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ヒロムの休日
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合コン。一応公務員であり、明るく、ルックスも悪くないヒロムは、人気ではある。
年収が多くとも気苦労も多いのはパスとばかりに、親方日の丸の公務員がモテる傾向にあるのは、20世紀の終わりごろからの傾向だろうか。
楽しく騒いで、女の子達のアドレスをゲットしたヒロムだが、適当な時間になると、「お持ち帰り」して欲しそうな目に気付かないように、手を振って別れた。
「何で?いつも思うけど、勿体ないなあ」
一緒に合コンに出ていた同期がヒロムに不思議そうな目を向ける。
「んん。まあ、いいじゃねえか。飲み直そうぜ!男同士の友情を温めよう!」
ヒロムはそう言いながら、彼をカウンターに誘って並んで座った。
「最近どう?」
「俺は経理だからさ。月末とか年度末が忙しいのはいつも同じ。
あ。締め切り間際に領収書の束を持ち込むのやめろよな。大変なんだぞ」
「すまん、すまん。まあまあまあまあ。カンパーイ」
ちょうどオーダーした飲み物が来たので、乾杯をしてごまかした。
「で、そっちはどうなんだよ。グラビアアイドルみたいなお姉さんもいただろ。いいなあ」
2人でマチを思い浮かべ、鼻の下を伸ばす。
「あの胸は芸術品だぜ。絶対に守るべきだ」
「ああ。頼むぞ」
2人で力強く頷き合う。
「ブチさんはベテランだけあって、頼りになるしな。兄貴というか、親父というか。
マチは、年上なんだけど、なんて言うか、年上感が微塵もねえな。でも、ピリピリしてる被害者や被疑者のケアなんかは流石だよ。
相棒のあまねは、何でもこなすくせに、自己評価がやたらと低くてな。鋭いんだか鈍いんだかわからねえ。変な奴。
でも、助けられてるし、居心地がいい」
「そうか」
どこかしんみりと、穏やかな笑みを浮かべて、ヒロムはそう言った。
そして、
(ああ。居場所ができたって、こういう事か)
と思った。
その夜、ヒロムは久しぶりに家族の夢を見た。優しかった時の父、悪鬼のような形相も諦めたような顔もしていない母、怯えても怒りもしていない姉。
父がリストラされるまでは、こうだったのだ。リストラされ、思うような仕事が見つからず、祖父母の介護がのしかかり、疲弊していった家族。
ヒロム1人を置いて、死んでしまった。
事件の後は、喋らない、目を合わさない、人と一緒にいるのを嫌がる、夜になると毎晩のようにうなされ、泣き叫び、暴れる。手を焼かせる子供だった。
今では克服して、普通にやれていると思っているのに、DVや心中の事件にあたると、どうしていいかわからなくなるし、悪夢にうなされる子供に戻る。
それに、手を差し伸べてくれたのが相棒だった。
カウンセラーのように何か言うでもない。大丈夫だと、女のように抱きしめるわけでもない。ただそこにいて、オレがそこにいてもいいと示すだけだ。それが誰のカウンセリングよりも安心し、どの女よりも暖かかった。
家族達にそう言うと、笑って頷き、手を振ると、向こうへと向いて歩いて行った。
ぼうっと机で頬杖を付いていると、隣の席からあまねがマドレーヌを寄こして来た。
ヒロムの好きなやつだが、高いから自分では買わない。以前貰って食べて、感激したやつだ。
あまねの家族は、あまねが大人しいのを子供の頃から心配していたらしい。それに、あまねは何をやらせてもそつなくこなすくせに、器用貧乏なだけだと自分を過小評価するのだが、各々が各界でトップな自分達のせいではないかと思い悩み、今もあまねに過保護に接したがる。それをあまねは嫌がっているのだが、はねつけきれない。
このマドレーヌも、間違いなく家族の誰かから持たされたものだろう。
「サンキュ」
ヒロムはありがたくいただく事にした。
「うんまい。バターの風味が物凄くリッチだぜ」
「そうか、そりゃあ良かった。
ええっと、ヒロム。春菜ちゃんは16歳だし、年の差が悪いとは言わないけど、ヒロムにはもっと合う相手がいると思うんだよ」
ヒロムはモグモグとしながら、怪訝な顔付きであまねを見た。
「ん?ああ。まあ。どっちかっていうと、オレは包容力のある、おっぱいの大きい女が好みだしな」
「そうか」
目に見えてあまねはほっとしたような顔をした。
「え。何。オレが失恋して落ち込んでると思って心配してたのか?」
ヒロムは笑いそうになった。
「いや、だって、元気がないし」
「プッ。いやあ、ありがとうな!
でもさあ、もしオレと春菜ちゃんが付き合ったとしたら、10歳違いだよな」
「うん」
「お前よりいいんじゃないか?なんせ、26と8だもんな。犯罪じゃねえか」
言うと、あまねは眉を寄せた。
「違うって!希は懐いてるだけ!」
「いいのかあ?拗ねるぞ、希がぁ。拗ねたらフォローが大変だったよなあ、この前。
あ、希!」
「え!?」
慌ててあまねが振り返るが、もちろんいない。ヒロムがからかっただけだ。
「やあい、ひっかかった!」
「ヒーロームー」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ2人を、ブチさんとマチが眺めていた。
「仲がいいな」
「そうですね。仲良く今日が締め切りって忘れてるんじゃないでしょうか」
それにヒロムとあまねははっとし、バタバタと机に向かった。
「ホント、仲良くさっさと書類をあげてちょうだいね」
笙野が笑いながら背後を通って行った。
年収が多くとも気苦労も多いのはパスとばかりに、親方日の丸の公務員がモテる傾向にあるのは、20世紀の終わりごろからの傾向だろうか。
楽しく騒いで、女の子達のアドレスをゲットしたヒロムだが、適当な時間になると、「お持ち帰り」して欲しそうな目に気付かないように、手を振って別れた。
「何で?いつも思うけど、勿体ないなあ」
一緒に合コンに出ていた同期がヒロムに不思議そうな目を向ける。
「んん。まあ、いいじゃねえか。飲み直そうぜ!男同士の友情を温めよう!」
ヒロムはそう言いながら、彼をカウンターに誘って並んで座った。
「最近どう?」
「俺は経理だからさ。月末とか年度末が忙しいのはいつも同じ。
あ。締め切り間際に領収書の束を持ち込むのやめろよな。大変なんだぞ」
「すまん、すまん。まあまあまあまあ。カンパーイ」
ちょうどオーダーした飲み物が来たので、乾杯をしてごまかした。
「で、そっちはどうなんだよ。グラビアアイドルみたいなお姉さんもいただろ。いいなあ」
2人でマチを思い浮かべ、鼻の下を伸ばす。
「あの胸は芸術品だぜ。絶対に守るべきだ」
「ああ。頼むぞ」
2人で力強く頷き合う。
「ブチさんはベテランだけあって、頼りになるしな。兄貴というか、親父というか。
マチは、年上なんだけど、なんて言うか、年上感が微塵もねえな。でも、ピリピリしてる被害者や被疑者のケアなんかは流石だよ。
相棒のあまねは、何でもこなすくせに、自己評価がやたらと低くてな。鋭いんだか鈍いんだかわからねえ。変な奴。
でも、助けられてるし、居心地がいい」
「そうか」
どこかしんみりと、穏やかな笑みを浮かべて、ヒロムはそう言った。
そして、
(ああ。居場所ができたって、こういう事か)
と思った。
その夜、ヒロムは久しぶりに家族の夢を見た。優しかった時の父、悪鬼のような形相も諦めたような顔もしていない母、怯えても怒りもしていない姉。
父がリストラされるまでは、こうだったのだ。リストラされ、思うような仕事が見つからず、祖父母の介護がのしかかり、疲弊していった家族。
ヒロム1人を置いて、死んでしまった。
事件の後は、喋らない、目を合わさない、人と一緒にいるのを嫌がる、夜になると毎晩のようにうなされ、泣き叫び、暴れる。手を焼かせる子供だった。
今では克服して、普通にやれていると思っているのに、DVや心中の事件にあたると、どうしていいかわからなくなるし、悪夢にうなされる子供に戻る。
それに、手を差し伸べてくれたのが相棒だった。
カウンセラーのように何か言うでもない。大丈夫だと、女のように抱きしめるわけでもない。ただそこにいて、オレがそこにいてもいいと示すだけだ。それが誰のカウンセリングよりも安心し、どの女よりも暖かかった。
家族達にそう言うと、笑って頷き、手を振ると、向こうへと向いて歩いて行った。
ぼうっと机で頬杖を付いていると、隣の席からあまねがマドレーヌを寄こして来た。
ヒロムの好きなやつだが、高いから自分では買わない。以前貰って食べて、感激したやつだ。
あまねの家族は、あまねが大人しいのを子供の頃から心配していたらしい。それに、あまねは何をやらせてもそつなくこなすくせに、器用貧乏なだけだと自分を過小評価するのだが、各々が各界でトップな自分達のせいではないかと思い悩み、今もあまねに過保護に接したがる。それをあまねは嫌がっているのだが、はねつけきれない。
このマドレーヌも、間違いなく家族の誰かから持たされたものだろう。
「サンキュ」
ヒロムはありがたくいただく事にした。
「うんまい。バターの風味が物凄くリッチだぜ」
「そうか、そりゃあ良かった。
ええっと、ヒロム。春菜ちゃんは16歳だし、年の差が悪いとは言わないけど、ヒロムにはもっと合う相手がいると思うんだよ」
ヒロムはモグモグとしながら、怪訝な顔付きであまねを見た。
「ん?ああ。まあ。どっちかっていうと、オレは包容力のある、おっぱいの大きい女が好みだしな」
「そうか」
目に見えてあまねはほっとしたような顔をした。
「え。何。オレが失恋して落ち込んでると思って心配してたのか?」
ヒロムは笑いそうになった。
「いや、だって、元気がないし」
「プッ。いやあ、ありがとうな!
でもさあ、もしオレと春菜ちゃんが付き合ったとしたら、10歳違いだよな」
「うん」
「お前よりいいんじゃないか?なんせ、26と8だもんな。犯罪じゃねえか」
言うと、あまねは眉を寄せた。
「違うって!希は懐いてるだけ!」
「いいのかあ?拗ねるぞ、希がぁ。拗ねたらフォローが大変だったよなあ、この前。
あ、希!」
「え!?」
慌ててあまねが振り返るが、もちろんいない。ヒロムがからかっただけだ。
「やあい、ひっかかった!」
「ヒーロームー」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ2人を、ブチさんとマチが眺めていた。
「仲がいいな」
「そうですね。仲良く今日が締め切りって忘れてるんじゃないでしょうか」
それにヒロムとあまねははっとし、バタバタと机に向かった。
「ホント、仲良くさっさと書類をあげてちょうだいね」
笙野が笑いながら背後を通って行った。
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