体質が変わったので

JUN

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迷い(1)罪と弁護

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 授業が終わり、教科書類を片付ける。
「ああ。次の授業、休講だったな」
 御崎 怜みさき れん、大学1年生。高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった、霊能師である。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「休講って、変なの。自習じゃないんだねえ」
 町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いでもある。
「自習ってパターンもあるらしいで」
 郷田智史。いつも髪をキレイにセットし、モテたい、彼女が欲しいと言っている。実家は滋賀でホテルを経営しており、兄は経営面、智史は法律面からそれをサポートしつつ弁護士をしようと、法学部へ進学したらしい。
「わからんな」
「お、次休講か。なら暇だな。レポート持って来てくれ」
 今提出したばかりのレポートの山を指して、先生が言う。試験の時に監督をしていた人で、事務員ではなかったらしい。
 寺崎昭栄てらさきしょうえい、法学部で助教をしている。少し猫背気味の長身で、いつも無精ヒゲがまばらに残っている。寺の次男坊だ。
「はい」
 レポートの山を3人で分けて持って、後をついて行く。
 教官室は片付いていて、狭いが、居心地は良さそうだ。
「おう、サンキュ。机の上でいいぞ。
 コーヒーでも付き合え」
 言いながら、カップにコーヒーを人数分注いでいく。
「いただきます。
 あ、マドレーヌありますよ」
「お、もらおうか」
 4人で、おやつとなる。
「もう慣れたか」
「はい、何とか」
「そろそろバイトを見つけんと、まずいですわ。物価が高うて」
「ファッションにお金と時間をかけすぎてるんじゃないかねえ」
「ポリシーなんや」
 そう言われては、しかたがない。
「シエルの件は、気にするな。お前らに落ち度はねえよ」
 僕達に用事を言いつけたのは、これを言う為だったのだろう。
「はい」
 何か、受験の時の反応と言い、人がいいんだな。それに、照れ屋か。
 思っていたら、視線に気付いたのか、急にリモコンを取ってテレビを点けた。
「あ、これか」
 女子中学生と女子高生の遺体が見付かったのは2週間程前だった。司法解剖の結果、生きたまま、指を落とされたり、殴られて眼球が破裂したり、ダーツの的にされたり、歯を抜かれたりしたようだと、残忍な手口に世間は戦慄した。が、犯人が高校生Aを主犯とした未成年者ばかりだったことが、一層、世間を震撼させた。
 その続報を放送していた。
「酷いな。拷問を試してみたかったとか言うてたらしいけど、未成年やから、今んとこ、名前も出えへんのやろ」
「法律だからな。おかしいと思うなら、法改正を働きかけるべきだ。
 うん。この話題で、今度は小論文を書かせよう」
 寺崎先生は宿題を思いついてしまったらしい。
「こんな奴でも、裁判で弁護したらなアカンねんなあ。オレやったらできるかなあ」
「するしかないさ。できなきゃ、降りるしかない。それが弁護士だからな。まあ、極悪人だろうと、権利は権利。適正な判決に持って行くには必要だ」
「弁護士って、依頼人の利益の為には何でも言えなアカンのかな」
「郷田は弁護士志望か?」
「ああ、はい。家が経営してるホテルを法律面から支えながら、弁護士やりたいと思てます」
「そうか。ふうん。ま、今のうちに悩め、悩め」
 ニヤリと寺崎先生は笑い、マドレーヌにかぶり付いた。

 そして夕方、僕と直は、まさにその現場に来ていた。
 高級住宅地のど真ん中にある大豪邸で、父親は大会社社長で母親は有名な女優。地下室が少年A達の溜まり場であり、監禁場所、殺人現場となったところである。
 ここに夜な夜な人魂が飛ぶとか、女の子の悲鳴がするとか、そんな噂が飛び交っていた。
 依頼人は少年Aの両親で、地下室が朝になると滅茶苦茶に荒らされており、取り付けた監視カメラに被害者に似た女の子が歩き回っているのがぼんやりと映り、勝手に室内の物が動き回る様子が映っていたらしい。直後に飛んできた物で壊れたが。それを何とかして欲しいという事だった。
「いるねえ」
「被害者達だな」
 女子が2人いた。
「無い、無い、無い、無い」
「どこ、どこ、どこ、どこ」
 探し回っている。
「何を探しているんですか」
「指が足りないの」
「目玉が無いの。歯も足りないわ」
 ああ。見つからなかったとか聞いたな。
「ここには、ないようです」
「じゃあどこ」
「ねえ、返してよ」
 2人がこちらを向く。
「成仏して、新しく――」
「それはそれ、これはこれ」
「あいつから足りない分は返してもらうわ」
「待って――」
「ちょっと!」
 霊が見えず、声が聞こえない依頼人だが、母親が立ち合いを希望したので背後にいるのだが、いきなり、肩に掴みかかって文句を言い出した。
「これじゃあ、演技の参考にならないじゃないの」
「は?」
「見えるようにできないの?お金払ってるんだからやってよ。マスコミには叩かれるし、このくらいないと、やってられないわよ」
 僕、直、マネージャー、3人共が思わず絶句した。
 ゴウッと被害者達がこちらに押し寄せる。
「危ない!」
 辛うじて母親とマネージャーを守るが、被害者達は、移動してしまった。
「どうしたの?」
「……霊はこの場から離れました」
「そう、良かった」
 母親は鼻歌を歌いながら、階段を上がって行った。







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