335 / 1,046
ついてくる(3)証拠品
しおりを挟む
直が、密かに札を準備する。
持田さん夫婦は気配を強めながら、言い募った。
「後ろから来た車にあおられましてね。横に付けられて、ガードレールから押し出すようにして崖下に落とされたんですよ」
話が違うぞ。
「単独事故ではなかったんですか」
「違う。他に通りかかる車も無かったから目撃者もいないし、防犯カメラも無いから、本人しか言えないがね。その本人も、片方はこの通り。もう片方は、逃げてそれっきりだよ。助けを呼ばないどころか、止まりもせずに行ったよ。
おかげで家内は、動けないまま、しばらく苦しんで亡くなる羽目になった。私も辛うじて生きてはいたが、動けないし声も出ないしで、どうする事も出来なかった」
苦しそうに顔を歪めて男性は言い、女性は目元をハンカチで押さえた。
「そうだったんですかあ……」
「まさか、そういう事故だったとは……」
想像するだに、気の毒だ。
「でも今は、何を」
「煽って来る車は、許せない」
「だから、煽り返しているんですか」
「他に、何ができると言うんだ?」
持田さん夫婦は、怒りを滲ませる。
直に合図をすると、直が可視化の札をきった。
「おお」
皆が、急に見えた車と持田さん夫婦に、軽く驚く。
「こちらは、田ノ倉さん。田ノ倉旅館の息子さんです」
「あ、はじめまして。ご予約ありがとうございます」
田ノ倉さんは丁寧に頭を下げた。
「いえ、こちらこそ」
「とても素敵な旅館ですわね」
「ありがとうございます」
持田さん夫婦は、にこにことしている。
「その田ノ倉旅館が、経営のピンチなんです。ここに来ると、霊の車に追いかけられて事故に遭うという噂が流れてしまって」
僕が言うと、持田さん夫婦は、衝撃を受けたようにのけぞった。
「これは、とんだご迷惑を……。
しかしこのままでは、私共も腹の虫が……」
持田さん夫婦は悩んでいるようだったし、僕達も、何か手は無いかと考えた。
「煽られた末の事故っていう証拠があればいいんだけどねえ」
「ドライブレコーダーとか、付けてはらへんかったんですか」
持田さん夫婦は、揃って顔を横に振った。
「スマホで動画を撮ってたりはしませんでしたか」
宗が訊く。
「スマホ……撮ってたわね。でも、事故の時にどこかに飛んでしまったわ」
「警察に発見されていないかも知れない。見つけて提出すれば、事件として捜査されるんじゃないかな」
真先輩が言って、僕達は一斉に10メートルほどの崖下に降りて、スマホ探しを始めた。
暗くなり始めた頃、そこから30メートルは離れた所に飛んで行っていたスマホを、田ノ倉さんが見つけた。
「あった!!」
勿論、電池は切れている。後は、水濡れや衝撃での故障の心配だ。
「大丈夫ですよ。故障していても、中のデータが残っていないとは限りませんから。販売店……いや、直接警察に持って行った方が早いのかな」
宗が言うのに、楓太郎が勢い込んで同意した。
「行きましょう、今から。ね、先輩」
「そうだな。うん。
というわけですから、持田さん。とにかく、煽り返しは中止して下さい。いいですね。同じような目に遭って悲しむ人を出す事は、良しとしないでしょう?」
「……わかった」
「では、警察の方はよろしくお願いします」
持田夫婦は揃って頭を下げ、消えて行った。
「じゃあ、行こうか」
僕達は、えっちらおっちらと、崖をよじ登り始めた。
持田さん夫婦は気配を強めながら、言い募った。
「後ろから来た車にあおられましてね。横に付けられて、ガードレールから押し出すようにして崖下に落とされたんですよ」
話が違うぞ。
「単独事故ではなかったんですか」
「違う。他に通りかかる車も無かったから目撃者もいないし、防犯カメラも無いから、本人しか言えないがね。その本人も、片方はこの通り。もう片方は、逃げてそれっきりだよ。助けを呼ばないどころか、止まりもせずに行ったよ。
おかげで家内は、動けないまま、しばらく苦しんで亡くなる羽目になった。私も辛うじて生きてはいたが、動けないし声も出ないしで、どうする事も出来なかった」
苦しそうに顔を歪めて男性は言い、女性は目元をハンカチで押さえた。
「そうだったんですかあ……」
「まさか、そういう事故だったとは……」
想像するだに、気の毒だ。
「でも今は、何を」
「煽って来る車は、許せない」
「だから、煽り返しているんですか」
「他に、何ができると言うんだ?」
持田さん夫婦は、怒りを滲ませる。
直に合図をすると、直が可視化の札をきった。
「おお」
皆が、急に見えた車と持田さん夫婦に、軽く驚く。
「こちらは、田ノ倉さん。田ノ倉旅館の息子さんです」
「あ、はじめまして。ご予約ありがとうございます」
田ノ倉さんは丁寧に頭を下げた。
「いえ、こちらこそ」
「とても素敵な旅館ですわね」
「ありがとうございます」
持田さん夫婦は、にこにことしている。
「その田ノ倉旅館が、経営のピンチなんです。ここに来ると、霊の車に追いかけられて事故に遭うという噂が流れてしまって」
僕が言うと、持田さん夫婦は、衝撃を受けたようにのけぞった。
「これは、とんだご迷惑を……。
しかしこのままでは、私共も腹の虫が……」
持田さん夫婦は悩んでいるようだったし、僕達も、何か手は無いかと考えた。
「煽られた末の事故っていう証拠があればいいんだけどねえ」
「ドライブレコーダーとか、付けてはらへんかったんですか」
持田さん夫婦は、揃って顔を横に振った。
「スマホで動画を撮ってたりはしませんでしたか」
宗が訊く。
「スマホ……撮ってたわね。でも、事故の時にどこかに飛んでしまったわ」
「警察に発見されていないかも知れない。見つけて提出すれば、事件として捜査されるんじゃないかな」
真先輩が言って、僕達は一斉に10メートルほどの崖下に降りて、スマホ探しを始めた。
暗くなり始めた頃、そこから30メートルは離れた所に飛んで行っていたスマホを、田ノ倉さんが見つけた。
「あった!!」
勿論、電池は切れている。後は、水濡れや衝撃での故障の心配だ。
「大丈夫ですよ。故障していても、中のデータが残っていないとは限りませんから。販売店……いや、直接警察に持って行った方が早いのかな」
宗が言うのに、楓太郎が勢い込んで同意した。
「行きましょう、今から。ね、先輩」
「そうだな。うん。
というわけですから、持田さん。とにかく、煽り返しは中止して下さい。いいですね。同じような目に遭って悲しむ人を出す事は、良しとしないでしょう?」
「……わかった」
「では、警察の方はよろしくお願いします」
持田夫婦は揃って頭を下げ、消えて行った。
「じゃあ、行こうか」
僕達は、えっちらおっちらと、崖をよじ登り始めた。
10
お気に入りに追加
198
あなたにおすすめの小説
未亡人クローディアが夫を亡くした理由
臣桜
キャラ文芸
老齢の辺境伯、バフェット伯が亡くなった。
しかしその若き未亡人クローディアは、夫が亡くなったばかりだというのに、喪服とは色ばかりの艶やかな姿をして、毎晩舞踏会でダンスに興じる。
うら若き未亡人はなぜ老齢の辺境伯に嫁いだのか。なぜ彼女は夫が亡くなったばかりだというのに、楽しげに振る舞っているのか。
クローディアには、夫が亡くなった理由を知らなければならない理由があった――。
※ 表紙はニジジャーニーで生成しました
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。
余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~
流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。
しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。
けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。
夫の不貞現場を目撃してしまいました
秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。
何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。
そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。
なろう様でも掲載しております。
【R18】やがて犯される病
開き茄子(あきなす)
恋愛
『凌辱モノ』をテーマにした短編連作の男性向け18禁小説です。
女の子が男にレイプされたり凌辱されたりして可哀そうな目にあいます。
女の子側に救いのない話がメインとなるので、とにかく可哀そうでエロい話が好きな人向けです。
※ノクターンノベルスとpixivにも掲載しております。
内容に違いはありませんので、お好きなサイトでご覧下さい。
また、新シリーズとしてファンタジーものの長編小説(エロ)を企画中です。
更新準備が整いましたらこちらとTwitterでご報告させていただきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる