市民課葬祭係

JUN

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連鎖(2)仕事熱心な部下

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 斎場から出た菊本は、また電話をかけた。
「俺だ。今内田の葬式は終わった。そっちはどうだ?」
 喋りながら、駅の方へ向かって歩き出す。
「ああ?事故だろ。何も問題はない。自殺なんてとんでもない、事故だ、いいな。
 全く。能無しが面倒ばっかり起こしやがって」
 舌打ちをした時、聞き覚えのある声を聞いたような気がして、菊本は振り返った。
「ヒッ!?」
 そこには、半透明に透けてはいるし、頭がひしゃげ、そこここから血が流れだしてはいるが、間違いなく今葬儀に出て来たばかりの部下の姿があった。
「な、何で、内田……お前、死んだんじゃ……」
 透けた内田は、ゆっくりと菊本の方へと足を勧めて来る。
 その度に、ぺたりというような音と、ぐしゃりというような音がする。
 助けを求めようと菊本は見回したが、通行人などのほかの誰にも、彼女の姿は見えていないようだと分かり、間違いなくそれが幽霊と呼ばれているものだと、ゾッとした。
「課長……仕上げなければいけない、書類が……」
 言いながら、恨みのこもったような瞬きもしない目でじっと菊本を見据えて近付いて来る。
「く、来るな、来ないでくれ!俺は悪くないだろ?割り振った仕事を、時間内に終わらせられないお前の責任だろ」
 震える声で言いながら、菊本はじりじりと下がって行く。
「課長……もうしわけ……ありませんでした……課長……」
「う、うわああ!!」
 手が届く寸前で、菊本は叫んで走り出した。
 その瞬間、急ブレーキの音がして、体が宙を舞うのを感じた。

「え。菊本ってこの人、昨日葬儀に来た上司の人ですよね」
 病院から運ばれて来た棺の中を見て、穂高は目を丸くした。
「もしかしたら、呪いかもよ」
 大場が言い出し、穂高は震えた。
「な、何ですか、もう」
「聞いたのよお。内田さんとこの菊本さんが勤めていた会社、大きいけど、かなり仕事は大変だったみたいよ。いわゆるブラックってやつ」
「ブラックですか」
「そう!残業、早出、休日出勤は当たり前。だから彼女もね、仕事でフラフラして落ちちゃったのかもね。
 突然死とかも多いらしいわよ。過労死ってやつじゃないの。
 と、ネットに載ってた」
 川口はしれっと、
「この職場は急な出勤もあるけど、時間外勤務はちゃんと付けられてよかったわ。
 でも、早出、残業は困りますから」
と倉持に念を押す。
「さあさあ、仕事にかかるぞ」
 向里がそう言い、それで仕事にかかった。
 だが、その菊本の葬儀で、向里は見た。
 参列している部長を菊本が恨めし気に眺め、その菊本を内田が恨めし気に眺めている所を。
「まだ続いたりしてな」
 向里が思わずボソリと言うと、反対を向いていた穂高は、
「もう、やめてくださいよお」
とどこか怯えた声を上げ、向里は肩を竦めた。







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