嘘つきは恋人の始まり

JUN

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「僕の弟の話はした事があったよね」
 村上は話し出した。
 真秀が聞いていた通りの、落ち着いて温和な印象の話し方だ。
「ええ。病気で、小学生の頃に亡くなったって」
「そうなんだ。当時は治療法もわからない難病でね。薬なんて当然なかった。
 まだ小さいのに、苦しんで、怖がって、最後は諦めて。俺達家族も、何でこいつなんだって泣いたよ。
 弟が死んで1年経った頃だったな。その病気の画期的な薬ができたんだ。1年だぞ。あと1年早く薬ができていれば、死なずに済んだのにって。悲しいやら、悔しいやらでさ。
 その時思ったんだ。苦しんでいる人の為に、何かしたいって。
 とはいえ、医者になるほど頭も良くないし、成績で進学先も決めたようなもので、何となくここまで来てしまって。
 でも、聞いたんだ。プラントハンターの仕事を。薬の原材料になりそうな植物を探す仕事なんだけどな。
 このまま何の関係もない会社でサラリーマンをして、俺は納得できるのかって。そうして死ぬ時、良しと思えるのかって。
 今頃こんな事を言い出すのがどうかしてるのはわかってるよ。でも、このまじゃあ先に進めないって思ったんだよ」
 皆、思った以上の重い話に、シンとしていた。
 その中で、空が訊く。
「で、アマゾンに行って、どうしたの」
「無理を言って、同行させてもらったんだ。この道に進みたいけど、どういうものか、少しでも経験させてほしいって土下座して。
 そうしたら、今から出発するから、それで来られるならって言われて、付いて行ったんだよ。
 いやあ、大変だったよ。甘いもんじゃなかった。
 でも、俺はやりたいと思った。
 空。だめかな。俺は、夢を追ったら、だめかな」
 皆が黙って空の答えを待つ中、空は溜め息をついた。
「しょうがないわねえ。もう」
「空!」
「弟さんみたいに苦しんでいる人を守りたいんでしょ。いいわよ。
 で、私とこの子はどうしよう?」
 村上は、喜びの笑顔から、キョトンとした顔になった。
「この子?」
 そして部屋を見廻し、見た事のない真秀に気付いて、「この子か?」という顔をするので、真秀は首を横に振っておいた。
「昨日わかったんだけど。2ヶ月だって」
「――!!」
「嫌なら、私1人で育てるから別にいいけど」
「いいわけないだろ!!」
 村上は怒ったように言って、すっくと立ちあがると、空のお腹に、恐々手を伸ばした。
「俺が、父親?はは。どうしよう」
 皆に緊張が走る。
 が、
「嬉しすぎて、言葉が、思い付かない」
と村上が泣き出すのを見て、肩の力を抜いた。
 そして村上は川田氏の前に居住まいを正して座ると、頭を下げた。
「お嬢さんを、下さい」
 そして、川田氏も川田夫人も空も霙も泣き出して、殴る事もフルオートもなく、空と村上の結婚が決まった。

 







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