさせるんだってぇ」
ひったくり犯は落ち着きなく辺りを見廻した。
「来るぞ、絶対来るぞ」
千穂さんもワクワクしたように、辺りを見廻している。
「来るかしら。早いのよね」
と、気配が近付いて来た。
「直……」
「怜……どうしよう……」
千穂さんが何を言い出すか、想像できてしまう。
「来たの?ねえ、来た?」
「……祓おう」
「それがいいねえ」
「え、待って。公道レーサーよ。早いのよ」
「千穂ちゃん……」
直は、諦めたような顔付きだ。
「千穂さん?え、直?」
ひったくり犯は、悟ったような顔を横に振った。
「見なよ。姐さん、やる気だよ」
「……ええ……」
10メートル程向こうに、いつの間にか音もなく車が1台止まって、人が立っていた。
「……公道レーサーですか」
仕方なく、確認する。
「勝負だ」
「ええっと、公道でのレースはですねえ、道交法で禁止されていましてですね」
僕は言ったが、千穂さんもひったくり犯も公道レーサーも無視だ。
「千穂ちゃん、まずいよお。警察官だよう、千穂ちゃんも」
直は、泣きそうだ。
「今は、オフ」
「警官は24時間365日だ」
「うるう年は?」
ひったくり犯が口を開き、睨んだらよそを向いた。
「キングに勝ちたい」
「私はクイーンよ」
「千穂ちゃあん!」
「お前を、倒す。倒して、廃車にさせる」
「そうは行かないわ。勝負よ」
「決まった。700メートル先のトンネルまでだ」
「直君、怜君、ひったくり犯、リアシートに並んで座ってくれる?車体が浮くから」
僕達は死んだような目で、リアシートに並んだ。
「もしもの時は、風で車を浮かせる。心配するな。直は札で霊から防御してくれ」
「怜」
「でも、後でキッチリ話をしないとな」
ハンドルを握ったら人格が変わる典型的なタイプの千穂さんは、嬉しそうに笑いながら、運転席に乗り込んで来た。
体が、揺れ、押さえられ、隣から圧し掛かられたり圧し掛かったり。ひったくり犯はどうも悲鳴を上げているようだが、隣でさえも聞こえない。
対向車も来ないのでいいが、恐ろしい。
時間は数十分にも感じられたが、700メートルはほんの一瞬だった。
止まった車外に転がり出て、僕達は膝を着いた。
「ぎ、ぎぼぢわるい……」
ひったくり犯は呻いて、道路上に伸びた。
公道レーサーと千穂さんは向かい合うようにして立っていた。
「同着か」
「やるわね」
「決着を――」
「だめに決まってるだろうが!成仏しろ。お前はキングだ、新しい帝王だ」
「おおお!」
浄力を当てると、公道レーサーは歓喜に涙しながら消えて行った。
「ふん。やるじゃない、公道レーサー」
「やるじゃない、じゃないよお、千穂ちゃん!」
直の叫びが、夜の峠に響いた。
バイクごと転んでヨロヨロと起き上がるひったくり犯を捕まえ、直を振り返ると、直は車のそばにしゃがみ込んでいた。
「大丈夫か、直」
「だ、大丈夫、だねえ、うっ」
「どうしたの、直君」
「いや、ちょっと酔った、かねえ」
「華麗なドライブテクニックに?」
殺意を感じた。
「ひったくりの現行犯で、逮捕する。20時57分」
ひったくり犯は観念しているようで、大人しくしている。
と、深呼吸していた直が、ふと気付いた。
「ここ、噂の峠じゃないかねえ?」
「噂の峠?どういう噂だ?」
僕は知らなかったが、ひったくり犯も知っていたらしい。
「やべえ、公道レーサーが出るぞ」
「公道レーサー?暴走族か?」
「違えよ。都市伝説だよ」
直は上を見て何かをこらえながら言う。
「ここでレースをしていた走り屋がいて、もう少しでキングと呼ばれる不敗の王者を抜けそうだった時に事故でスリップして死んだらしいよ。それで今も、この峠に車が1台で来たら、勝負を挑んで来るんだってぇ。それで、相手に事故を起こさせるんだってぇ」
ひったくり犯は落ち着きなく辺りを見廻した。
「来るぞ、絶対来るぞ」
千穂さんもワクワクしたように、辺りを見廻している。
「来るかしら。早いのよね」
と、気配が近付いて来た。
「直……」
「怜……どうしよう……」
千穂さんが何を言い出すか、想像できてしまう。
「来たの?ねえ、来た?」
「……祓おう」
「それがいいねえ」
「え、待って。公道レーサーよ。早いのよ」
「千穂ちゃん……」
直は、諦めたような顔付きだ。
「千穂さん?え、直?」
ひったくり犯は、悟ったような顔を横に振った。
「見なよ。姐さん、やる気だよ」
「……ええ……」
10メートル程向こうに、いつの間にか音もなく車が1台止まって、人が立っていた。
「……公道レーサーですか」
仕方なく、確認する。
「勝負だ」
「ええっと、公道でのレースはですねえ、道交法で禁止されていましてですね」
僕は言ったが、千穂さんもひったくり犯も公道レーサーも無視だ。
「千穂ちゃん、まずいよお。警察官だよう、千穂ちゃんも」
直は、泣きそうだ。
「今は、オフ」
「警官は24時間365日だ」
「うるう年は?」
ひったくり犯が口を開き、睨んだらよそを向いた。
「キングに勝ちたい」
「私はクイーンよ」
「千穂ちゃあん!」
「お前を、倒す。倒して、廃車にさせる」
「そうは行かないわ。勝負よ」
「決まった。700メートル先のトンネルまでだ」
「直君、怜君、ひったくり犯、リアシートに並んで座ってくれる?車体が浮くから」
僕達は死んだような目で、リアシートに並んだ。
「もしもの時は、風で車を浮かせる。心配するな。直は札で霊から防御してくれ」
「怜」
「でも、後でキッチリ話をしないとな」
ハンドルを握ったら人格が変わる典型的なタイプの千穂さんは、嬉しそうに笑いながら、運転席に乗り込んで来た。
体が、揺れ、押さえられ、隣から圧し掛かられたり圧し掛かったり。ひったくり犯はどうも悲鳴を上げているようだが、隣でさえも聞こえない。
対向車も来ないのでいいが、恐ろしい。
時間は数十分にも感じられたが、700メートルはほんの一瞬だった。
止まった車外に転がり出て、僕達は膝を着いた。
「ぎ、ぎぼぢわるい……」
ひったくり犯は呻いて、道路上に伸びた。
公道レーサーと千穂さんは向かい合うようにして立っていた。
「同着か」
「やるわね」
「決着を――」
「だめに決まってるだろうが!成仏しろ。お前はキングだ、新しい帝王だ」
「おおお!」
浄力を当てると、公道レーサーは歓喜に涙しながら消えて行った。
「ふん。やるじゃない、公道レーサー」
「やるじゃない、じゃないよお、千穂ちゃん!」
直の叫びが、夜の峠に響いた。
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