14 / 34
長屋の医者(6)誤食
しおりを挟む
垣ノ上と文太は、ねこまんまで源斎の死因を話していた。織本や富田などの常連客も聞いている。
「ありゃあ、間違ってスズランを食っちまったらしいな。ギョウジャニンニクとよく似てるそうだ。ぬか床の中に根が漬けてあったし、流しに茎と葉が残ってた」
それに、富田が訊く。
「ギョウジャニンニクは、精がつくあれですよね。スズランは、あの綺麗なかわいい花でしょう?」
「ああ。かわいいが、猛毒らしいぜ。でも、とにかく似ているらしい。
それと、他にも毒のあるものが見つかってな。反対に、雑草としか言えないものまで」
「雑草?」
八雲が首を傾けて見せる。
「ああ。どうもあいつは、適当にそういうものを薬と称して売ってたらしい。この間死んだ安兵衛のところにあった薬にも、どうやら毒のある植物が混ざっていたらしい」
それに、全員がざわめく。
「インチキだったってわけですかい、旦那」
「酷えな」
「留吉はどうなったんだ?あいつに高い薬を進められて、娘のハナちゃんが、14だってのに岡場所へ行く決意をしたとか聞いたぜ」
常連客が騒ぎ出すのに、文太が言う。
「ハナはでえじょうぶだ。留吉は別の医者に診てもらって、空気の綺麗なところで養生すれば治るって言われたらしい」
それで口々に、良かった良かったと安堵した。
そして、各々帰って行った。
織本は帰りがけに、
「お主ら……いや、いい」
と言って、帰って行った。
「何だろう?まあいいか」
八雲は見送って、誰もいなくなった店内のテーブルを拭き始める。
「昼はこれでおしまいだ」
疾風は暖簾をしまった。
それで、狭霧が口火を切った。
「危険かも知れないよ」
2人は、キョトンとした。
「何が?」
「あれを採りに行った時、気付かれなかったけど、見たんだ。久磨川衆の、兄ちゃんの1つ上のやつ。凪だった」
2人は瞬時に、緊張した。
「ここがバレたのかしら?」
「たまたまかも知れないけど……わからないな」
「行商人の格好をしてたよ。あれは、つなぎを付けに来たのかな。それとも、探しに来たのかな」
かつては織田信長にも使えた集団だったが、数も減り、今の主は小藩だ。里と江戸藩邸を定期的に行ったり来たりして命令を受けたり報告をしたりしているのだ。
しかし3人が里を抜けた時は、主は播磨の近くだったので、連絡はもっぱら藩の方と取っていた。
「情報が入って来ないからな。
気を付けていよう。万が一の時は、やるか、場所を変えるか」
疾風が言って、八雲と狭霧は頷いた。
久磨川の里では、首領が報告を聞いていた。
「そうか。
で、八雲達の方はどうだ」
「遺体は見つかっていませんし、足取りもつかめていません」
「病で体を弱らせていた狭霧を連れているんだ。そうそう早く移動はできない筈だぞ」
「はあ。遺体が海に流れてしまった場合は見付からないので、もしかすると」
首領は考え込んだ。
息子は、八雲を逃がした事で、イライラとしている。
「行先は長崎で間違いはないだろうからな。
長崎行きの船はどうだ」
「それらしい人物は」
息子は、ガンと膝を叩いた。
「もう着いたんじゃねえか?狭霧を殺させないためにあいつらはここを抜けやがったんだ。何としても長崎に行くはずだ。長崎に人を送ろうぜ、親父」
それでも首領は考えていたが、やがて、はっと目を見開いた。
「まさか、それは嘘だった?」
「はあ?熱も下がらなかったし、食べ物も受け付けなかったし、ふらふらしてやがった。おばばも、まさか仮病だったら気付くはずだし」
「いや、わざと病になって、それを自分でコントロールしていたとしたら?」
「そんな事、できるわけが……」
しかし、見習いの教師役だった男が重々しく口を開く。
「狭霧は薬草の知識にも秀でていました」
シンとした空気が流れた。
「では、どこへ向かう?」
答えたのは、教師役の男だった。
「反対側。東」
「江戸、か?」
「舐めた真似をしやがって」
首領の息子が、いきり立った。
「ありゃあ、間違ってスズランを食っちまったらしいな。ギョウジャニンニクとよく似てるそうだ。ぬか床の中に根が漬けてあったし、流しに茎と葉が残ってた」
それに、富田が訊く。
「ギョウジャニンニクは、精がつくあれですよね。スズランは、あの綺麗なかわいい花でしょう?」
「ああ。かわいいが、猛毒らしいぜ。でも、とにかく似ているらしい。
それと、他にも毒のあるものが見つかってな。反対に、雑草としか言えないものまで」
「雑草?」
八雲が首を傾けて見せる。
「ああ。どうもあいつは、適当にそういうものを薬と称して売ってたらしい。この間死んだ安兵衛のところにあった薬にも、どうやら毒のある植物が混ざっていたらしい」
それに、全員がざわめく。
「インチキだったってわけですかい、旦那」
「酷えな」
「留吉はどうなったんだ?あいつに高い薬を進められて、娘のハナちゃんが、14だってのに岡場所へ行く決意をしたとか聞いたぜ」
常連客が騒ぎ出すのに、文太が言う。
「ハナはでえじょうぶだ。留吉は別の医者に診てもらって、空気の綺麗なところで養生すれば治るって言われたらしい」
それで口々に、良かった良かったと安堵した。
そして、各々帰って行った。
織本は帰りがけに、
「お主ら……いや、いい」
と言って、帰って行った。
「何だろう?まあいいか」
八雲は見送って、誰もいなくなった店内のテーブルを拭き始める。
「昼はこれでおしまいだ」
疾風は暖簾をしまった。
それで、狭霧が口火を切った。
「危険かも知れないよ」
2人は、キョトンとした。
「何が?」
「あれを採りに行った時、気付かれなかったけど、見たんだ。久磨川衆の、兄ちゃんの1つ上のやつ。凪だった」
2人は瞬時に、緊張した。
「ここがバレたのかしら?」
「たまたまかも知れないけど……わからないな」
「行商人の格好をしてたよ。あれは、つなぎを付けに来たのかな。それとも、探しに来たのかな」
かつては織田信長にも使えた集団だったが、数も減り、今の主は小藩だ。里と江戸藩邸を定期的に行ったり来たりして命令を受けたり報告をしたりしているのだ。
しかし3人が里を抜けた時は、主は播磨の近くだったので、連絡はもっぱら藩の方と取っていた。
「情報が入って来ないからな。
気を付けていよう。万が一の時は、やるか、場所を変えるか」
疾風が言って、八雲と狭霧は頷いた。
久磨川の里では、首領が報告を聞いていた。
「そうか。
で、八雲達の方はどうだ」
「遺体は見つかっていませんし、足取りもつかめていません」
「病で体を弱らせていた狭霧を連れているんだ。そうそう早く移動はできない筈だぞ」
「はあ。遺体が海に流れてしまった場合は見付からないので、もしかすると」
首領は考え込んだ。
息子は、八雲を逃がした事で、イライラとしている。
「行先は長崎で間違いはないだろうからな。
長崎行きの船はどうだ」
「それらしい人物は」
息子は、ガンと膝を叩いた。
「もう着いたんじゃねえか?狭霧を殺させないためにあいつらはここを抜けやがったんだ。何としても長崎に行くはずだ。長崎に人を送ろうぜ、親父」
それでも首領は考えていたが、やがて、はっと目を見開いた。
「まさか、それは嘘だった?」
「はあ?熱も下がらなかったし、食べ物も受け付けなかったし、ふらふらしてやがった。おばばも、まさか仮病だったら気付くはずだし」
「いや、わざと病になって、それを自分でコントロールしていたとしたら?」
「そんな事、できるわけが……」
しかし、見習いの教師役だった男が重々しく口を開く。
「狭霧は薬草の知識にも秀でていました」
シンとした空気が流れた。
「では、どこへ向かう?」
答えたのは、教師役の男だった。
「反対側。東」
「江戸、か?」
「舐めた真似をしやがって」
首領の息子が、いきり立った。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
王太子妃候補、のち……
ざっく
恋愛
王太子妃候補として三年間学んできたが、決定されるその日に、王太子本人からそのつもりはないと拒否されてしまう。王太子妃になれなければ、嫁き遅れとなってしまうシーラは言ったーーー。
噂好きのローレッタ
水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。
ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。
※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです)
※小説家になろうにも掲載しています
◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました
(旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)
剣の世界に憧れて上京した村人だけど兵士にも冒険者にもなれませんでした。
もる
ファンタジー
ファンカプ用の新作です。書籍化される程長く書けるか分かりませんが、6万文字を超える程度には書きたいと思います。
いいねとエールと投票をお願いします。
※無事6万文字超えました。
剣を扱う職に就こうと田舎から出て来た14歳の少年ユカタは兵役に志願するも断られ、冒険者になろうとするも、15歳の成人になるまでとお預けを食らってしまう。路頭に迷うユカタは生きる為に知恵を絞る。
転移したらダンジョンの下層だった
Gai
ファンタジー
交通事故で死んでしまった坂崎総助は本来なら自分が生きていた世界とは別世界の一般家庭に転生できるはずだったが神側の都合により異世界にあるダンジョンの下層に飛ばされることになった。
もちろん総助を転生させる転生神は出来る限りの援助をした。
そして総助は援助を受け取るとダンジョンの下層に転移してそこからとりあえずダンジョンを冒険して地上を目指すといった物語です。
聖剣変化のチートスキル ~触れるもの全て聖剣に変える僕の勇者ライフ~
maisonEX
ファンタジー
『聖剣変化(セイクリッド・トランスフォーム)』
平凡な高校生活を送っていた神城透の日常が、一瞬にして崩壊した。
ある日突然、得体の知れない怪物たちが街に出現。パニックに陥る街の中で、透は自分の中に眠る途方もない力に気づく。人並み外れた怪力と、左手に浮かび上がる不思議な文様。理解できない自分の変化に戸惑いながらも、透は仲間たちを守るため、怪物たちと戦うことを決意する。
しかし、事態は透の想像をはるかに超えていた。
学校中を探索する中で、透は無残な姿で倒れる仲間たちの姿を目にする。そして、一際強大な怪物との戦いで、自らの非力さを痛感する透。絶望の淵に立たされたその時、銀髪の美少女・ハルネが現れる。
彼女の口から語られる衝撃の真実。
透は異世界の神によって選ばれし「勇者」だという。そして、透に与えられた力の正体が明かされる。それは「聖剣変化(セイクリッド・トランスフォーム)」。触れたものを聖剣に変える、途方もない能力だった。
混乱する透に、容赦なく襲い来る怪物。新たに覚醒した力を駆使し、透は必死に戦いに挑む。
なぜ自分が選ばれたのか。
この力の真の意味とは。
そして、突如として現れた怪物たちの正体は――。
謎が謎を呼ぶ中、透の戦いは始まったばかり。彼を中心に巻き起こる、現代日本を舞台にしたファンタジー活劇。平凡な日常と、理不尽な異世界の狭間で、少年は何を選択するのか。
己の運命に抗いながらも、仲間たちを、そしてこの世界を守るため、透は剣を手に取る。
「聖剣変化(セイクリッド・トランスフォーム)!」
その掛け声と共に、世界は大きく動き出す。
現代日本×異世界ファンタジー。
平凡な高校生が「勇者」として覚醒する、
新時代のポストアポカリプス小説、開幕!
前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています
矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜
――『偽聖女を処刑しろっ!』
民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。
何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。
人々の歓声に包まれながら私は処刑された。
そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。
――持たなければ、失うこともない。
だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。
『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』
基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。
※この作品の設定は架空のものです。
※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。
※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)
結婚式の日に婚約者を勇者に奪われた間抜けな王太子です。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月10日「カクヨム」日間異世界ファンタジーランキング2位
2020年11月13日「カクヨム」週間異世界ファンタジーランキング3位
2020年11月20日「カクヨム」月間異世界ファンタジーランキング5位
2021年1月6日「カクヨム」年間異世界ファンタジーランキング87位
【完結】婚約破棄をされるので、幼馴染みからの告白で上書きしたいと思います!
櫻野くるみ
恋愛
「大丈夫だよ。今週末の夜会でシンシアには婚約破棄を突きつけるつもりだ。大勢の前で宣言してやる。俺が愛しているのはルイーザだけだって……」
何ですって!?
夜会で婚約破棄されるなんて、私のプライドが許さないわ!
深窓の令嬢だと思われている伯爵令嬢のシンシアは、偶然婚約者が婚約破棄を計画していることを知ってしまう。
猫をかぶっているだけで、実は見栄っ張りなシンシアには、人前でみっともなくフラれるなんて許せなかった。
そこで、幼馴染みのレナードに婚約破棄を宣言されたタイミングで告白して欲しいと頼み込む。
「幼馴染みとの真実の愛」だとアピールし、印象を上書きさせようという計画だった。
すぐに破局したことにすればいいと考えていたシンシアだったが、年下で弟のように思っていたレナードは、シンシアより上手で?
その場しのぎの告白のはずが、いつの間にか腹黒の幼馴染みに囲い込まれて逃げられなくなっていたお話。
短編です。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる