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ヨルムンガンド(4)消えた友
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何となく、もういなくなったというのはわかるものだ。
「いなくなった」
ホッとした空気が流れ、また皆はひとかたまりになる。が、流石にもう無茶を言う気はないらしく、皆大人しいものだ。
僕と直が非常口の方へ異動すると、シエルがついて来た。
「なあ、怜、直。
愚かな人間は、やり直さないとだめだよ。導き手を選別して、やり直さないと」
シエルの顔を、僕も直もマジマジと見た。
「それから、神を1つにして人類をひとつにまとめる。そうすれば、宗教戦争は起きないしね」
「シエル?」
「神を喰い合わせてもいいんだけど、なかなか思い通りにいかないんだ。たかが霊でも、思い通りにいかないっていうのに」
「なあ、シエル」
「怜ならできるよな。ただ1つの神に」
「シエル!」
「ぼく達と行こうよ、怜、直」
いつの間にか辺りはシンとして、この会話に耳を傾けていた。
「救いようのない奴らばかりじゃないか」
数人が下を向く。
「助けられるのが当然。そのくせ、助けてくれたた相手にどんな目を向けた?」
また数人が下を向く。
「世界は生まれ変わるべきじゃないのかな。優しい世界に」
シエルの言葉に皆が押し黙る。
そしてすぐに、非常口のひしゃげたドアがガンっと力を加えられて開き、救助の人員がなだれ込んで来た。
外へ出て、簡単な健康チェックを受け、適当に散らばって座る。
「なあ、ぼく達ヨルムンガンドと、世界を変えよう」
「……ヨルムンガンド?北欧神話に出て来る蛇か」
「ロキとアングルボザの子、またはその心臓を食べて産んだ3匹の魔物、フェンネル、ヨルムンガンド、ヘルの1匹。ラグナロクが到来する時、ヨルムンガンドが海から陸へ上がり、海水が陸を洗い流すとされているよ」
「ラグナロクを、自分達でコントロールして起こす気かねえ」
「人類の未来の為だよ」
「人類の未来ねえ。はあ。胡散臭い。そして、面倒臭い」
シエルは首を傾けた。
直は、笑って肩を竦める。智史は水のペットボトルの蓋に手をかけた姿勢のまま、忙しく皆の顔を見比べる。
白い高級車が、そばまで来た。
「残念だよ。でも、まだあきらめたわけじゃないからね」
シエルは堂々とその車の後部座席に収まり、走り去る。
それを見送ってから、我に返った。
「あれ?今の誰?」
「ヨルムンガンドの人かねえ?」
「そのヨルムンガンドって、結局何なん?」
……あれ?
後から色々な事がわかった。
トンネルを塞いだのは人為的な爆破によるものだった事。非常口付近に霊をサークル内に閉じ込めて喰い合わせて実体化させた痕が残っていたが、その霊をそこまで封じていた壺と、酔った男に絡みついた霊を封じていた壺、発掘研究会で霊が封じられていた壺、それらは全て同じで、同じ術者によってなされていたという事。ヨルムンガンドという秘密結社が、あまり実体がわかっていないが、危険な思想を持っているという事。シエルという留学生などいなかったという事。
僕、直、智史は、呆けたように教室で頬杖を突きながら、溜め息をついていた。
「そんな悪い奴には思えんかったのになあ」
「まあ、純粋なんじゃないかねえ。諍いの無い世界にしたいという思いには」
「ちょーっと拗らせとるんやな。中二病患者か。
せやから、あれやな。会うたら一発ぶん殴って、正気に返したろ。それで、黒歴史を笑ろたろや」
智史は笑って、ズズズーッと紙パックのジュースを啜った。
「そうだな。それがいい」
「レンタカー代置いてあったけど、お釣りがあるもんねえ」
「そや。それでおごらしたろ」
僕達は笑って、誰からともなくジュースで乾杯した。
それが、ヨルムンガンドとの長い戦いの幕開けだった。
「いなくなった」
ホッとした空気が流れ、また皆はひとかたまりになる。が、流石にもう無茶を言う気はないらしく、皆大人しいものだ。
僕と直が非常口の方へ異動すると、シエルがついて来た。
「なあ、怜、直。
愚かな人間は、やり直さないとだめだよ。導き手を選別して、やり直さないと」
シエルの顔を、僕も直もマジマジと見た。
「それから、神を1つにして人類をひとつにまとめる。そうすれば、宗教戦争は起きないしね」
「シエル?」
「神を喰い合わせてもいいんだけど、なかなか思い通りにいかないんだ。たかが霊でも、思い通りにいかないっていうのに」
「なあ、シエル」
「怜ならできるよな。ただ1つの神に」
「シエル!」
「ぼく達と行こうよ、怜、直」
いつの間にか辺りはシンとして、この会話に耳を傾けていた。
「救いようのない奴らばかりじゃないか」
数人が下を向く。
「助けられるのが当然。そのくせ、助けてくれたた相手にどんな目を向けた?」
また数人が下を向く。
「世界は生まれ変わるべきじゃないのかな。優しい世界に」
シエルの言葉に皆が押し黙る。
そしてすぐに、非常口のひしゃげたドアがガンっと力を加えられて開き、救助の人員がなだれ込んで来た。
外へ出て、簡単な健康チェックを受け、適当に散らばって座る。
「なあ、ぼく達ヨルムンガンドと、世界を変えよう」
「……ヨルムンガンド?北欧神話に出て来る蛇か」
「ロキとアングルボザの子、またはその心臓を食べて産んだ3匹の魔物、フェンネル、ヨルムンガンド、ヘルの1匹。ラグナロクが到来する時、ヨルムンガンドが海から陸へ上がり、海水が陸を洗い流すとされているよ」
「ラグナロクを、自分達でコントロールして起こす気かねえ」
「人類の未来の為だよ」
「人類の未来ねえ。はあ。胡散臭い。そして、面倒臭い」
シエルは首を傾けた。
直は、笑って肩を竦める。智史は水のペットボトルの蓋に手をかけた姿勢のまま、忙しく皆の顔を見比べる。
白い高級車が、そばまで来た。
「残念だよ。でも、まだあきらめたわけじゃないからね」
シエルは堂々とその車の後部座席に収まり、走り去る。
それを見送ってから、我に返った。
「あれ?今の誰?」
「ヨルムンガンドの人かねえ?」
「そのヨルムンガンドって、結局何なん?」
……あれ?
後から色々な事がわかった。
トンネルを塞いだのは人為的な爆破によるものだった事。非常口付近に霊をサークル内に閉じ込めて喰い合わせて実体化させた痕が残っていたが、その霊をそこまで封じていた壺と、酔った男に絡みついた霊を封じていた壺、発掘研究会で霊が封じられていた壺、それらは全て同じで、同じ術者によってなされていたという事。ヨルムンガンドという秘密結社が、あまり実体がわかっていないが、危険な思想を持っているという事。シエルという留学生などいなかったという事。
僕、直、智史は、呆けたように教室で頬杖を突きながら、溜め息をついていた。
「そんな悪い奴には思えんかったのになあ」
「まあ、純粋なんじゃないかねえ。諍いの無い世界にしたいという思いには」
「ちょーっと拗らせとるんやな。中二病患者か。
せやから、あれやな。会うたら一発ぶん殴って、正気に返したろ。それで、黒歴史を笑ろたろや」
智史は笑って、ズズズーッと紙パックのジュースを啜った。
「そうだな。それがいい」
「レンタカー代置いてあったけど、お釣りがあるもんねえ」
「そや。それでおごらしたろ」
僕達は笑って、誰からともなくジュースで乾杯した。
それが、ヨルムンガンドとの長い戦いの幕開けだった。
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