298 / 1,046
てるてる坊主(2)天気予報
しおりを挟む
またもお天気キャスターが首を切られて亡くなったというニュースが日本中を駆け巡る。
しかしそれよりも、彼ら小学生にとっては、明日の天気が重要だった。なぜなら、明日は遠足だからだ。雨になれば延期だが、延期はもう既に2回しているので、明日雨になれば中止、今年の春の遠足は無しということになるらしかった。
「明日晴れるかなあ。牧場、行きたいなあ。牛の乳しぼりやりたい」
「8チャンネルのお天気お姉さんは、曇りだって言ってたよ」
「てるてる坊主も皆で作ったし、祈るしかないよ」
誰からともなく、『てるてる坊主』の歌を歌い始める。
と、1人が言い出した。
「なあ、歌詞、3番まで知ってる?お姉ちゃんがネットで見てたんだ」
「どんなの?」
「ええっとね」
てるてる坊主 てる坊主 明日天気にしておくれ
いつかの夢の空のよに 晴れたら金の鈴あげよ
てるてる坊主 てる坊主 明日天気にしておくれ
わたしの願いを聞いたなら あまいお酒をたんと飲ましょ
てるてる坊主 てる坊主 明日天気にしておくれ
それでも曇って泣いてたら そなたの首をチョン切るぞ
「ええー、チョン切るの?」
「でもその方が、必死に晴にしようとしそう」
それで子供達は、3番までを大声で歌いながら歩き出した。
翌日は、残念ながら雨がしとしと降っていた。
そしてまたも、天気予報士、8チャンネルのお天気お姉さんこと有田省子が、首を切られて死んでいるのが見付かった。
「もしかして、予報を外したら殺されるんじゃないか」
そんな噂が広まっている。
「予報を外したら、というよりも、外して雨になったら、とか言われてるねえ」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いでもある。
「なるほど。いつも雨だもんな」
「よっぽど、予報を信じて傘を持たずに家を出て雨に濡れたのが腹立たしかったのか、犯人は?」
僕と直は話しながら、歩いていた。
と、車が1台、横に停まる。後部座席の窓が開いて、美里様が顔を出した。
若手で1番の人気女優、霜月美里さんだ。美人で実力派だが、キツくて有名で、「女王様」「美里様」と呼ばれている。少し前に仕事を通じて知り合った。
「久しぶりね」
「ああ、こんにちは」
「お久しぶりですねえ」
「仕事?」
「終わったところです」
「そう。送ってあげるから乗りなさいよ。
ああ、今から番宣の仕事があるの。ちょっと見て行きなさい」
僕達が乗ってからそんな事を付け足す。
「え?だったら悪いし」
「いいから来なさいよ。
今度のドラマ、天気予報士の役でね。番宣の一環として、ワイドショーで天気予報を言って回ってるのよ。朝からずーっと。
天気予報を外して雨になったら殺される。そんな噂のせいで、天気予報、見た?どこも皆、『所によっては一時的に雨が降るかも知れません』よ。天気予報の役に立たないじゃない」
嫌な予感がして来た。
「なあ、もしかして美里様?」
「原稿通りに読むんだよねえ?」
美里様は綺麗な笑顔を浮かべて、
「だから、いらっしゃいって」
と言った。
「待て待て待て!明日の天気が雨なのは、素人の僕だって天気図からわかるぞ」
「やめときなって、危なすぎるよぅ」
「フフン」
ハンドルを握るマネージャーの五月さんは、苦笑を浮かべて、
「聞きゃあしないよ」
と言うのみだ。
だめだ、これこそ役に立たない。
「考え直せ、な。霊関係なら守ってやる。でも殺人鬼なら、自信はない」
「美里様、頼むよう」
「あてにしてるわよ」
「ああ、もう、面倒臭い!」
僕は頭を抱えた。
しかしそれよりも、彼ら小学生にとっては、明日の天気が重要だった。なぜなら、明日は遠足だからだ。雨になれば延期だが、延期はもう既に2回しているので、明日雨になれば中止、今年の春の遠足は無しということになるらしかった。
「明日晴れるかなあ。牧場、行きたいなあ。牛の乳しぼりやりたい」
「8チャンネルのお天気お姉さんは、曇りだって言ってたよ」
「てるてる坊主も皆で作ったし、祈るしかないよ」
誰からともなく、『てるてる坊主』の歌を歌い始める。
と、1人が言い出した。
「なあ、歌詞、3番まで知ってる?お姉ちゃんがネットで見てたんだ」
「どんなの?」
「ええっとね」
てるてる坊主 てる坊主 明日天気にしておくれ
いつかの夢の空のよに 晴れたら金の鈴あげよ
てるてる坊主 てる坊主 明日天気にしておくれ
わたしの願いを聞いたなら あまいお酒をたんと飲ましょ
てるてる坊主 てる坊主 明日天気にしておくれ
それでも曇って泣いてたら そなたの首をチョン切るぞ
「ええー、チョン切るの?」
「でもその方が、必死に晴にしようとしそう」
それで子供達は、3番までを大声で歌いながら歩き出した。
翌日は、残念ながら雨がしとしと降っていた。
そしてまたも、天気予報士、8チャンネルのお天気お姉さんこと有田省子が、首を切られて死んでいるのが見付かった。
「もしかして、予報を外したら殺されるんじゃないか」
そんな噂が広まっている。
「予報を外したら、というよりも、外して雨になったら、とか言われてるねえ」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いでもある。
「なるほど。いつも雨だもんな」
「よっぽど、予報を信じて傘を持たずに家を出て雨に濡れたのが腹立たしかったのか、犯人は?」
僕と直は話しながら、歩いていた。
と、車が1台、横に停まる。後部座席の窓が開いて、美里様が顔を出した。
若手で1番の人気女優、霜月美里さんだ。美人で実力派だが、キツくて有名で、「女王様」「美里様」と呼ばれている。少し前に仕事を通じて知り合った。
「久しぶりね」
「ああ、こんにちは」
「お久しぶりですねえ」
「仕事?」
「終わったところです」
「そう。送ってあげるから乗りなさいよ。
ああ、今から番宣の仕事があるの。ちょっと見て行きなさい」
僕達が乗ってからそんな事を付け足す。
「え?だったら悪いし」
「いいから来なさいよ。
今度のドラマ、天気予報士の役でね。番宣の一環として、ワイドショーで天気予報を言って回ってるのよ。朝からずーっと。
天気予報を外して雨になったら殺される。そんな噂のせいで、天気予報、見た?どこも皆、『所によっては一時的に雨が降るかも知れません』よ。天気予報の役に立たないじゃない」
嫌な予感がして来た。
「なあ、もしかして美里様?」
「原稿通りに読むんだよねえ?」
美里様は綺麗な笑顔を浮かべて、
「だから、いらっしゃいって」
と言った。
「待て待て待て!明日の天気が雨なのは、素人の僕だって天気図からわかるぞ」
「やめときなって、危なすぎるよぅ」
「フフン」
ハンドルを握るマネージャーの五月さんは、苦笑を浮かべて、
「聞きゃあしないよ」
と言うのみだ。
だめだ、これこそ役に立たない。
「考え直せ、な。霊関係なら守ってやる。でも殺人鬼なら、自信はない」
「美里様、頼むよう」
「あてにしてるわよ」
「ああ、もう、面倒臭い!」
僕は頭を抱えた。
10
お気に入りに追加
198
あなたにおすすめの小説
未亡人クローディアが夫を亡くした理由
臣桜
キャラ文芸
老齢の辺境伯、バフェット伯が亡くなった。
しかしその若き未亡人クローディアは、夫が亡くなったばかりだというのに、喪服とは色ばかりの艶やかな姿をして、毎晩舞踏会でダンスに興じる。
うら若き未亡人はなぜ老齢の辺境伯に嫁いだのか。なぜ彼女は夫が亡くなったばかりだというのに、楽しげに振る舞っているのか。
クローディアには、夫が亡くなった理由を知らなければならない理由があった――。
※ 表紙はニジジャーニーで生成しました
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
【R18】やがて犯される病
開き茄子(あきなす)
恋愛
『凌辱モノ』をテーマにした短編連作の男性向け18禁小説です。
女の子が男にレイプされたり凌辱されたりして可哀そうな目にあいます。
女の子側に救いのない話がメインとなるので、とにかく可哀そうでエロい話が好きな人向けです。
※ノクターンノベルスとpixivにも掲載しております。
内容に違いはありませんので、お好きなサイトでご覧下さい。
また、新シリーズとしてファンタジーものの長編小説(エロ)を企画中です。
更新準備が整いましたらこちらとTwitterでご報告させていただきます。
夫の不貞現場を目撃してしまいました
秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。
何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。
そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。
なろう様でも掲載しております。
余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~
流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。
しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。
けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる