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長所
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霙は空に相談してみた。
「お姉ちゃん。今からでも東大法学部に入る方法ってある?」
空はポカンとした顔を霙に向け、溜め息をついた。
「真秀君と同じところに通いたいってところね」
「な、んで、それを」
「それ以外に何があるって言うのよ」
即答され、霙は黙った。
「うちの経済力じゃ裏口入学も無理だし、国立大学じゃそもそも裏口が難しそうだしね。自力でどうこうって言ったって、現実的には無理と言ってもいいでしょ」
あっさりとしたものだ。
「一緒にいたいのはわかるけど、学校が別でもいいでしょ?」
霙はううむと唸る。
「まあね、それはそうなんだけど」
「あんたの長所を伸ばしなさいよ。夢とかないの?将来何になりたかったの」
そう言われて、霙は考えた。
小さい頃は、ケーキ屋さんだった。しかし、ケーキ屋さんになっても、毎日ケーキが食べ放題というわけではないと分かり、手先の器用な方でもないと自覚したため、熱はさめた。
次にいいなと思ったのはプロテニスプレイヤーだ。しかし、自分以上の人間がごろごろいるので、無理だと早々に諦めた。
中学に入って憧れたのは、教師だった。しかし、いじめや不登校、素行不良の生徒の指導で疲弊する教師を見て、自分には無理だと悟った。
そして高校ではサバイバルゲームを始め、熱中し、将来の希望とかは考えた事は無かった。どこか受かった会社でOLでもするんだろうな、と思って来た。
自分には何も無い事に、霙は愕然とした。
「好きなものは、サバゲー。でも、サバゲーで暮らせるとか、役に立つなんてないでしょ」
「そうねえ。警察の特殊部隊なら役に立つかも。あと、陸上自衛隊とか」
「女子はそういう部署に就けないんじゃなかったかな」
「じっくり考えてみるのもいいんじゃない?夏休みを超えたら流石にそんな事は言ってられないからね」
「うん」
霙は自室に入り、相談してみる事にした。
「霙の長所?
正義感が強い所とか、弱い者に優しい所。あとは、責任感が強いし、友達思いだ」
真秀は、突然霙が深刻そうな声音で電話をして来たのに驚きながらそう言った。
「何かあったのか?」
『うん?そうじゃないけど、進路でね、ちょっと迷ってて』
「ふうん。
興味のある事とかは?サバイバルゲームか。それ以外にあるか?」
『食べる事!体を動かすのも好きだし』
「調理、家政科、体育大学なんてのもあるんじゃないか。
得意教科と不得意強化は?」
『化学と物理と数学と英語は嫌いだわ。定期テストをどうにかやり過ごしてるだけね。好きな科目は、体育と現国と地理かな』
言い難そうに霙が言う。
『何となく、学校を出て、どこかの会社のOLやって、くらいにしか考えてなかったのよ。情けない』
「そうやって今真剣に考えてるじゃないか」
真秀は笑い、霙もほっとしたように笑った。
『ありがとう。もう少し考えてみる。
へへ。長所なんて思い当たらなかったから。ありがとう、真秀』
「いや。霙は、その、いいよ」
『ふふ。真秀は、かっこいいね。中身もイケメンだわ』
「え、あ、ありがとう。
ああ。色々とチャレンジできる事は、今からでもやってみるといいんじゃないか」
『そうね。そうしてみるわ。
じゃ、おやすみなさい』
「おやすみ」
電話を切り、真秀はそれをしばらく眺めてから頭を抱えた。
「いいよって何!?もっと他に言う事無かったのか、俺!」
レインがそんな真秀を見上げて、
「にゃあん」
と鳴いた。
電話の内容を霙は空に話した。
「だから、もう少し考えて、チャレンジしてみる!」
「そう」
「お風呂入って来ようっと!」
鼻歌を歌いながらバスルームに行く霙を見送って、空と川田夫人は言った。
「真秀君に褒められてご機嫌ね」
「すぐに長所が出て来るって、霙、愛されてるわねえ」
「うふふ。いっそ、すぐに結婚しちゃえばいいんじゃない?」
「それだとあちらは学生結婚になっちゃうけど、いいのかしら?」
「それより、お父さんが、泣くかも」
2人は顔を見合わせてふふふと笑った。
「お姉ちゃん。今からでも東大法学部に入る方法ってある?」
空はポカンとした顔を霙に向け、溜め息をついた。
「真秀君と同じところに通いたいってところね」
「な、んで、それを」
「それ以外に何があるって言うのよ」
即答され、霙は黙った。
「うちの経済力じゃ裏口入学も無理だし、国立大学じゃそもそも裏口が難しそうだしね。自力でどうこうって言ったって、現実的には無理と言ってもいいでしょ」
あっさりとしたものだ。
「一緒にいたいのはわかるけど、学校が別でもいいでしょ?」
霙はううむと唸る。
「まあね、それはそうなんだけど」
「あんたの長所を伸ばしなさいよ。夢とかないの?将来何になりたかったの」
そう言われて、霙は考えた。
小さい頃は、ケーキ屋さんだった。しかし、ケーキ屋さんになっても、毎日ケーキが食べ放題というわけではないと分かり、手先の器用な方でもないと自覚したため、熱はさめた。
次にいいなと思ったのはプロテニスプレイヤーだ。しかし、自分以上の人間がごろごろいるので、無理だと早々に諦めた。
中学に入って憧れたのは、教師だった。しかし、いじめや不登校、素行不良の生徒の指導で疲弊する教師を見て、自分には無理だと悟った。
そして高校ではサバイバルゲームを始め、熱中し、将来の希望とかは考えた事は無かった。どこか受かった会社でOLでもするんだろうな、と思って来た。
自分には何も無い事に、霙は愕然とした。
「好きなものは、サバゲー。でも、サバゲーで暮らせるとか、役に立つなんてないでしょ」
「そうねえ。警察の特殊部隊なら役に立つかも。あと、陸上自衛隊とか」
「女子はそういう部署に就けないんじゃなかったかな」
「じっくり考えてみるのもいいんじゃない?夏休みを超えたら流石にそんな事は言ってられないからね」
「うん」
霙は自室に入り、相談してみる事にした。
「霙の長所?
正義感が強い所とか、弱い者に優しい所。あとは、責任感が強いし、友達思いだ」
真秀は、突然霙が深刻そうな声音で電話をして来たのに驚きながらそう言った。
「何かあったのか?」
『うん?そうじゃないけど、進路でね、ちょっと迷ってて』
「ふうん。
興味のある事とかは?サバイバルゲームか。それ以外にあるか?」
『食べる事!体を動かすのも好きだし』
「調理、家政科、体育大学なんてのもあるんじゃないか。
得意教科と不得意強化は?」
『化学と物理と数学と英語は嫌いだわ。定期テストをどうにかやり過ごしてるだけね。好きな科目は、体育と現国と地理かな』
言い難そうに霙が言う。
『何となく、学校を出て、どこかの会社のOLやって、くらいにしか考えてなかったのよ。情けない』
「そうやって今真剣に考えてるじゃないか」
真秀は笑い、霙もほっとしたように笑った。
『ありがとう。もう少し考えてみる。
へへ。長所なんて思い当たらなかったから。ありがとう、真秀』
「いや。霙は、その、いいよ」
『ふふ。真秀は、かっこいいね。中身もイケメンだわ』
「え、あ、ありがとう。
ああ。色々とチャレンジできる事は、今からでもやってみるといいんじゃないか」
『そうね。そうしてみるわ。
じゃ、おやすみなさい』
「おやすみ」
電話を切り、真秀はそれをしばらく眺めてから頭を抱えた。
「いいよって何!?もっと他に言う事無かったのか、俺!」
レインがそんな真秀を見上げて、
「にゃあん」
と鳴いた。
電話の内容を霙は空に話した。
「だから、もう少し考えて、チャレンジしてみる!」
「そう」
「お風呂入って来ようっと!」
鼻歌を歌いながらバスルームに行く霙を見送って、空と川田夫人は言った。
「真秀君に褒められてご機嫌ね」
「すぐに長所が出て来るって、霙、愛されてるわねえ」
「うふふ。いっそ、すぐに結婚しちゃえばいいんじゃない?」
「それだとあちらは学生結婚になっちゃうけど、いいのかしら?」
「それより、お父さんが、泣くかも」
2人は顔を見合わせてふふふと笑った。
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