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交換日記(3)事故物件
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斉田は、交換日記にしている大学ノートを見返していた。
朝、斉田が書いたノートを隣のポストに入れる。そして夜に帰って来ると、斉田のポストに、彼女が書いたノートが入っている。その繰り返しだ。
見開きの左が斉田、右が彼女、という順番になっている。
読んでいて、あれ、と思った。彼女の方が短いのは、日本語でやり取りをしているから、難しいせいだと思っていた。実際、彼女は日本語を話すのは大丈夫だが、書くのは少し苦手だと言っていた。だから、交換日記だと勉強にもなって嬉しいと。
しかしその割には、ひらがな、カタカナ、漢字、アルファベット、どれもこなれている。段落とか読点、句読点まで完璧だ。
本当に、日本語の苦手な人間の書いた文章だろうか。
いや、このアルファベットと数字、日本人らし過ぎないだろうか。
バイト先で、外国人の書くアルファベットや数字を何度も見た事がある。一概に言えないとは言え、日本人の書くアルファベットや数字は行儀がいいといつも思っていた。特にアルファベットは、向こうの人と、全然違う。特にgという表記は別物だ。
これは、誰が書いたものだろう。
自分は今まで、一体誰と交換日記をしていたのだろう?
斉田は急に、背中がうすら寒くなって来た。
昼、斉田さんのアパートに行って、まず近くから観察した。
斉田さんは202、彼女は203。
「203に、誰かいる」
「事故物件かねえ」
僕と直が言うのに、智史が身構え、真先輩が苦笑した。
「値段が安いからとかで、事故物件にあえて入居する人もいるんだよね。
もしくは、そこに社員とかを名義だけでも一定期間入居させて、事故物件の告知義務を外す不動産業者もあるしね」
「悪質やな。自分とこ、心配になってきたわ」
「今まで大丈夫だったんだろ?」
言いながら、斉田さんに電話をかけて、一旦、出て来てもらう。
「え、203に幽霊が?知らなかった……」
直は通りかかった近所の住民と思しき老婦人に、
「こんにちは。このアパートに入居を考えてるんですけど、ここ、どうですかねえ、評判とか」
とにこにこと話しかけた。
「ここ?古いだけあって、家賃は安いらしいわね。でも、5年程前に2階に住んでた女子大生が衰弱死して、その部屋、若い男の子が入ったら、幽霊が出るようになったらしいのね。今は女の人で大丈夫らしいけど。
あら?その前は若い男の子だったと思ったけど……まあ、ほとんど帰ってこなかったから、それで大丈夫だったのかしら。
だから、一応、2階の真ん中はやめておきなさいよ」
「御親切に、ありがとうございました」
老婦人が飼い犬と去って行くのを見送って、5人はガバッと額を寄せ集めた。
「ヤバイんちゃうん?」
声が嬉しそうだぞ、智史。
「不動産会社、許せないな」
「彼女、大丈夫かな。引っ越した方がいいのかな」
斉田さんは、オロオロとしている。
「斉田さん。不動産会社に連絡を取れますか。心霊現象に悩まされてるから今すぐ来いって」
「はい?」
「料金は、そっちに吹っ掛けてやる。せこい事を考えても余計に大変な事になるって、教えといてやらないとな」
「協会依頼料金でねえ」
僕と直は、フッフッフッと笑った。
そして電話でマリアさんも呼び出した。
メリハリの効いた美女、という感じだろうか。まずは斉田さんとあいさつのキスからって、ああ、外人さんだなあ。
「交換日記、楽しみにしてるのに、いつから始めますか」
全員、マリアさんに注目した。それにマリアさんが、怪訝な顔で落ち着きをなくす。
「やっぱりあれは、誰か別人の書いたものだったのか」
斉田さんの顔色が、さあっと青くなった。
朝、斉田が書いたノートを隣のポストに入れる。そして夜に帰って来ると、斉田のポストに、彼女が書いたノートが入っている。その繰り返しだ。
見開きの左が斉田、右が彼女、という順番になっている。
読んでいて、あれ、と思った。彼女の方が短いのは、日本語でやり取りをしているから、難しいせいだと思っていた。実際、彼女は日本語を話すのは大丈夫だが、書くのは少し苦手だと言っていた。だから、交換日記だと勉強にもなって嬉しいと。
しかしその割には、ひらがな、カタカナ、漢字、アルファベット、どれもこなれている。段落とか読点、句読点まで完璧だ。
本当に、日本語の苦手な人間の書いた文章だろうか。
いや、このアルファベットと数字、日本人らし過ぎないだろうか。
バイト先で、外国人の書くアルファベットや数字を何度も見た事がある。一概に言えないとは言え、日本人の書くアルファベットや数字は行儀がいいといつも思っていた。特にアルファベットは、向こうの人と、全然違う。特にgという表記は別物だ。
これは、誰が書いたものだろう。
自分は今まで、一体誰と交換日記をしていたのだろう?
斉田は急に、背中がうすら寒くなって来た。
昼、斉田さんのアパートに行って、まず近くから観察した。
斉田さんは202、彼女は203。
「203に、誰かいる」
「事故物件かねえ」
僕と直が言うのに、智史が身構え、真先輩が苦笑した。
「値段が安いからとかで、事故物件にあえて入居する人もいるんだよね。
もしくは、そこに社員とかを名義だけでも一定期間入居させて、事故物件の告知義務を外す不動産業者もあるしね」
「悪質やな。自分とこ、心配になってきたわ」
「今まで大丈夫だったんだろ?」
言いながら、斉田さんに電話をかけて、一旦、出て来てもらう。
「え、203に幽霊が?知らなかった……」
直は通りかかった近所の住民と思しき老婦人に、
「こんにちは。このアパートに入居を考えてるんですけど、ここ、どうですかねえ、評判とか」
とにこにこと話しかけた。
「ここ?古いだけあって、家賃は安いらしいわね。でも、5年程前に2階に住んでた女子大生が衰弱死して、その部屋、若い男の子が入ったら、幽霊が出るようになったらしいのね。今は女の人で大丈夫らしいけど。
あら?その前は若い男の子だったと思ったけど……まあ、ほとんど帰ってこなかったから、それで大丈夫だったのかしら。
だから、一応、2階の真ん中はやめておきなさいよ」
「御親切に、ありがとうございました」
老婦人が飼い犬と去って行くのを見送って、5人はガバッと額を寄せ集めた。
「ヤバイんちゃうん?」
声が嬉しそうだぞ、智史。
「不動産会社、許せないな」
「彼女、大丈夫かな。引っ越した方がいいのかな」
斉田さんは、オロオロとしている。
「斉田さん。不動産会社に連絡を取れますか。心霊現象に悩まされてるから今すぐ来いって」
「はい?」
「料金は、そっちに吹っ掛けてやる。せこい事を考えても余計に大変な事になるって、教えといてやらないとな」
「協会依頼料金でねえ」
僕と直は、フッフッフッと笑った。
そして電話でマリアさんも呼び出した。
メリハリの効いた美女、という感じだろうか。まずは斉田さんとあいさつのキスからって、ああ、外人さんだなあ。
「交換日記、楽しみにしてるのに、いつから始めますか」
全員、マリアさんに注目した。それにマリアさんが、怪訝な顔で落ち着きをなくす。
「やっぱりあれは、誰か別人の書いたものだったのか」
斉田さんの顔色が、さあっと青くなった。
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