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来客
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うろを見に行って、墓に水を供え、業務日誌に「異常無し」と書き込む。それで本日の業務が終了した。
暇つぶしと節約のために庭に野菜を植えてみたので、水をやったり雑草を取ったりし、傷んで来た支社の方々を修理する。
押し入れの穴に驚いて、支社中を点検してみると、古いだけあって、修理しなければまずい箇所がたくさん見つかったのだ。
最初は村の皆が代わる代わる心配そうに様子を見に来てくれたが、私ができそうだとわかると、いつでも手伝うから、と言って帰って行った。
なので、1人でしている。
釘だって打てるし、板だって切れるし、脚立に乗れば高い所にだって届く。自分でできる。
玄関の扉を外して下のコマを換えようとしていると、背後から声がかかった。
「璃々」
振り返らなくても誰かわかったが、振り返った。
思った通り元夫だった。が、女も並んでいた。
ふんわりとしたスカートに華奢なサンダル。優しい雰囲気のヘアメイク。儚げな美人だ。
「久しぶり」
元夫はそう言い、女はそんな元夫の斜め後ろに隠れるように下がった。
でも、ノーメイクで、オシャレとは無縁のジーンズとシャツとスリッパの私に、クスリと口許で笑った気がした。被害妄想だろうか。
「そうね。
何かしら。貯金の半分は私の物よね。返しに来たの?それともリフォーム代の3000万円の事?」
言うと、元夫は眉をひそめた。
「それは、悪いと思ってるけど、そんな言い方しなくても……」
女は元夫の斜め後ろから、
「恨んでいるのはわかります。ごめんなさい。でも、こうした方がお互いに良かったと思うの」
としゃあしゃあと言う。
私は溜め息をついた。
「でも、共同名義の貯金を全部持って行かれて困ったのも、リフォーム代金を私に払えと言って来られて払うしか無かったのも事実よ。どちらも裁判で争った方がいいかしら」
「璃々は昔から、可愛げが無いと言うか、クールだよね。ボクだって事情があったんだよ。どうしてか普通は訊かないかな」
元夫――いや、この言い方はよそう。松園だ。
松園は不満げに言って、嘆息した。
「事情ね。いきなり別れてくれと言って離婚届を出されて、翌日には貯金が引き出されていて、リフォーム代金の3000万円を払わずに姿を消された私の方が大変だったとは思わないのね」
それに女が、泣きそうな顔で松園の腕にすがりながら言う。
「酷いわ。元は夫婦なのにそんな血も涙もない言い方」
酷いのはどっちだ。
「で、何の用かしら」
「うん。持ち出せなかった荷物のうち、持って行きたいものだけ持って行こうと思って」
「……」
「遥香と喫茶店をしようと思って、3000万円はちょっと借りたよ。その、会社を辞めた所だったから、銀行から借りられなかったんだ。貯金も、いずれは返すつもりだよ」
「待って。それが理由で、私に黙って勝手にお金を?あなた達の生活の為に?」
「そんな言い方酷いわ!璃々さん、私が難いのはわかるけど、仮にも健一さんは元夫なのに!」
泣き出す女を、松園が慌てて慰め、私に困った人間を見るような目を向けて来た。
「遥香。ありがとう」
言いたい事は山ほどあったが、取り敢えず視界の端に原山先生と永世君とキヌさんとアサさんが、おにぎりとお茶とお菓子を持って困ったような顔で立っていたのが見えたので、松園達を中に促した。
「取り敢えず入って。社宅から出なきゃいけなかったから、一応荷物は全部運んで来たから」
そう。松園のものなんて全部捨ててやろうかと思ったのだが、何か言われそうな気がしたというか、何となくというか、荷づくりしてしまったのだ。
「じゃ」
松園と女は、あっさりと支社の中に入った。
暇つぶしと節約のために庭に野菜を植えてみたので、水をやったり雑草を取ったりし、傷んで来た支社の方々を修理する。
押し入れの穴に驚いて、支社中を点検してみると、古いだけあって、修理しなければまずい箇所がたくさん見つかったのだ。
最初は村の皆が代わる代わる心配そうに様子を見に来てくれたが、私ができそうだとわかると、いつでも手伝うから、と言って帰って行った。
なので、1人でしている。
釘だって打てるし、板だって切れるし、脚立に乗れば高い所にだって届く。自分でできる。
玄関の扉を外して下のコマを換えようとしていると、背後から声がかかった。
「璃々」
振り返らなくても誰かわかったが、振り返った。
思った通り元夫だった。が、女も並んでいた。
ふんわりとしたスカートに華奢なサンダル。優しい雰囲気のヘアメイク。儚げな美人だ。
「久しぶり」
元夫はそう言い、女はそんな元夫の斜め後ろに隠れるように下がった。
でも、ノーメイクで、オシャレとは無縁のジーンズとシャツとスリッパの私に、クスリと口許で笑った気がした。被害妄想だろうか。
「そうね。
何かしら。貯金の半分は私の物よね。返しに来たの?それともリフォーム代の3000万円の事?」
言うと、元夫は眉をひそめた。
「それは、悪いと思ってるけど、そんな言い方しなくても……」
女は元夫の斜め後ろから、
「恨んでいるのはわかります。ごめんなさい。でも、こうした方がお互いに良かったと思うの」
としゃあしゃあと言う。
私は溜め息をついた。
「でも、共同名義の貯金を全部持って行かれて困ったのも、リフォーム代金を私に払えと言って来られて払うしか無かったのも事実よ。どちらも裁判で争った方がいいかしら」
「璃々は昔から、可愛げが無いと言うか、クールだよね。ボクだって事情があったんだよ。どうしてか普通は訊かないかな」
元夫――いや、この言い方はよそう。松園だ。
松園は不満げに言って、嘆息した。
「事情ね。いきなり別れてくれと言って離婚届を出されて、翌日には貯金が引き出されていて、リフォーム代金の3000万円を払わずに姿を消された私の方が大変だったとは思わないのね」
それに女が、泣きそうな顔で松園の腕にすがりながら言う。
「酷いわ。元は夫婦なのにそんな血も涙もない言い方」
酷いのはどっちだ。
「で、何の用かしら」
「うん。持ち出せなかった荷物のうち、持って行きたいものだけ持って行こうと思って」
「……」
「遥香と喫茶店をしようと思って、3000万円はちょっと借りたよ。その、会社を辞めた所だったから、銀行から借りられなかったんだ。貯金も、いずれは返すつもりだよ」
「待って。それが理由で、私に黙って勝手にお金を?あなた達の生活の為に?」
「そんな言い方酷いわ!璃々さん、私が難いのはわかるけど、仮にも健一さんは元夫なのに!」
泣き出す女を、松園が慌てて慰め、私に困った人間を見るような目を向けて来た。
「遥香。ありがとう」
言いたい事は山ほどあったが、取り敢えず視界の端に原山先生と永世君とキヌさんとアサさんが、おにぎりとお茶とお菓子を持って困ったような顔で立っていたのが見えたので、松園達を中に促した。
「取り敢えず入って。社宅から出なきゃいけなかったから、一応荷物は全部運んで来たから」
そう。松園のものなんて全部捨ててやろうかと思ったのだが、何か言われそうな気がしたというか、何となくというか、荷づくりしてしまったのだ。
「じゃ」
松園と女は、あっさりと支社の中に入った。
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