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復讐予告(5)復讐の果て
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ガタガタと震える杉沢を、父親は、
「落ち着かんか!」
と一喝した。
やがて冷気が漂い、杉沢がビクンと直立する。復讐される前に、心臓麻痺で死なないだろうな、と心配になる。
3つの人形がありました
全部壊され持ち主は
彼らと一緒に死にました
杉沢が、ひきつけを起こしたような声を上げ、冷気と気配は去った。
「何と言ったのだ、そいつは」
父親が迫る。
「3つの人形がありました。全部壊され持ち主は、彼らと一緒に死にました」
父親は黙り込んだ。秘書は最初から黙っているし、杉沢は震えあがっている。
「さて。予想通りといったところでしょうか。準備しましょうかね。
直、作戦の変更は無しだ」
「了解」
「なるべく物が少ない部屋はありますか。水を撒いても良さそうな」
「あ、ああ。サンルームはどうだろう」
「拝見します」
「ご案内します」
秘書が案内に立つ。
少し離れたところで、訊かれた。
「正直、守るんですか」
「僕達は、霊能師であって、裁判官ではないですから」
サンルームの真ん中に、クッションを置いて、杉沢、僕、直が座って待つ。大きめの角盆には冷たい水の入ったグラスが乗り、バランスボールが転がっている。廊下のドアは開けてあった。
杉沢はイライラと爪を噛んだり、ウロウロしてみたりと忙しい。
「まあ、落ち着いて。トランプでもするか」
「しねえよ!」
「じゃあ、オセロとか」
「するか!お前らおかしいんじゃねえか!?」
「近くにいてもらわないと、困るんですけどねえ」
そう言うと、慌ててクッションに戻って来て座る。
僕はバランスボールを転がしながら、その時を待った。
と、冷気と気配が押し寄せて来た。
「来た」
告げると、杉沢はカエルの潰れたような声で返事をする。
「ま、益田!」
杉沢にも見える形で、益田がサンルームに現れた。
「もう朝食は食べたのかい」
「い、いや」
「最後なのに。
君達は中内君の所にもいたね。君達に危害を加えたくはないから、出て行ってもらえないかな」
「そういうわけには行かないんだ。霊能師なんでね。
益田君。もう、復讐はやめて、逝ってくれないか」
「無理だよ。わかるだろ。
仕方ないね。じゃあ、悪いけど」
益田が言った途端、ドアが音を立てて閉まる。そして、杉沢の座っている周りに小麦粉がみるみる湧いて出、風が杉沢中心に渦を巻き始めた。
「ヒッ。益田、悪かった、許してくれ、頼む!」
クッションから降りて、土下座する。
「ぼくが何度そう言ったか。やめてくれた?」
「い、いや」
「そういう事だよ」
僕はバランスボールを杉沢の背中に乗せて、ガムテープを引き剥がした。水が中からあふれ出して、杉沢の全身を濡らす。
そしてすぐに、クッションを上に投げて雷で破裂させ、直もクッションを投げて貼り付けた札で破裂させる。これで広範囲に水が撒かれ、小麦粉は重くなって床に落ちた。
「それなら」
益田は、大きなガラス戸を割り、ガラスの破片を杉沢に向けて高速で飛ばした。
同時に直は、水のグラスをひっくり返し、水に見えたゲルと、中に仕込んだ札に念を通す。するとそれらは薄く広がって、杉沢とガラス戸の間に展開された。
「な――!?」
ゲルの傘を突き破った幾つかが杉沢の手足に切り傷を作っていたが、致命傷には程遠い。せいぜい、痕が残る程度だろう。
益田は怒りと悔しさに震えていた。
「何で。ぼくは殺されたのに、そいつは助かるんだよ」
「心配するな。こいつもただじゃすまん。因果応報って言葉通りにな」
「許さないよ。それでもぼくは許せないよ」
「別にいい。許しの恩赦なんて、こいつらにはいらん。
それよりお前こそ、諦めろ。そうでないと、僕はお前を祓わなければならなくなる」
「やってごらんよ」
益田は全身で、躍りかかって来、それを受け止めるようにして右手を益田に当て、刀を出す。
益田は肩の上で、小声で
「ありがとう」
と言って、消えた。
杉沢は恐る恐る、顔を上げた。
「益田は?俺、助かったのか?」
廊下からは、音がやんだのでもう終わったのかと、父親と秘書がドアを開けて中を覗き込んだ。
「あ、親父」
「終わったのか?怪我をしとるじゃないか。役に立たん。お前もお前だ」
「社長」
「親父、大変だったんだぞ。死んでないのが不思議なくらいだったんだぞ」
珍しく、杉沢が怒っている。
この父親も一緒に怖い目に合わせるべきだったか、と思うが、2人を守るのはなかなか厄介だ。
「まあ、仕方ない。傷は消えるし、消せる」
「では、これで失礼します」
「料金の半金のお振込みをお願いします」
僕達は、壊れた杉沢家を後にした。
数日後、兄に叱られ、罰として外出禁止の刑に服していると、裏の警察署から、兄の元の相棒である吉井さんがやって来た。
何でも、浦川、友野、中内の3人が出頭し、中学時代のいじめと、益田が亡くなった事故の真実について告白したらしい。それでリーダーの杉沢にも調べが及び、4人は、家裁送りになるそうだ。
「少しは益田君の留飲も下がったかな」
「だといいねえ」
直と一緒に並んで日向ぼっこをしながら、益田の事を思った。
「ありがとう、か。礼を言われるような事は何もできてなかったと思うんだが」
「優しいやつだったんだろ。本当は、傷つけるのも嫌だったんじゃないかな。それに、本当の事もほじくり返したし」
「そうかな。何か、力で逝かせるのは、やっぱり、なあ」
「それしかできない事もあるし、向こうも意地で、引けない事もあるよ、きっと。
ボクも祓えたら、良かったんだけどねえ。ごめんな、怜」
「直は悪くないぞ。凄くありがたい、助かってる」
「へへへ」
「へへへ」
恥ずかしくなって、同時にコーヒーを啜った。
こいつがいれば、自分は何とかなる。そんな相棒を得た自分は、きっと幸せなんだろう。
「春だな」
「春だねえ」
「動くのがもう面倒臭い」
ああ、恨みも憎しみも、面倒臭い。
少しだけ温かみを増した風が、春の訪れを知らせていた。
「落ち着かんか!」
と一喝した。
やがて冷気が漂い、杉沢がビクンと直立する。復讐される前に、心臓麻痺で死なないだろうな、と心配になる。
3つの人形がありました
全部壊され持ち主は
彼らと一緒に死にました
杉沢が、ひきつけを起こしたような声を上げ、冷気と気配は去った。
「何と言ったのだ、そいつは」
父親が迫る。
「3つの人形がありました。全部壊され持ち主は、彼らと一緒に死にました」
父親は黙り込んだ。秘書は最初から黙っているし、杉沢は震えあがっている。
「さて。予想通りといったところでしょうか。準備しましょうかね。
直、作戦の変更は無しだ」
「了解」
「なるべく物が少ない部屋はありますか。水を撒いても良さそうな」
「あ、ああ。サンルームはどうだろう」
「拝見します」
「ご案内します」
秘書が案内に立つ。
少し離れたところで、訊かれた。
「正直、守るんですか」
「僕達は、霊能師であって、裁判官ではないですから」
サンルームの真ん中に、クッションを置いて、杉沢、僕、直が座って待つ。大きめの角盆には冷たい水の入ったグラスが乗り、バランスボールが転がっている。廊下のドアは開けてあった。
杉沢はイライラと爪を噛んだり、ウロウロしてみたりと忙しい。
「まあ、落ち着いて。トランプでもするか」
「しねえよ!」
「じゃあ、オセロとか」
「するか!お前らおかしいんじゃねえか!?」
「近くにいてもらわないと、困るんですけどねえ」
そう言うと、慌ててクッションに戻って来て座る。
僕はバランスボールを転がしながら、その時を待った。
と、冷気と気配が押し寄せて来た。
「来た」
告げると、杉沢はカエルの潰れたような声で返事をする。
「ま、益田!」
杉沢にも見える形で、益田がサンルームに現れた。
「もう朝食は食べたのかい」
「い、いや」
「最後なのに。
君達は中内君の所にもいたね。君達に危害を加えたくはないから、出て行ってもらえないかな」
「そういうわけには行かないんだ。霊能師なんでね。
益田君。もう、復讐はやめて、逝ってくれないか」
「無理だよ。わかるだろ。
仕方ないね。じゃあ、悪いけど」
益田が言った途端、ドアが音を立てて閉まる。そして、杉沢の座っている周りに小麦粉がみるみる湧いて出、風が杉沢中心に渦を巻き始めた。
「ヒッ。益田、悪かった、許してくれ、頼む!」
クッションから降りて、土下座する。
「ぼくが何度そう言ったか。やめてくれた?」
「い、いや」
「そういう事だよ」
僕はバランスボールを杉沢の背中に乗せて、ガムテープを引き剥がした。水が中からあふれ出して、杉沢の全身を濡らす。
そしてすぐに、クッションを上に投げて雷で破裂させ、直もクッションを投げて貼り付けた札で破裂させる。これで広範囲に水が撒かれ、小麦粉は重くなって床に落ちた。
「それなら」
益田は、大きなガラス戸を割り、ガラスの破片を杉沢に向けて高速で飛ばした。
同時に直は、水のグラスをひっくり返し、水に見えたゲルと、中に仕込んだ札に念を通す。するとそれらは薄く広がって、杉沢とガラス戸の間に展開された。
「な――!?」
ゲルの傘を突き破った幾つかが杉沢の手足に切り傷を作っていたが、致命傷には程遠い。せいぜい、痕が残る程度だろう。
益田は怒りと悔しさに震えていた。
「何で。ぼくは殺されたのに、そいつは助かるんだよ」
「心配するな。こいつもただじゃすまん。因果応報って言葉通りにな」
「許さないよ。それでもぼくは許せないよ」
「別にいい。許しの恩赦なんて、こいつらにはいらん。
それよりお前こそ、諦めろ。そうでないと、僕はお前を祓わなければならなくなる」
「やってごらんよ」
益田は全身で、躍りかかって来、それを受け止めるようにして右手を益田に当て、刀を出す。
益田は肩の上で、小声で
「ありがとう」
と言って、消えた。
杉沢は恐る恐る、顔を上げた。
「益田は?俺、助かったのか?」
廊下からは、音がやんだのでもう終わったのかと、父親と秘書がドアを開けて中を覗き込んだ。
「あ、親父」
「終わったのか?怪我をしとるじゃないか。役に立たん。お前もお前だ」
「社長」
「親父、大変だったんだぞ。死んでないのが不思議なくらいだったんだぞ」
珍しく、杉沢が怒っている。
この父親も一緒に怖い目に合わせるべきだったか、と思うが、2人を守るのはなかなか厄介だ。
「まあ、仕方ない。傷は消えるし、消せる」
「では、これで失礼します」
「料金の半金のお振込みをお願いします」
僕達は、壊れた杉沢家を後にした。
数日後、兄に叱られ、罰として外出禁止の刑に服していると、裏の警察署から、兄の元の相棒である吉井さんがやって来た。
何でも、浦川、友野、中内の3人が出頭し、中学時代のいじめと、益田が亡くなった事故の真実について告白したらしい。それでリーダーの杉沢にも調べが及び、4人は、家裁送りになるそうだ。
「少しは益田君の留飲も下がったかな」
「だといいねえ」
直と一緒に並んで日向ぼっこをしながら、益田の事を思った。
「ありがとう、か。礼を言われるような事は何もできてなかったと思うんだが」
「優しいやつだったんだろ。本当は、傷つけるのも嫌だったんじゃないかな。それに、本当の事もほじくり返したし」
「そうかな。何か、力で逝かせるのは、やっぱり、なあ」
「それしかできない事もあるし、向こうも意地で、引けない事もあるよ、きっと。
ボクも祓えたら、良かったんだけどねえ。ごめんな、怜」
「直は悪くないぞ。凄くありがたい、助かってる」
「へへへ」
「へへへ」
恥ずかしくなって、同時にコーヒーを啜った。
こいつがいれば、自分は何とかなる。そんな相棒を得た自分は、きっと幸せなんだろう。
「春だな」
「春だねえ」
「動くのがもう面倒臭い」
ああ、恨みも憎しみも、面倒臭い。
少しだけ温かみを増した風が、春の訪れを知らせていた。
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