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連続放火事件(5)悩める王子
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穏やかに話しかけながらも、油断なく、あまねは魔銃杖を握り、ヒロムは身体強化をかけている。
その先で若宮は、迷うように視線を揺らし、何度も唇を舐めた。
「ゴミに火をつけたのは悪い。でも、人の住んでいる家に、殺人を目的として火をつけるのは、比べようもないほど重い、恐ろしい事だよ」
「殺人――!」
それを指摘されて自分でも怖くなったのか、若宮は見てわかるほどに震え出した。
「大丈夫。な?」
言いながらヒロムが近寄り、若宮から杖とガソリンを入れていたペットボトルを取り上げる。それで若宮は、声を上げて泣き出した。
取調室で、若宮はやや俯きながら能面のような顔で喋った。
「ぼくの家のすぐ前がゴミの集積場所なんですけど、ゴミ出しのルール、守ってますか」
唐突な質問に内心戸惑ったが、若宮は別に、答えを待とうとは思っていなかったようだ。
「多いんですよ、守らない人。生ごみは当日の朝に出してネットを被せる事になっているんですが、前の晩から出したり、ネットをちゃんとかけなかったり。それに、ゴミの日じゃない時に出したり、有料のゴミを出したり。
前の晩から出したりネットをちゃんと被せていなかったりしたら、ネコとかカラスとかが来て、荒らすんです。
そうしたら臭いが酷くて、窓も開けられないし、朝登校前から最悪の気分なんですよ。
冷蔵庫とかベッドとか本棚とかテレビとかを捨てるやつもいて、いつまでもいつまでも邪魔で。
そこに花火を投げつけて行くやつがいたりなんかして、最悪ですよ」
あまねとヒロムは、そっと顔を見合わせた。
「それが、放火の原因?」
若宮は顔を上げ、あまねを見据えて続けた。
「何度言ってもきかない。しまいにはうるさいとか細かいとか悪口ですよ。
おかしいでしょう?間違っているのは向こうなのに!
だから!ルールを守っていないゴミは嫌いなんだ!燃やしてやったんだ!」
「君の怒りはもっともだけど、燃やすのはよくなかったね」
「――!」
「自治会長なり市の担当者なりに言ってもらえばよかったんだ。
それに、自分でもよく無い事だとわかっていたから、新山さんの家に火をつけて、殺そうとしたんだろ?」
若宮は目を見開き、わなわなと震えると、頭を抱えて下を向いた。
「魔術士は、その魔術を使う時に、使用と結果に責任を負わなければならない。
君は、放火と放火殺人未遂という罪の他に、魔術の違法使用という罪も、負う事になる。わかるね」
若宮は声を上げて、泣き始めた。
机で差し入れのプリンを食べながら、若宮の事件について話していた。
「まだ高校生なのに、これからどうなるのかな」
スプーンを持つ手を止めてあまねが言うと、
「まあ、最後は殺人未遂までは問えないんじゃないかって事だけどな。それでも、充分に重い罪になるなあ」
と、スプーンを咥えたままヒロムが言う。
「まあ、春菜ちゃんを怖がらせた罰だ。フン」
「そう言えば、春菜ちゃん。ぶつかった時にそれが若宮だってわかってたんだよな。それでも、わからなかったと庇った」
ブチさんが言うと、マチがギクリとしたように固まった。
「その時に正直に言っててくれれば、余計な罪は犯させずに済んだのに」
あまねがそう言って嘆息すると、マチは目に見えて狼狽えた。
「あああの、その」
「デリカシーのない男はダメだって叱られたのになあ」
ヒロムが言うと、マチは勢いよく頭を下げた。
「すす済みませんでした!洞察力がありませんでしたぁ!」
「まあ、思い込みは禁物という事だ。覚えておけよ」
「はい!」
ブチさんが言うのにマチが返事をし、それでおしまいになる。
「ああ、美味かった!」
ヒロムは空になったプラスチックの容器とスプーンと入っていた薄い紙の箱とをまとめてゴミ箱に放り込んだ。
「あ。紙とプラスチックは別ですよう」
「面倒臭えな」
そう言って、ふと若宮の事を思い出した。
「うん。ルールは守らないとな!」
そして、ごそごそとプラスチックゴミをより分けたのだった。
その先で若宮は、迷うように視線を揺らし、何度も唇を舐めた。
「ゴミに火をつけたのは悪い。でも、人の住んでいる家に、殺人を目的として火をつけるのは、比べようもないほど重い、恐ろしい事だよ」
「殺人――!」
それを指摘されて自分でも怖くなったのか、若宮は見てわかるほどに震え出した。
「大丈夫。な?」
言いながらヒロムが近寄り、若宮から杖とガソリンを入れていたペットボトルを取り上げる。それで若宮は、声を上げて泣き出した。
取調室で、若宮はやや俯きながら能面のような顔で喋った。
「ぼくの家のすぐ前がゴミの集積場所なんですけど、ゴミ出しのルール、守ってますか」
唐突な質問に内心戸惑ったが、若宮は別に、答えを待とうとは思っていなかったようだ。
「多いんですよ、守らない人。生ごみは当日の朝に出してネットを被せる事になっているんですが、前の晩から出したり、ネットをちゃんとかけなかったり。それに、ゴミの日じゃない時に出したり、有料のゴミを出したり。
前の晩から出したりネットをちゃんと被せていなかったりしたら、ネコとかカラスとかが来て、荒らすんです。
そうしたら臭いが酷くて、窓も開けられないし、朝登校前から最悪の気分なんですよ。
冷蔵庫とかベッドとか本棚とかテレビとかを捨てるやつもいて、いつまでもいつまでも邪魔で。
そこに花火を投げつけて行くやつがいたりなんかして、最悪ですよ」
あまねとヒロムは、そっと顔を見合わせた。
「それが、放火の原因?」
若宮は顔を上げ、あまねを見据えて続けた。
「何度言ってもきかない。しまいにはうるさいとか細かいとか悪口ですよ。
おかしいでしょう?間違っているのは向こうなのに!
だから!ルールを守っていないゴミは嫌いなんだ!燃やしてやったんだ!」
「君の怒りはもっともだけど、燃やすのはよくなかったね」
「――!」
「自治会長なり市の担当者なりに言ってもらえばよかったんだ。
それに、自分でもよく無い事だとわかっていたから、新山さんの家に火をつけて、殺そうとしたんだろ?」
若宮は目を見開き、わなわなと震えると、頭を抱えて下を向いた。
「魔術士は、その魔術を使う時に、使用と結果に責任を負わなければならない。
君は、放火と放火殺人未遂という罪の他に、魔術の違法使用という罪も、負う事になる。わかるね」
若宮は声を上げて、泣き始めた。
机で差し入れのプリンを食べながら、若宮の事件について話していた。
「まだ高校生なのに、これからどうなるのかな」
スプーンを持つ手を止めてあまねが言うと、
「まあ、最後は殺人未遂までは問えないんじゃないかって事だけどな。それでも、充分に重い罪になるなあ」
と、スプーンを咥えたままヒロムが言う。
「まあ、春菜ちゃんを怖がらせた罰だ。フン」
「そう言えば、春菜ちゃん。ぶつかった時にそれが若宮だってわかってたんだよな。それでも、わからなかったと庇った」
ブチさんが言うと、マチがギクリとしたように固まった。
「その時に正直に言っててくれれば、余計な罪は犯させずに済んだのに」
あまねがそう言って嘆息すると、マチは目に見えて狼狽えた。
「あああの、その」
「デリカシーのない男はダメだって叱られたのになあ」
ヒロムが言うと、マチは勢いよく頭を下げた。
「すす済みませんでした!洞察力がありませんでしたぁ!」
「まあ、思い込みは禁物という事だ。覚えておけよ」
「はい!」
ブチさんが言うのにマチが返事をし、それでおしまいになる。
「ああ、美味かった!」
ヒロムは空になったプラスチックの容器とスプーンと入っていた薄い紙の箱とをまとめてゴミ箱に放り込んだ。
「あ。紙とプラスチックは別ですよう」
「面倒臭えな」
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「うん。ルールは守らないとな!」
そして、ごそごそとプラスチックゴミをより分けたのだった。
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