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実証(1)悪徳宗教
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協会の一室で、母子と向き合っていた。
娘さんは春から食品会社に就職が決まっている大学生ということらしく、ハキハキとした感じの人だった。母親は46歳と聞き取り票に書いてあるが、化粧気がないせいか、吊り上がって血走った目と青白い顔色のせいか、それよりもずっと年上に見える。
相談してきたのはこの娘さんで、母親がとある宗教団体の人間に、先祖が供養が足りないと怒っている、そのせいで悪霊が引き寄せられている、などと言われ、高額のお布施をしたり高額の有料のセミナーや修行に参加し、家が滅茶苦茶になっているとのことだった。
「あの、本当にそうなんでしょうか」
言われて、改めて見ても、きれいなものだ。
「いえ、そんな様子はありませんよ」
御崎 怜、高校3年生。高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった上、夏には神殺し、秋には神喰い、冬には神生みという新体質までもが加わった、霊能師である。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、春の体質変化以来、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
僕が言った途端、母親はキッとこちらを睨みつけて、
「いい加減な事を言わないで頂戴!教祖様の言う事に間違いなんて事があるわけないでしょう!あなた達、悪の道に引きずり込むインチキ霊能師なんでしょ!罰が当たって死ぬわよ!」
と金切り声で叫ぶ。
「お母さん!
すみません」
娘さんが頭を下げるのに、直が答える。
「いえいえ。典型的みたいですねえ」
町田 直、幼稚園からの友人だ。要領が良くて人懐っこく、驚異の人脈を持っている。1年の夏以降、直も霊が見え、会話ができる体質になったので、本当に心強い。だが、その前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた、大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いでもある。
「お父さんは銀行の支店長で、単身赴任中なんですね」
「はい。もうずっと――」
「あの人が愛人に入れあげて帰って来ないのも、悪霊のせいなのよ!」
「ええっと、それはその『真愛会』の教祖に言われた事なんですか」
「そうよ」
「先祖霊の怒りで悪霊が寄って来て、家庭不和になると」
「そうよ。教祖様は素晴らしい方なの。あなたも勉強会にいらっしゃい。きっと為になるわ」
今度は一転して笑みを浮かべ、誘って来る。
「そうですねえ。まあ少しお待ちください。隣の部屋でお嬢さんとお話がありますから」
言って、娘さんと直と続きの部屋に移る。
「まず、霊が憑いているという事はありません。完全に、宗教団体に感化されていますね。早急なカウンセリングをお勧めします。
お父さんは、この件に関しては何と」
彼女は顔を強張らせて、
「母がこうだなんて恥ずかしい、世間に知られるな、と。自分は愛人を作って、家に寄り付きもしません」
と苦々しい口調で言った。
「助けは、望めそうにないですねえ。やっぱり、カウンセラーですねえ」
「はい、そうですね。このまま何とかして連れて行きます」
そう言って母子は帰って行った。
「ただでさえ悩んでいる人を食い物にするなんて、許せないよな」
「最低だよねえ。こっちが天罰をくだしてやりたいよねえ」
僕達はそれを見送って、憤慨していた。
その2日後、放課後に慌てたような娘さんから電話があった。
「入院させてたのに、こっそりと抜け出して教団に出家してしまったんです!どうしましょう!?」
僕と直は彼女と待ち合わせて、教団へ向かった。
だが、面会を申し入れても会わせてもらえず、本人が拒否しているの1点張りだ。挙句に、出家に伴う経費諸々を請求される始末だ。
しかしそれにもまして気になったのは、教団施設を覆う、嫌な気配だった。恨み、怒り、悲しみ、不安――。ありとあらゆる歪な感情が渦巻いたような重い気が、まるで結界のように、威嚇するかのように、包み込んでいたのだった。
娘さんは春から食品会社に就職が決まっている大学生ということらしく、ハキハキとした感じの人だった。母親は46歳と聞き取り票に書いてあるが、化粧気がないせいか、吊り上がって血走った目と青白い顔色のせいか、それよりもずっと年上に見える。
相談してきたのはこの娘さんで、母親がとある宗教団体の人間に、先祖が供養が足りないと怒っている、そのせいで悪霊が引き寄せられている、などと言われ、高額のお布施をしたり高額の有料のセミナーや修行に参加し、家が滅茶苦茶になっているとのことだった。
「あの、本当にそうなんでしょうか」
言われて、改めて見ても、きれいなものだ。
「いえ、そんな様子はありませんよ」
御崎 怜、高校3年生。高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった上、夏には神殺し、秋には神喰い、冬には神生みという新体質までもが加わった、霊能師である。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、春の体質変化以来、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
僕が言った途端、母親はキッとこちらを睨みつけて、
「いい加減な事を言わないで頂戴!教祖様の言う事に間違いなんて事があるわけないでしょう!あなた達、悪の道に引きずり込むインチキ霊能師なんでしょ!罰が当たって死ぬわよ!」
と金切り声で叫ぶ。
「お母さん!
すみません」
娘さんが頭を下げるのに、直が答える。
「いえいえ。典型的みたいですねえ」
町田 直、幼稚園からの友人だ。要領が良くて人懐っこく、驚異の人脈を持っている。1年の夏以降、直も霊が見え、会話ができる体質になったので、本当に心強い。だが、その前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた、大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いでもある。
「お父さんは銀行の支店長で、単身赴任中なんですね」
「はい。もうずっと――」
「あの人が愛人に入れあげて帰って来ないのも、悪霊のせいなのよ!」
「ええっと、それはその『真愛会』の教祖に言われた事なんですか」
「そうよ」
「先祖霊の怒りで悪霊が寄って来て、家庭不和になると」
「そうよ。教祖様は素晴らしい方なの。あなたも勉強会にいらっしゃい。きっと為になるわ」
今度は一転して笑みを浮かべ、誘って来る。
「そうですねえ。まあ少しお待ちください。隣の部屋でお嬢さんとお話がありますから」
言って、娘さんと直と続きの部屋に移る。
「まず、霊が憑いているという事はありません。完全に、宗教団体に感化されていますね。早急なカウンセリングをお勧めします。
お父さんは、この件に関しては何と」
彼女は顔を強張らせて、
「母がこうだなんて恥ずかしい、世間に知られるな、と。自分は愛人を作って、家に寄り付きもしません」
と苦々しい口調で言った。
「助けは、望めそうにないですねえ。やっぱり、カウンセラーですねえ」
「はい、そうですね。このまま何とかして連れて行きます」
そう言って母子は帰って行った。
「ただでさえ悩んでいる人を食い物にするなんて、許せないよな」
「最低だよねえ。こっちが天罰をくだしてやりたいよねえ」
僕達はそれを見送って、憤慨していた。
その2日後、放課後に慌てたような娘さんから電話があった。
「入院させてたのに、こっそりと抜け出して教団に出家してしまったんです!どうしましょう!?」
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しかしそれにもまして気になったのは、教団施設を覆う、嫌な気配だった。恨み、怒り、悲しみ、不安――。ありとあらゆる歪な感情が渦巻いたような重い気が、まるで結界のように、威嚇するかのように、包み込んでいたのだった。
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