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探偵の孤独(3)

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 私はその日園から帰ると、すぐに家を出た。
 近所の堤防を歩き、神社に行き、公園を回り、潰れた工場跡へ来た。
 みさきちゃんの良く行く遊び場、そこから家への途中。ここはその中のひとつに当たる。
「いたか」
 探し物である猫は、ここにいた。小さな猫で、カラスにつつかれでもしたのか、確かにケガをしていた。
 警戒するように、寝床代わりの空気の抜けたゴムボールの中で毛を逆立てるのに、私は持って来たおやつを差し出す。
「君もどうだい」
 今日のおやつは、お誂え向きにふかしたサツマイモだった。
 猫が食べていいものは、人間の食べていいものとは違っているし、子猫にはミルクというイメージと違い、子猫にミルクはよくない。
 加熱したサツマイモなら、食べてもいい。
 半分を差し出し、半分を毒が無いと示すように私がかじって見せる。
 猫は恐る恐る鼻先で突いてから、サツマイモにかじりつき、そして、勢いよく食べ始めた。
 そして食べ終えて満足し、警戒感も薄れたような所で、私は猫を抱き上げた。
「にゃん」
「しぃー。安心するんだ、子猫ちゃん。悪いようにはしない」
 私はそこを足早に離れた。

 翌日、登園した園児達は、新しい仲間に夢中だった。昨日の子猫だ。あれから私は猫を園に連れて行き、先生に涙を浮かべて言ったのだ。
「子猫がケガしてて。助けて、先生!こんなに小さな命なのに、かわいそうに」
 これで猫を捨てに行くなら、教育者としてどうかと思う。
 こうして子猫は、最低でもケガが治るまでは、園で保護してもらえることになった。
 猫を囲む人の輪から離れて開いた本の上に影が落ち、私は目をあげた。
「やあ。おはよう、優斗君、みさきちゃん」
 2人はもじもじとしたように、そして眩しそうな目を私に向けていた。
「流石は俊君だね」
「何の事かね」
「とぼけなくてもいいわよ。先生に聞いたから。
 ごめんなさい。いくらかわいそうでも、私のした事は間違っていたわ」
「もう気にするな。みさきちゃんの優しさが子猫を救ったのは事実だろう。
 ああ。でも、覚えておくといい。子猫にミルクはだめだ。食べさせはいけないものもある」
 私は開いていた本を閉じ、みさきちゃんに差し出した。
『ねこの飼い方』
 みさきちゃんが目を輝かせて本を開くのに背を向け、私は恐竜図鑑を取りに本棚へ向かった。
「俊君!」
 優斗の呼ぶ声に、振り返る。
「やっぱり僕に探偵は無理みたいだよ」
「そうかい。人には向き不向きというものがある。探偵なんてハードな生き方、勧めはしないさ」
 優斗はみさきちゃんのそばに行くと、仲良く肩を寄せて本を覗きだした。
 そう。探偵は孤独に耐えられないとやっていけないのさ。
 私はひとりそうごちて、恐竜図鑑を一人開いた。



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