体質が変わったので

JUN

文字の大きさ
上 下
420 / 1,046

復讐の風(3)痛みと恐れと悲しみと

しおりを挟む
 体を固定しておかないと、ゴロゴロと転がってどこかに激突した挙句、波に持ち上げられたと思ったら叩き落されて、無重力からいきなり床に墜落だ。
 作戦はこれしかない。ないけど、かなり辛かった。
 吐き気もするが、うっかり吐いたら、この揺れのせいで途中で舌を噛み切って死にかねない。
 そんな中でも、周りの自衛官は誰も弱音を吐かない。
 暴風に近付くと波と風が物凄く、船体が変な音を立てる。
「所定位置に着きました!」
 怒鳴るように報告がなされる。
「行ってきます」
 よろめきそうになるのを、根性と見栄だけで踏ん張って、甲板に出る。
 暴風。子供の頃など、台風が来るとなぜかソワソワしたものだったが、あれは、何もわかっていなかったからだとよくわかる。
『直、どうだ』
『準備はOKだねえ』
 直につないだパスを通じて、準備ができた事を知ると、
「んじゃ、行くか」
と、暴風の中に躍り出る。すぐ後に、結界が発動した。
 中央付近まで手漕ぎボートで行くとか、無茶な事はせずに済んだ。直接手を貸すのはだめらしいが、波を立てるのは勝手だし、それで漂流物が流れるのは自然だし、何より十二神将は神ではないからグレーゾーンだと言い張って、十二神将が運んでくれる事になった。
 なかなか、口が達者で、頭が回るようだ。
 足元は固い方がいいからと、ボートですらない。板だ。これには皆が絶句したが、立ち回りを考えると、丈夫な板がいい。
 しかし、十二神将の助けがなかったら、本当に漂流だ。
「くそう。我らの鼻先で面白くない」
「こやつ、人間が事態を収めた後で、きっと俺達も報復してやる」
「物騒だなあ」
 何やらイライラと怒っている十二神将に、ちょっと心配をしつつも、人間みたいで微笑ましくも思ってしまう。そんな場合ではないとはわかってはいるのだが。
 荒れ狂う暴風を突き進んで、本体の近くまで行く。
「やあ」
 まずは挨拶からと、声をかけてみる。
 台風の中心は目になっていて無風状態だが、これは違う。中心には強い力の塊があって、こちらに敵意を向けて来た。
 神に近いが、少し違う。何だろう。
 だが、考えている暇などは無さそうだ。ヒュンヒュンと見えない刃が飛んで来る。真空の刃、かまいたちだ。これをひょいと避けて、本体を包む力が伸ばして来る風の手を斬る。そして、何歩分ほどか進む。
 するとまた攻撃が来て、波も押し寄せ、板を押し戻す。
 この繰り返しだ。
 しかし、進んでいないわけではない。風を避け、斬り、前へ進む。こちらも傷は負っているが、傷の治りの早い体質のおかげもあって、大したことはない。
 そして、どうにか本体に手が届く位置にまで近付いた。
 ここで浄力を叩きつけてみるが、効かない。やはり、神が怒っているというような状態なんだろうか。だからと言って、甘んじて怒りを受け入れるというわけにはいかない。
 浄力でだめなら、一度取り込むしかなさそうだ。
 そう思って手を伸ばしたら、突風が叩きつけられて体が浮く。
 と、今度は別の方向からの風が、体の向きを変える。
「うわわわわっ」
 悲鳴も風に飛ばされる。
 風でいいように翻弄されているうちに、何かのはずみのように本体に接近し、接触した。
 そして、千載一遇のチャンスとばかりに、僕はそれを取り込んだ。


 

 






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

未亡人クローディアが夫を亡くした理由

臣桜
キャラ文芸
老齢の辺境伯、バフェット伯が亡くなった。 しかしその若き未亡人クローディアは、夫が亡くなったばかりだというのに、喪服とは色ばかりの艶やかな姿をして、毎晩舞踏会でダンスに興じる。 うら若き未亡人はなぜ老齢の辺境伯に嫁いだのか。なぜ彼女は夫が亡くなったばかりだというのに、楽しげに振る舞っているのか。 クローディアには、夫が亡くなった理由を知らなければならない理由があった――。 ※ 表紙はニジジャーニーで生成しました

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

【R18】やがて犯される病

開き茄子(あきなす)
恋愛
『凌辱モノ』をテーマにした短編連作の男性向け18禁小説です。 女の子が男にレイプされたり凌辱されたりして可哀そうな目にあいます。 女の子側に救いのない話がメインとなるので、とにかく可哀そうでエロい話が好きな人向けです。 ※ノクターンノベルスとpixivにも掲載しております。 内容に違いはありませんので、お好きなサイトでご覧下さい。 また、新シリーズとしてファンタジーものの長編小説(エロ)を企画中です。 更新準備が整いましたらこちらとTwitterでご報告させていただきます。

夫の不貞現場を目撃してしまいました

秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。 何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。 そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。 なろう様でも掲載しております。

処理中です...