体質が変わったので

JUN

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ハーメルンのサンタ(1)サンタさんがやって来た

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 もうすぐクリスマス。子供にとっては心躍る一大イベントで、サンタさんに何のプレゼントをお願いするか、希望通りのプレゼントがもらえるかどうかは、大きな問題だ。そしてクリスマス前になると、親は、
「サンタさんの査定期間だから、いい子にしてないとプレゼントがもらえなくなる」
等と脅して来るので、全く気を抜けない。
 双龍院康介そうりゅういんこうすけ――3歳――にとっても、それは大きな問題だった。
「康君、サンタさんに何をお願いしたの?」
 公園で、友達のお母さんが訊いて来る。そして、それを背後で、母親の京香きょうかが、しっかりと聴いている。お母さん方の、連携プレイだ。クリスマス前には、良く見られる光景である。
「あのね、怜君!」
「ああ……康介。怜君はもらえないわ」
「だめ?」
「康介は怜君が大好きだからねえ」
「康君、他に欲しいのって何かな?」
「ううん……車!」
「比呂君は何がいいのかな?」
「ぼくも車!ミキサー車!」
 2人の3歳児は、今欲しい車について、熱く語り始めた。
 と、サンタの扮装をした人物が現れ、子供達は、我先にとサンタさんに群がって、要望を伝えようと必死になった。
「はあい、並んで並んで。いい子の君達には、早めのプレゼントだよ!皆には内緒だよ」
 シイーッ。
 サンタは子供達に、チョコレートの一つ入った小袋を渡していく。そこには近日開店という喫茶店の広告が入っており、母親達は、「宣伝なのね」と、広告に書かれたメニューと価格のチェックに余念がない。
「サンタさん、ありがと!」
 康介はチョコレートを貰い、いい事を思いついた。

 僕は、クリスマスプレゼントについて考えていた。
 御崎 怜みさき れん、大学3年生。高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった、霊能師である。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「何がいいかなあ。兄ちゃんは、この名刺入れでどうかな。カッコいいと思うんだよなあ。
 冴子姉は……この電子辞書でどうかな。
 けいは、帽子と手袋のセットにするか」
 楽しく悩んでいると、ドアチャイムが鳴った。
「お、康介じゃないか。京香さんも、こんにちは。どうした?」
 隣の家に住む康介が、満面の笑みで立っていた。後ろには、師匠である京香さんもいる。
「あのね、これ、プレゼント!」
 握りしめた右手をグッと突き出す。
「何だろうな?あ、チョコレート……かな?」
 完全に溶けて変形して、一瞬わからなかった。
「公園で貰ったんだけど、怜君にあげるって聞かなくて。溶けててごめん」
 京香さんが苦笑した。
「いえいえ。嬉しいな。でも、康介、チョコレート好きだろ?」
「いいの!ああーん」
 包んでいたセロファンを剥いて、グイグイと口に入れようと迫って来る。
 どんどん溶けて、えらいことになりそうだ。なので、ありがたくいただく事にした。
「はい、ありがとうな。ん、美味しいな。康介、手がチョコレートまみれだぞ。早く洗って……あれ?」
 どうした事だろう。康介がどんどん巨大化していく。おお、京香さんも大きくなって行くぞ。そう思っているといきなり体がころんと後ろにひっくり返った。
「天井がやけに高い――って、何か声がおかしいな」
「ちょっと、怜君!?どうしたの、一体!?」
 京香さんが慌てた様子で覗き込んで来て、そのまま固まった。

 リビングで、京香さん一家、兄、冴子姉、敬、直と、3歳児程度に戻った僕が途方に暮れていた。
「懐かしいと言えば懐かしいな」
 御崎 司みさき つかさ。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視正だ。
「見た目は子供、頭脳は大人な霊能師に、シフトチェンジかねえ」
 町田 直まちだ なお、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いでもある。
「そんなわけあるか」
 ムスッと言う。
「でも、ちょっとかわいいわねえ。こんな3ショット、もう2度とないわよ」
 御崎冴子みさきさえこ。姉御肌のさっぱりとした気性の兄嫁だ。母子家庭で育つが母親は既に亡く、兄と結婚した。
 僕と康介と敬がぴったりと並んでいるのを見て、冴子姉と京香さんが写真を撮り出した。
「いや、確かに無いだろうけどね」
 聞いてない。兄と直まで、撮り出した。だめだ、これは。
「それで、サンタの配ったチョコレートとやらを食べたらこうなったんだねえ?」
「そう。この広告と一緒になってたんだけど」
 京香さんがやっと落ち着いて、広告を出す。
「行ってみたら、空き地のままだったわ」
「これ、どういう事なんでしょうね。チョコに何か術でも?」
 兄が訊くが、京香さんは困ったように首を捻る。
「これと言って感じなかったんですけど……普通、こんな現象は起きないしねえ」
「協会に問い合わせ中だけど、聞いたことが無いって。様子見って言う事だったけどねえ」
 僕はもう一度康介に訊いた。
「公園で、サンタさんがくれたのか?」
「そう!今日中に食べてねって」
「他の子も貰ってた?」
「うん!1人1個ずつ。だから、怜君にあげたの」
「そうか。ありがとうな」
 礼を言うべきなのかは疑問だが、気持ちはありがたい。
「ううう」
「敬も、大きくなったら一緒に食べような」
「うああ」
「他の子に異常が無いか、聴いて回らないとな」
 とにかく、前代未聞過ぎて、どうしたらいいかさっぱり見当もつかない状況だったのである。

 小さい体が、思いのほか扱い辛い。ちょっとしたところに手が届かない、思ってたよりも物が重い、重心が高くなってやたらと転びやすい、舌が上手く動かなくて喋り難い。
「はあ。こんなだったかなあ」
 兄は心配しながらも何か嬉しそうで困る。
 冴子姉も、もしこのままでも、長男って事でいいじゃない、と言う。
 元気付けてくれているのはわかるが、僕は戻りたい。
 夜中、部屋で1人早口言葉に挑戦していると、背後に気配が近付くのを感じた。
「あ、サンタ……」
 振り返ると、次元の裂け目ができ、サンタクロースの扮装をした人物が子供達を従えて立っていた。
「サンタ、さん。迎えに来たよ。一緒に遊ぼう。お友達も待ってるよ」
 言いながら、いとも容易く、ひょいと抱き上げて捕まえられる。
「離せぇ!」
「さあ、行こう」
「兄ちゃあん!!」
 サンタに抱えられて次元の裂け目に入って行き、裂け目が閉じる寸前に見えたのは、声を聞いて部屋に飛び込んで来た兄の、焦った顔だった。


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