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留学生
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2人連れとイミアは、子供を見送ったところで目が合った。
「その薬は、売り物ではないのか」
子供を抱き上げた方が訊く。
「そうですけど、緊急事態でしたから。
そちらこそ、服に落ちにくそうな血のシミが付きましたよ」
イミアが言うと、青年は笑った。
「ああ。服くらい、どうという事も無い」
青年は本当にどうでも良さそうに高そうな服をちらりと見下ろして言った。
「それより、この国がエリノア教を国教に定めたというのは本当なのか」
「ランギルの方じゃないんですね。
そうですよ。春にエリノア教会からミリス様が聖女に認定されて、皇太子殿下と婚約されると共にそうなりましたね」
青年達は皮肉気な笑みを浮かべた。
「エリノア教か。護符と言い免罪符と言い、商売上手ではあるらしいな」
それにイミアはしみじみと頷いた。
(うちにその10分の1でも商売の才能があれば……)
そこで、薬を卸しに行く最中だった事を思い出した。
「じゃあ、これで」
「ああ。
あ、私はクライ。こっちは従兄のロッドだ」
「私はイミア」
それでイミアは、薬屋へと歩き出した。
(どこの国の人かは知らないけど、人の良さそうな貴族だったな)
そんな事を考えたが、すぐに、すっかり忘れてしまったのだった。
「何で来たの」
数日後、薬草を摘んで家へ戻ったイミアは、長年の友人のように和やかにルイスと話をしているクライとロッドを見付けた。
「やあ」
爽やかな笑顔で挨拶して来るクライとロッドに、イミアは挨拶を返した。
「どうも、こんにちは。
何してるんですか?薬の買い付けですか?直接販売はしていないんですよ」
販売するには認可がいるのだが、インチキなものを販売しかねないとして販売の許可が下りないのだ。それが薬や野菜であろうとも、許可を出す係が、アレクサンダーに忖度をして、徹底的に許可を下ろさない。
辛うじて顔見知りの薬屋の従業員という形をとって、薬の卸をしている日々だ。
「お帰りなさい。こっちにいらっしゃい」
ライラはにこやかにお茶をもう1つ運んで来た。
「俺達はカレンドルからこちらに薬草について勉強しに来ているんだ。それで、せっかくだからとこちらに」
クライがにこにことしてそう言う。
イミアはかごを置いて、空いている所に座った。
「ランギルにしかない薬草もあるし、地域が変わって効能が変わる薬草もあるからね。薬草は不思議だよ」
ルイスがしみじみと言う。
「カレンドルは科学の発達した国じゃないの。いいなあ。カレンドルの本を読みたかったなあ。早く遠くまで人を運ぶ方法が見付かったかもしれないから」
イミアが残念そうに言うのに、クライが目を向ける。
「何でだ?」
「薬草では助からない患者が村で出たら、諦めるしかないでしょ。早く遠くへ運ぶ方法があれば、街の病院へ運び込む事ができるはずだから。
まあ、殿下にはその必要はない、それが運命だ、お前はバカかって言われたんだけどね」
「確かに、同じ症状でも場所によって助かる助からないはあるからな。馬車では揺れるし、近くにちょうどよく空いている馬車があるかどうかもわからん」
クライはそう言って何度も頷いた。
「それより、こちらはあのカミヨ家だったんですね」
ロッドに言われて、イミア達は苦笑した。
「はは。婚約破棄されて追い出されて神事も何もかも禁じられた、あのカミヨ家ですよ」
イミアが言い、ルイスとライラとイミアは力なく笑った。
クライとロッドは表情を真剣なものに改めた。
「しかし、カミヨ家は国の重要な神事も執り行って来たでしょう?国民の暮らしにも根付いているし」
ロッドが言うと、クライが淡々と言う。
「皇帝陛下が無事ならこうはならなかっただろうが、皇太子殿下が色に狂って独断で進めたんだろう」
「ミリスの聖女認定も怪しいものですし、そもそもエリノア教自体の教義が怪しすぎます」
「護符を買えば願いが叶う、免罪符を買えば全てが許される?それも、願いや罪の大きさでつぎ込む金額が変わって来るなんてねえ。この国、大丈夫かな」
クライとロッドの言葉に、イミアが続け、全員で嘆息した。
「まあ、何かありそうなら、移住を勧めるね。カレンドルをお勧めするけど?」
クライが言い、ルイスは悲し気に笑った。
「まあ、その時は移住も考えないとね。カミヨ家はランギルの守りを請け負って来たけど、いらないって言われたんだしね」
家の役目を否定されるのは、何よりも、神に対して申し訳なかった。
だが、クライと話すのは楽しく、今の暮らしも悪くないと思えてしまった。
「その薬は、売り物ではないのか」
子供を抱き上げた方が訊く。
「そうですけど、緊急事態でしたから。
そちらこそ、服に落ちにくそうな血のシミが付きましたよ」
イミアが言うと、青年は笑った。
「ああ。服くらい、どうという事も無い」
青年は本当にどうでも良さそうに高そうな服をちらりと見下ろして言った。
「それより、この国がエリノア教を国教に定めたというのは本当なのか」
「ランギルの方じゃないんですね。
そうですよ。春にエリノア教会からミリス様が聖女に認定されて、皇太子殿下と婚約されると共にそうなりましたね」
青年達は皮肉気な笑みを浮かべた。
「エリノア教か。護符と言い免罪符と言い、商売上手ではあるらしいな」
それにイミアはしみじみと頷いた。
(うちにその10分の1でも商売の才能があれば……)
そこで、薬を卸しに行く最中だった事を思い出した。
「じゃあ、これで」
「ああ。
あ、私はクライ。こっちは従兄のロッドだ」
「私はイミア」
それでイミアは、薬屋へと歩き出した。
(どこの国の人かは知らないけど、人の良さそうな貴族だったな)
そんな事を考えたが、すぐに、すっかり忘れてしまったのだった。
「何で来たの」
数日後、薬草を摘んで家へ戻ったイミアは、長年の友人のように和やかにルイスと話をしているクライとロッドを見付けた。
「やあ」
爽やかな笑顔で挨拶して来るクライとロッドに、イミアは挨拶を返した。
「どうも、こんにちは。
何してるんですか?薬の買い付けですか?直接販売はしていないんですよ」
販売するには認可がいるのだが、インチキなものを販売しかねないとして販売の許可が下りないのだ。それが薬や野菜であろうとも、許可を出す係が、アレクサンダーに忖度をして、徹底的に許可を下ろさない。
辛うじて顔見知りの薬屋の従業員という形をとって、薬の卸をしている日々だ。
「お帰りなさい。こっちにいらっしゃい」
ライラはにこやかにお茶をもう1つ運んで来た。
「俺達はカレンドルからこちらに薬草について勉強しに来ているんだ。それで、せっかくだからとこちらに」
クライがにこにことしてそう言う。
イミアはかごを置いて、空いている所に座った。
「ランギルにしかない薬草もあるし、地域が変わって効能が変わる薬草もあるからね。薬草は不思議だよ」
ルイスがしみじみと言う。
「カレンドルは科学の発達した国じゃないの。いいなあ。カレンドルの本を読みたかったなあ。早く遠くまで人を運ぶ方法が見付かったかもしれないから」
イミアが残念そうに言うのに、クライが目を向ける。
「何でだ?」
「薬草では助からない患者が村で出たら、諦めるしかないでしょ。早く遠くへ運ぶ方法があれば、街の病院へ運び込む事ができるはずだから。
まあ、殿下にはその必要はない、それが運命だ、お前はバカかって言われたんだけどね」
「確かに、同じ症状でも場所によって助かる助からないはあるからな。馬車では揺れるし、近くにちょうどよく空いている馬車があるかどうかもわからん」
クライはそう言って何度も頷いた。
「それより、こちらはあのカミヨ家だったんですね」
ロッドに言われて、イミア達は苦笑した。
「はは。婚約破棄されて追い出されて神事も何もかも禁じられた、あのカミヨ家ですよ」
イミアが言い、ルイスとライラとイミアは力なく笑った。
クライとロッドは表情を真剣なものに改めた。
「しかし、カミヨ家は国の重要な神事も執り行って来たでしょう?国民の暮らしにも根付いているし」
ロッドが言うと、クライが淡々と言う。
「皇帝陛下が無事ならこうはならなかっただろうが、皇太子殿下が色に狂って独断で進めたんだろう」
「ミリスの聖女認定も怪しいものですし、そもそもエリノア教自体の教義が怪しすぎます」
「護符を買えば願いが叶う、免罪符を買えば全てが許される?それも、願いや罪の大きさでつぎ込む金額が変わって来るなんてねえ。この国、大丈夫かな」
クライとロッドの言葉に、イミアが続け、全員で嘆息した。
「まあ、何かありそうなら、移住を勧めるね。カレンドルをお勧めするけど?」
クライが言い、ルイスは悲し気に笑った。
「まあ、その時は移住も考えないとね。カミヨ家はランギルの守りを請け負って来たけど、いらないって言われたんだしね」
家の役目を否定されるのは、何よりも、神に対して申し訳なかった。
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