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交渉と策略
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両国の交渉担当の係員は、橋の上に簡易椅子を置いて交渉していた。
ロウガンの係官は、頭が痛かった。昔からロウガンの国民性は、力が全てというものだ。国内問題ならそれでもいい。だが、国際的にはそれは通用しない。
しかしそう言うと、「軟弱者」と笑われる。それに、王の方針に従わないと、粛清されるだけだ。
従うと、他国から笑われる。まあ、死ぬよりましだが。
今回は、どう考えてもロウガンの言い分はおかしい。それは王もわかっているらしい。そしてその上で彼に命令したのは、「交渉を決裂させて怒らせろ。そしてその後、武力を使わせろ」というものだ。
難しい。怒るより呆れるだろう。
しかし、やりとげなければならない。
彼は、ふう、と嘆息した。
ロスウェルの交渉係は、ロウガンの交渉係が半ば気の毒にさえ思った。どう考えても、ロウガンの意見に同意する国はないだろう。そしてそれを、他国と話をする仕事をする彼はわかっているはずで、それでも国の方針に沿った交渉をしなければならないのだ。
しかし、同情はするが、手を緩めるわけにはいかない。
彼はそっと溜め息を漏らした。
交渉は決裂した。
まあ、決裂しない方がおかしいと、誰もがそう思った。
「進捗状況は?」
コソッと、交渉係は警備隊長に訊いた。
「は、順調です」
「そうか。このまま上手く行く事を願おう」
交渉係は、暮れ始めた空を見上げた。
その頃俺達は、別の作戦を進めていた。大脱出だ。
頭上の床板をそっと持ち上げてみると、そこにいたのは、やはり劇団員達だった。
訊くと、兵が中に入って来るのは食事を差し入れる時だけらしい。そして、例え逃げ出しても、河は水流が急すぎて渡れず、橋を通るにも見張りがいると言ったそうだ。
そこで俺達は、彼らの脱出を開始させたのだった。
その頃、ここへ馬車が近付いていた。乗っているのは、イリシャとクラレスだ。
「楽しそうね」
クラレスが、機嫌のいいイリシャにしなだれかかりながら言った。
地方の山の上の教会へ送られたクラレスは、身に着ける物も食事も、何もかもが質素で、掃除や洗濯などという仕事をさせられる事にも、神に感謝の祈りを捧げる事にも、2日目にして、ほとほと嫌気がさしていた。
どうしてこの状況で感謝しろというのかと、憤慨していた。
なので、何とかなるだろうと、鉱山の気球を奪って逃げ出したのだ。
積まれていた宝石の原石に喜んだのもつかの間、気球は墜落したが、やはり強運の主。ロウガンの王イリシャと意気投合し、王妃となった。
ロスウェルの皇太子妃にはなれなかったが、こちらの方が、好き勝手できそうでいい。元から、家族達がどうなったのかにも興味はなかったので、万々歳だ。
イリシャは、戦いになりそうなこの状況に、ワクワクしていた。
クラレスが転がり込んで来た時、これでロスウェルとの戦争に使えるかも、と狂喜した。そして今、そういう状況になっている。
これが笑わずにいられようか。
「ああ、楽しいさ。戦争だ!」
「ふうん。まあ、あなたは強いから大丈夫でしょうけど、どうしてそんなに戦いが楽しいのかしら」
「生きている実感があるだろう?強者は弱者を踏みにじり、より高みに立つ。そこから見る景色は最高だろう。
第一、俺よりも上に誰かが立つのは面白くない」
それならクラレスもわかる。同感だ。
「確かにそうね」
2人はにっこりと笑い合った。
ロウガンの係官は、頭が痛かった。昔からロウガンの国民性は、力が全てというものだ。国内問題ならそれでもいい。だが、国際的にはそれは通用しない。
しかしそう言うと、「軟弱者」と笑われる。それに、王の方針に従わないと、粛清されるだけだ。
従うと、他国から笑われる。まあ、死ぬよりましだが。
今回は、どう考えてもロウガンの言い分はおかしい。それは王もわかっているらしい。そしてその上で彼に命令したのは、「交渉を決裂させて怒らせろ。そしてその後、武力を使わせろ」というものだ。
難しい。怒るより呆れるだろう。
しかし、やりとげなければならない。
彼は、ふう、と嘆息した。
ロスウェルの交渉係は、ロウガンの交渉係が半ば気の毒にさえ思った。どう考えても、ロウガンの意見に同意する国はないだろう。そしてそれを、他国と話をする仕事をする彼はわかっているはずで、それでも国の方針に沿った交渉をしなければならないのだ。
しかし、同情はするが、手を緩めるわけにはいかない。
彼はそっと溜め息を漏らした。
交渉は決裂した。
まあ、決裂しない方がおかしいと、誰もがそう思った。
「進捗状況は?」
コソッと、交渉係は警備隊長に訊いた。
「は、順調です」
「そうか。このまま上手く行く事を願おう」
交渉係は、暮れ始めた空を見上げた。
その頃俺達は、別の作戦を進めていた。大脱出だ。
頭上の床板をそっと持ち上げてみると、そこにいたのは、やはり劇団員達だった。
訊くと、兵が中に入って来るのは食事を差し入れる時だけらしい。そして、例え逃げ出しても、河は水流が急すぎて渡れず、橋を通るにも見張りがいると言ったそうだ。
そこで俺達は、彼らの脱出を開始させたのだった。
その頃、ここへ馬車が近付いていた。乗っているのは、イリシャとクラレスだ。
「楽しそうね」
クラレスが、機嫌のいいイリシャにしなだれかかりながら言った。
地方の山の上の教会へ送られたクラレスは、身に着ける物も食事も、何もかもが質素で、掃除や洗濯などという仕事をさせられる事にも、神に感謝の祈りを捧げる事にも、2日目にして、ほとほと嫌気がさしていた。
どうしてこの状況で感謝しろというのかと、憤慨していた。
なので、何とかなるだろうと、鉱山の気球を奪って逃げ出したのだ。
積まれていた宝石の原石に喜んだのもつかの間、気球は墜落したが、やはり強運の主。ロウガンの王イリシャと意気投合し、王妃となった。
ロスウェルの皇太子妃にはなれなかったが、こちらの方が、好き勝手できそうでいい。元から、家族達がどうなったのかにも興味はなかったので、万々歳だ。
イリシャは、戦いになりそうなこの状況に、ワクワクしていた。
クラレスが転がり込んで来た時、これでロスウェルとの戦争に使えるかも、と狂喜した。そして今、そういう状況になっている。
これが笑わずにいられようか。
「ああ、楽しいさ。戦争だ!」
「ふうん。まあ、あなたは強いから大丈夫でしょうけど、どうしてそんなに戦いが楽しいのかしら」
「生きている実感があるだろう?強者は弱者を踏みにじり、より高みに立つ。そこから見る景色は最高だろう。
第一、俺よりも上に誰かが立つのは面白くない」
それならクラレスもわかる。同感だ。
「確かにそうね」
2人はにっこりと笑い合った。
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マーテルリアのイラストを変更致しました。
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